二章⑥
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「ごしゅじんさま……っ」
朝食の時間に明梨はやってきた。
「どうしたんだ、明梨」
「あの、わたし、もしかして……」
「ああ、昨日のことか。よく眠れていたようでよかったよ」
圭にとってはさほど重要なことではない。
(幼児は寝るのが仕事だと言うしな。疲れたいたんだろう)
と、普通のことだと思っているのだが……。
「ほんとうに、もうしわけございませんでしたっ」
明梨にとっては重要なことだった。
「わたしは、ぶらっどどーるなのに……」
「明梨」
「! はい」
「そんなに落ち込まなくていい」
「っ……」
それでも申し訳なさでいっぱいの明梨に、白百合が声をかけた。
「明梨様。あるじ様がそう言っているのです。さ、朝食にしましょう」
「しらゆりさま……」
「そうそう。旦那の反応をいちいち気にしてるとあっという間に時間が……」
「こ、う、しゅ、う?」
「そ、そんな顔すんなって白百合。冗談だよ、冗談」
苦笑いを浮かべる紅秋と、疑いの目で見る白百合。
「明梨、おいで」
「! はい」
圭に呼ばれて行くと、明梨は頭を優しく撫でられた。
「ごしゅじんさま……?」
「元気そうでよかった」
「?」
圭の言うことはよくわからなかったが、撫でられるのは嬉しかった。
(へんなごしゅじんさま)
すると圭が明梨を抱き上げる。明梨はなんとなく察した。
「きゅうけつですね」
「いや、違うが」
「!?」
吸血されるかと思っていたので明梨はびっくりする。
「……そんなに血が欲しそうに見えるか?」
「ぁ、えっと、そうじゃないです」
吸血する時は距離を縮めなければならないから、吸血されるかと思ったのだ。
「こうして撫でる方が、怖がらないかと思ったんだ」
「こわ、がる……?」
「ああ。上から見下されているように感じたら嫌だと思って」
「みくだす……」
そんなふうには感じなかった。むしろーー
「うれしかった、です」
「! 感情がわかるのか?」
「っ、えっと……よく、わからないけど、たぶん、うれしいっておもいました」
「そう、か」
だが、大きな進歩だと圭は思った。
「…………て……い」
「ん? なんか言ったか?」
「っ、いえ、なにも」
明梨が何かをつぶやいたように聞こえたが、否定されたのでそれ以上何も考えないことにした。
「明梨。私は仕事に行かなければならない」
「!」
「ちゃんと帰ってくる。だから待っていてくれるか?」
「もちろんです。わたしはぶらっどどーるですから」
明梨はそう言うと、圭の膝から降りた。
「おしごとがんばってください。ごしゅじんさま」
「ああ。……白百合、頼んだぞ」
「はい」
「紅秋は私と来い」
「へーい」
圭は白百合から外套を受け取り、紅秋から刀剣をもらう。西洋に染まりつつあるここ、大和の安全を守る騎士団の制服を身に纏い、帽子をつけ、害をなすものを討伐する剣を握り、外へと出た。
御影圭。
職業、大和国騎士団第二部隊隊長。
「では行ってくる」
「いってらっしゃいませ、あるじ様」
「いってらっしゃいませ、ごしゅじんさま」
二人の式神と一人のブラッドドールを持つ、ヴァンパイアであった。




