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神速の騎士王  作者: 天月 能
3章 大剣魔学院祭『ウラノメトリア』
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No.43:覚悟

 騎士団に入って間もない頃ランスロットが稽古をつけてくれていた。けれど勝つことはなく幾度となく負け続けた。1本取ることも未だできていない。

 入団から1年ほど経ったある日ランスロットが稽古に誘ってくれた。しかしその日初めてランスロットからの誘いを断った。自分のプライドがこれ以上同じ相手に1本も取れず負けることが許さなかった。次の日も、また次の日も断った。そんなことが1週間続いた。ランスロットも察したのかこれ以上誘ってくることはなかった。さらに逃げ続けたのか次第に剣も太刀筋も逃げていった。それからは兼続を除いて互角に渡り合えるユリエルとしか戦っていない。いい勝負ができる、これなら自分のプライドが許せた。熱い戦いの果てに掴んだ勝利。それは逃げた結果から生まれた勝利とも気づかずに。しかし大和国で伊三郎に言われ気付かされた。今回の戦いは逃げてきた自分への清算。皇帝の前ということはある意味では公式戦でもあった。

 準備のため一度控え室に戻ろうとした。廊下を歩いていると実兄のケイに会った。


「おう、アーサー。言われてたやつ部屋に置いておいたぞ」


「ありがとうございます、お兄様」


「なぁ、アーサー。本当に強くなったな」


「いきなり何ですか。あんな変人の山の中にいると嫌でも強くなりますよ」


「あはは、そうかそうか。……後は何も言わないでおく。頑張れよ」


「頑張ります、おにい……、いや、兄さん頑張ってくるよ。見てて、俺の姿」


「あぁ、しっかり家族みんなで見てる」


兄ケイとアーサーのお互いの拳を合わせて笑顔で見送った。


「兄さんか……」


ケイは廊下を出て家族のいる観客席へと戻っていった。

 控え室に入るとケイに頼んでいたアーサーの鎧が置かれていた。普段は使わないが国の祭りや他国の王を招いた時などに着ている。アーサーは付き添いでこの国の兵士に手伝ってもらいその鎧を身に纏い部屋を後にした。


『さぁ、ついに始まった騎士団員VS騎士団員! こんなの滅多に見られない試合だからしっかり目に焼き付けないと勿体ないぜ。じゃあ早速第1ゲートから現れますは湖の騎士、No.4ランスロット・エヴァンス!』


登場とともに物凄い歓声が会場に響き渡った。


『おっと、これは凄い歓声だ。さすがランスロット。では第2ゲート、学院生にして騎士団員、神速の騎士王No.30アーサー・アルカディア!』


こちらもランスロットに負けない歓声、主に女性の高い声が響きわたる。


「ちゃんと、鎧を身に着けてきたな」


「陛下の御前なんで」


『じゃあ、始めようか! ランスロットVSアーサーの試合を開始する!』


スタートのコールが響く共にアーサーは神速を使い一気に間を詰めた。剣と剣が交差し金属音が鳴る。しかしどんなに詰めても自分の間合いをしっかり取るランスロット相手に攻めきれていない。間合い、足運び、剣技の全てが完璧だ。


「風よ!」


アーサーは風の魔法を剣に纏わせ威力を上げる。いざという時は暴発させて吹き飛ばすこともできる。さらに激しい剣戟が行われた。

 埒があかないと思ったランスロットは距離をとった。アーサーはまた間合いを詰めようと神速を使おうとするとランスロットの魔力が異常なほど上昇した。それと同時に会場のゲートも閉じた。


「悪いな、アーサー。これで終わってもらう。水よ、洗い流し災害をもたらせ、全てを清算し何も残らぬ大地を見せよ。アクア・アッルヴィオーネ!」


ランスロットが使用した魔術により大量の水が発生し津波のごとくアーサーを飲み込んだ。風の魔法で水面まで上がり空中を飛んだ。見ると観客席ギリギリのところまで水が浸り湖のようなものができた。アーサーも知らないランスロットの魔術に圧倒された。驚愕し動きが止まっていた。ランスロットはそこを狙いアーサーに思いっきり剣を振りまた水の中に入っていった。水から顔を出すと水面に立つランスロットがいる。魔力を足に留めることによってできる水面歩行。これができるのは魔神の力を行使したダリウス、ランスロット、椛とその師だけだ。


「どうしたアーサー、これで終わりか」


こんなのどう対処すればいいかわからない。たとえ火の魔術で水を蒸発できたとしても全てを蒸発させるのは無理だ。できた頃には魔力切れは免れない。なら使わずにこの状態で戦うのが一番いいと考えるが……。


「すまない、やりすぎたようだ」


ランスロットは指を鳴らすと水はみるみるなくなり元の状態に戻った。しかし休んでいる暇ない。すぐに神速で速攻をかけた。だが速攻は通じない。さらにさっきと違うのはランスロットの剣の一撃がかなり重い。エンチャントした雰囲気もない。にも関わらず剣を持つ手が痺れそうだ。


「何を、した」


「これを知っているのは団長だけだ。私はアーサーと同様に特殊体質を持っている。名は『水の加護』。ほんの僅かな水たまりであっても自信が触れているなら身体能力の向上及び傷の修復をするものだ」


なるほどランスロットの動きも良くなっているわけだ。アーサーはその動きについていけず鎧を部分的に破壊され、さらに顔に傷を負った。

 アーサーが振り下ろした剣が躱された。ランスロットは後ろに回り込んでアーサーの背中を剣で振り下ろした。それは鎧はおろか皮膚まで到達した。痛みを我慢し後ろを振り向いて振り切ったがまた躱される。アーサーは振り向いた瞬間ランスロットは拳にエンチャントを施しアーサーの腹を殴った。鎧は派手に壊れ、アーサーは飛ばされた。


「アーサー、1つ聞かせてほしい。なぜ私を選んだ。ユリエルとなら互角に渡り合い、良い試合になったことだろう。こんな静寂なことになりはしなかった。最後を飾るには少し物足りん。なぜだ。教えろ、アーサー」


「別に俺、観客のためとか生徒のためとかで戦ってない。俺は俺のため、貴方から逃げてきた自分を清算するために、やってる」


アーサーは痛む体をゆっくり起こしランスロットに剣先を向けた。


「そのためなら自分の全力を出して死ぬ気で貴方に勝つ! そして逃げてきた自分と決別する! それがこの戦いの意味だ! 故にランスロット、本気で戦わないと死ぬぞ」


「なるほど。その闘志、その覚悟、しかと受け取った。故にアーサー、お前の全力を私にぶつけなさい。全力を持って私はお前をねじ伏せよう!」


体中が痛い。殴られた腹はジンジンと痛む。胴体の鎧はほとんど壊されインナーが見えている。痛いし怖いけれど心のどこか嬉しくも感じる。ランスロットが自分の気持ちに応えてくれた。それだけでも今回の戦いはアーサーにとって十分だった。けれど戦いは戦い。全力で応えてくれたなら全力で立ち向かう。アーサーの本当の戦いはここから始まった。



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