二章⑤
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『本当に君の血はうまいな、●●』
圭の一つ前の少女の主人が、少女の血を誉めた。
美食家のヴァンパイアだった。
『ごしゅじん、さま』
一度に飲む量が多かったその主人に、少女は警告した。
その主人が現れるのは、いつも吸血する時だけだった。
『そんなにのまれ、ると、すぐになく、なっ、てしまい、ます』
『君の血かい? それとも、君の命かい?』
『ど、ちら、も、です』
輸血よりも吸血を好んでいた主人は、一日に何度も少女の血を飲んだ。その回数に、一度の量に、少女は耐えられそうになかった。
自分のこともあったし、主人のことも考えて、少女は言った。
『きゅう、けつする、の、やめて、くだ、さい……っ』
自分が死ねば主人の食事がなくなる。
だから、少女は淡い期待を抱いていた。
ーーきっと自分を、大切にしてくれると。
『ブラッドドールのくせに、ヴァンパイアに歯向かうんだ』
『!? そうい、う、ことじゃな……、っ!』
首元の近くの皮膚に強い衝撃が走る。噛まれていると気づいたが、その時にはもう遅かった。
『ごしゅじ、さま、ごしゅんじん、さま……っ』
『これはお仕置きだ、●●』
『いっ……あっ、うっ……』
『僕の言うことを聞け。命令だ。何も考えず、主人のために従え……!』
前の主人との記憶はそこで終わった。少女は大量に血を吸われ、意識を失った。事に気づいたブラッドドール育成に関わる管理者によって少女は保護され、前の主人は謹慎を言い渡された。
少女は今、新たな主人ーー圭のブラッドドールとして生きている。
「…………」
少女の目が開く。
『今日から君は明梨だ』
少女は自分が新たな名前を与えられたことを思い出した。
少女ーー明梨はベッドから起き上がる。
「……ごしゅじんさまのところ、いかないと」
圭は一つ勘違いをしている。
ブラッドドールはヴァンパイアに忠実に従うよう育成されるが、決して感情をなくすようなことはしない。一人の人間として生きられるよう、教育される。
明梨が感情を持っていないのは……いや、正確には感情をなくしてしまったのは、前の主人に奪われてしまったからだ。
(ごめんなさい、ごめんなさい……)
拙い話し方になったのも、人形のようになってしまったのも、すべて、すべてーー。
(すてないで、ごしゅじんさま)
明梨には何人か主人がいた。その中で一番ひどいことをしたのが圭の前の主人で、一番優しかったのが圭だった。
(ひとりにしないで、ごしゅじんさま)
優しさを知ってしまった少女・明梨は、圭を強く求め、そばにいたいと思った。




