表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現実は、台本通りになんてならない〜中学時代に書いた黒歴史物語の世界に来てしまった話〜  作者: 瑠美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/55

第48話 何者

 魔法使いのもとへ向かうその日、空はどこまでも澄み渡っていたが、その青さとは裏腹に、エリカの胸の奥には拭いきれない不安が静かに広がっていた。


屋敷の前に用意された馬車に乗り込むと、向かいに座ったリリアーナが興味深そうに身を乗り出してくる。


「ねえ、エリカ。魔法使いってどんな方なの?」

その問いかけに、エリカは少しだけ考えるように視線を落とし、それからゆっくりと言葉を選ぶように口を開いた。

「未来を読むことができる方、です。ただそれは変えるものじゃなくて、物語として把握するだけみたいで。だから、未来を直接どうこうすることはできないって聞いています。」

「未来を物語として…。」

 リリアーナはその言葉を繰り返し、小さく考え込むように視線を揺らした。その横でアルベルトが静かに口を挟む。

「魔法使いは、この国でも滅多に会えない存在だ。会いたくても居場所が分からなかったり、訪ねても不在だったりすることがほとんどで、実際に会えたという話自体が珍しい。」

その言葉に、エリカは思わず苦笑する。

「じゃあ、私かなり運がよかったんですね。二回とも普通に会えてましたけど。」

「普通にと言っている時点で異常だな。」

アルベルトが淡々と返すと、リリアーナも小さく頷いた。

「本当にね。今日は会えるかしら。」

その一言に、馬車の中の空気がわずかに静まる。

(もし、会えなかったら……)

エリカは無意識に膝の上で手を握りしめた。黒い影、ノートの断片、そしてエリカ自身の転生。すべての答えに近づけるかもしれない機会を、逃すわけにはいかない。


 そんな張り詰めた空気を和らげるように、リリアーナがふと話題を変えた。

「そういえば、日本のお話、もっと聞かせてくれない?」

「あ、日本ですか?」

エリカは少し驚きながらも、どこか懐かしさを感じて表情を緩める。

「はい。えっと、この世界みたいな貴族制度はなくて、もっと平等で。食べ物も全然違いますし、建物も高くて……。」

言葉を重ねるうちに、自然と記憶が蘇ってくる。夜の街の明かり、忙しなく行き交う人々、コンビニの匂い、スマートフォンの光。

そのひとつひとつが、もう遠い世界のもののようにも感じられた。


「面白いわ。まるで別の物語みたい。」

リリアーナは純粋に楽しそうに微笑み、アルベルトも静かに耳を傾けていた。


 そんな穏やかな時間を過ごしているうちに、馬車はゆっくりと速度を落とし、やがて目的地へと到着する。

扉が開かれ、外に出た瞬間。

エリカは思わず足を止めた。


「……あ。」

そこには、すでに一人の人物が立っていた。

濃紺の髪を風に揺らしながら、どこか余裕のある表情でこちらを見ている男――レオンだった。

「どうも。」

軽く手を上げるようにして、いつもの調子で微笑む。

「待ったか?」

「いや、ちょうど今着いたところだよ。」

アルベルトの問いに答えたレオンは、視線をゆっくりと周囲へと巡らせた。その仕草は、ただ景色を見ているというよりも、何かを確認しているようにも見える。2人はいつの間にか敬語で話す間柄ではなくなっていたらしい。


 ふと、レオンは小さく息を吐くようにして言った。

「しかし、もしかしてとは思いましたけど。」

その声は穏やかだったが、どこか確信を含んでいた。

「やっぱり、ここだったんですね、」

その言葉に、リリアーナが静かに頷く。

「ええ。私も、そう感じていたわ。」

二人の間で交わされる、どこか意味深なやり取り。

それを聞いたエリカは、思わず首をかしげた。

「え、ご存じだったんですか?」

思わずリリアーナの方へと問いかけると、彼女は少しだけ迷うように視線を伏せ、それから静かに口を開いた。

「ええ。ここは私の母が所有している離れよ。」

「リリアーナ様の……?」

「と言っても、来たのは初めて。母はここに誰も近づけず、1人で仕事をしたいときにこっそり使っていると聞いていたから。」

この場所は、エリカが知る限り魔法使いの家でしかなく、それ以上の設定は、エリカの物語にはなかった。まさかリリアーナの母親が魔法使いだったとは。

一方で、レオンはそんな二人の会話を興味深そうに眺めながら、わずかに目を細める。

「なんだか、いろいろ面白いことが判明しそうですね。」

その一言は、軽く聞こえるのに妙に重かった。


 風が、静かに木々を揺らす。誰もいないはずの屋敷の前で、四人はしばし無言のまま立ち尽くす。

まるで、この扉の向こうにあるものが、何かの答えであるかのように。


そして、エリカはゆっくりと息を吸い込んだ。

(ここで、何かが繋がるかもしれない。)

胸の鼓動が、はっきりと速くなる。

「行きましょうか。」

リリアーナのその一言を合図に、四人は同時に扉へと向かって歩き出した。

まるで、それぞれが異なる理由を胸に抱えながら、同じ真実へと引き寄せられていくように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ