よりみち:初恋節分絵巻
2月3日節分というわけで今から1年前の初と翔鶴の節分の日の話です。本編ではないのでご了承ください。
節分、それは季節の変わり目には邪気が生じるとされそれを追い払うための悪霊ばらいの行事。もちろん大和国でも行われる。しかし家単位で行われず国単位で行われる。
鬼の力を持つ者は伊三郎と初だけではない。国民の中にも少しばかりいる。そもそも鬼は昔から忌み嫌われる存在だったが現将軍がその風習を少しでも緩和すべく行われたのがこの大和国での節分だ。これの効果は絶大で今では鬼だからと嫌われることはなくなりむしろこの一大行事での主役とされ自ら鬼の覆面や衣装を着て参加するまでになった。初の場合角が出ないため鉢巻に角を取り付けそれを使う。伊三郎は鬼の力を封印しているため初と同じようにする。
準備ができると鬼役は国中を歩き回り豆を投げられる。小さい子は泣いてしまうこともあるがそうして邪気を払う。そして伊三郎たちも準備できた。
「初や、早く行くぞ」
「おじいちゃん、先行ってて」
伊三郎は先に行き初は北篠弓道場へと向かった。
扉を開けと矢を射っている翔鶴がいた。いつも通り矢を射う姿は美しい。初は「よし」と気合をいれ翔鶴の前に出た。
「誰……って初か。何の用だ」
「翔鶴様、今日は節分の日です。さあ! 思う存分豆を私にぶつけてください。翔鶴様の邪気この初がすべて受け止めます。そのついでに愛の矢を!」
「面倒くさいからあっちいけ。鬼役なんだからこんな所来る前に他から豆もらえ」
「翔鶴様から貰えない限りここから動きませんよ。1番は翔鶴様出ないと」
「面倒くせぇ」
翔鶴は豆を手に取り軽く投げ初の足元に落ちた。そして翔鶴は弓道場から出て行った。初は翔鶴から貰った豆を拾い目を輝かせながら喜んだ。
初が町に出るともう豆まきが始まっている。傍では鬼と一緒に酒を飲んでいる人もいる。国中がお祭り騒ぎだ。
「さて私も鬼になろうかな」
初は主に小さい子供から豆を投げられる。よく町に出ては子供の相手をよくしているからだ。知ってる子には話しかけられたりしている。もちろん子供だけでなく大人にも投げられる。これもまた町に出ては厳つい男性とともに腕相撲や力比べをよくしている。今回の節分も例外なく腕相撲大会が開かれてる。
町を歩いていると酒の飲み過ぎで酔い迷惑をかける人もいる。雷皇としてそういう人を取り締まるのも役目の1つ。鮮やかに技を決め取り押さえる。
また歩き出した。歩いていると偶然翔鶴と出会った。これはチャンスと思い翔鶴に近寄った。
「翔鶴様、こんなところに出くわすとは運命ですね。さぁ町を散歩しましょう」
「1人で行かせてくれねーかな」
「良いではありませんか。今日くらい」
「今日だけだぞ」
「はい、なんなら一生このままでも」
「却下する」
町を歩きまわっているとあっという間に夜になる。といっても酒を飲むことには変わりないのだが。初と翔鶴も酒屋に行きお酒を飲んでいる。
「美味しいお酒ですね」
「ここは最初から最後まで丁寧に作られているからな」
「こうして夜の町で翔鶴様と共にお酒を飲めるなんて思いませんでした」
「元はと言えばお前から無理やり誘っただろう」
「そうですね。……私はとても幸せです。翔鶴様はどうですか?」
「普通だ」
「普通ですか。ならいつもより進展しましたね」
しばし沈黙が続いた。夜空を見上げながら酒を飲む。沈黙の中翔鶴は口を開いた。
「初、なんで俺のことをそんなに気にかける。俺はお前に何もしていない。そこまで執着することなんてないはずだ」
「確かに翔鶴様と出会ったあの日は最悪な出会いです。でもその時見た翔鶴様の矢を射る姿が格好良く見えたんです。普段めんどくさそうになのに矢を射る時はあんなに真剣になって……あんなの見たら惚れてしまいますよ」
翔鶴は初のその言葉に少し赤面した。初もそれに気づきクスッと笑った。夜で月の光のせいなのか酒を飲んで少し酔っている初はいつもより色気があり大人びた雰囲気だ。
「初、悪いけど俺は色恋沙汰は興味ない。矢を射れればそれでいい」
「知っています。だから私は振り向かせたい。翔鶴様の気持ちが少しでも私に向くように頑張っています。なので少しは反応してほしいです」
いつも冷静な翔鶴だが今日は調子が狂う。こんな気持ちになったことはないしこれからもずっとないだろう。けれど今日は何か少し違った。初が微笑んでいるがそこには涙も浮かべている。
「あぁ、努力はする」
「はい、私も努力します」
これは節分の日の話。翔鶴が初めて初に応えた日だった。それからの生活は特に変わりはない。いつも通り矢を射る。いつも通り腕相撲をする。何も変わらないが少しは翔鶴が初を見る目が変わったかもしれない。そう、これは倭国事件の1年前の話である。




