第7話:お嬢様からの提案
俺の停学二週間が決まった日の夜。
ピンポーン。
家のインターホンが鳴った。
俺はソファーでスマホをいじるのをやめて立ち上がる。
そして玄関のドアを開けた。
「はーい。」
「新山緋色様ですね。」
「は、はい。って、え?」
ドアの向こうに立っていた人物を見て、俺は固まった。
天堂紫苑。
俺たちの学校で知らない人はいないだろう。
いや、日本で知らない人はいないかもしれない。
超巨大財閥、天堂グループの次期当主。
そんな人がなぜか俺の家の前に立っていた。
「な、何故あなたがここに?」
「貴方をスカウトしに来ました。」
「ス、スカウト?」
なんのスカウトだ?
というか、なんで俺なんだ?
「新山様はかなり強いご様子で。」
「強い?」
俺は首を傾げる。
「えっと……なんのことでしょうか? 俺はただの陰キャで――。」
「今日の放課後、校舎裏で面白いものが見られまして。」
「……!? 今日の放課後の校舎裏って!」
見られていたのか?
いつから?
どこまで?
「はい。たまたま最初から最後まで見てしまったのです。なかなか面白かったですよ。」
あー。
まさか見られているとは。
「見られていたのはわかりました。でも、それがどうして天堂さんが俺の家に来ることに繋がるんですか?」
「だから言ったはずです。スカウトしに来たのです。」
「強いからスカウト? ボディガードとかですか?」
「違います。」
紫苑さんは即答した。
「メイドです。」
「め、メイド?」
意味がわからない。
「申し訳ありませんがお断りします。」
「何故ですか?」
「何故って……俺は男ですよ。メイドなんて――。」
「でも女装はするじゃないですか。」
「な、なぜそれを?」
「わたくしの家は警察にも伝手がありますので。先日の事件についても調べさせていただきました。」
「あ、あれは仕方なくしただけです。」
「では、貴方が乗り気になる話をして差し上げます。」
「乗り気になる話?」
「はい。」
紫苑さんは微笑んだ。
その笑顔が妙に怖い。
「貴方が今回やったことを広まらないようにして差し上げます。」
「……! それって。」
「はい。二週間だけで構いません。貴方が私のメイドになってくださるなら、今回の件は私と貴方。そして貴方にやられた男子生徒たちと東條彩乃。後は先生方ですね。これ以上広まる事はないでしょう。」
「……。」
「貴方がこの話を受けてくださるのならですが。」
最高の条件だった。
これ以上ないくらいに。
これなら俺の平穏な学校生活はギリギリ守られる。
「受けます。」
即答だった。
まあ、メイドなんて適当にやればいいだろう。
「よかったです。」
紫苑さんが満足そうに微笑む。
「貴方の処分を変えた甲斐がありました。」
「……? 処分を変えた?」
「はい。」
紫苑さんは当然のように答えた。
「貴方、あのままだと退学でしたので。」
「はは……マジですか。」
思わず乾いた笑いが漏れる。
「でも、納得です。どうりで話を聞いてもらえなかった割には軽いと思いましたよ。」
「これで少しはやる気が出ましたか?」
「はい。そうですね。」
俺は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。お嬢様。」
「恩を感じてくださるなら、この二週間は本気で働いてくださいね。」
メイド。
正直、適当にやるつもりだった。
だが、借りがあるなら話は別だ。
「はい!」
俺は拳を握り締める。
「メイドに対するやる気がみなぎってきました。」
◇◇◇
そして、現在。
俺は正座していた。
「お嬢様。」
「なんですか?」
「これはどこで拾ってきたのですか?」
俺の目の前にはメイド服を着た美人が立っていた。
そして、その後ろには優雅に椅子へ座る紫苑さん。
「……学校からです。」
紫苑さんが視線を逸らしながら答える。
メイドさんは深いため息を吐いた。
「戻してきてください。」
「え?」
「こんな無能、天堂家のメイドにふさわしくありません。」
「ちょっと!?」
メイド服の女性が叫ぶ。
俺は真顔だった。
どうしてこうなった?
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