三章⑤
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御影圭という男は、ヴァンパイアと人間の間に生まれた子供だ。父と同じヴァンパイアの力を持ちながらも、母の人間の血のおかげで吸血衝動は少なかった。
圭はヴァンパイアと人間の良いところを持ち合わせた、素晴らしい種族と言えた。
『父上。母上』
圭は優秀な子だった。
『騎士団に入りたいです。父上。母上』
弱きを守り、受け継いだ力を世のために使おうとする、心優しい子だった。
だが、転機が訪れた。
『ちち、うえ……?』
父が病死したあと、圭の状況はひどく変わった。
『来ないで、圭』
母は父の死により狂い始めた。父に似た面影を持つ圭を、母は恐れた。また自分をおいて一人にするのではないかと思うと、怖かった。
『母上……?』
幼い圭にはわからなかった。母はあまり喋らない人だったため、圭は母の気持ちがわからなかった。
『どうして、一人にするんですか……?』
拒絶されたことへの悲哀と、それが今後も続くと考えた時の恐怖、そしてーー吸血衝動で、圭は日常を壊してしまった。
『圭! 圭やめて! やめて!!』
圭は母から吸血した。母は何度もやめてほしいと懇願するも、圭は吸血衝動で欲を抑えられなかった。まだ幼子だったこともある。だが、それだけでは済まされないことを、圭はしてしまった。
『ばけもの……』
恐怖を映した母の瞳を、圭は鮮明に覚えている。
母との記憶は、そこで終わっている。
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(ごしゅじんさま……)
明梨は圭が眠った後も、そばにいた。圭はうなされていた。明梨は圭が心配だった。だが、夢をどうこうする力を明梨は持っていない。
(どうしてそんなにくるしそうなの? ごしゅじんさまはなにをみているの? わたしには、わからない)
明梨は圭の頭を撫でる。本来なら不敬だが、眠る前の圭の反応を見て、こうすると落ち着くのだと学習した。
「ごしゅじんさまのこと、もっとしりたいです……」
主人を知ることは、果たして叶うのだろうか。
主人を知ることは、犯しては行けないタブーなのだろうか。
それを明梨は、まだ知らない。




