第6話:圧倒
二週間後。
俺は東條さんを助けられたことで、少し調子に乗っていたのだろう。
だから――。
こんなことになってしまったのかもしれない。
俺を囲むのは数人の男子生徒。
「お前最近、彩乃のこと見過ぎだよ。」
俺を囲んでいる男の1人がそう言った。
どうやら俺が最近東條さんを見ていたのが気に食わなかったらしい。
「だから一回、お前の立場をわからせてやろうと思ってよ。」
男子の1人が殴りかかってくる。
「オラ!」
俺の危機察知は反応している。
だが、ここは避けない。
ここで避けたらもっと面倒な事になる。
潔く受けてやろう。
数発殴られ、腹を蹴られ、俺は地面に倒れた。
「二度と彩乃を変な目で見るなよ。」
「俺がそのうち落とすんだからな。」
男の一人がそう言う。
「ははっ。無理だろ。」
「だよな。」
他の男子たちが笑う。
そして、もう一人が吐き捨てるように言った。
「でもさ、彩乃も大したことないよな。」
俺の眉が僅かに動く。
「は?」
「だって結局、顔がいいだけじゃん。」
「それな。」
「ああ、それと男に媚びるの上手いよな。」
「誰にでもニコニコしてるし。」
「勘違いした男何人いるんだろうな。」
笑い声が上がる。
俺は黙って聞いていた。
「しかもさ。」
一人がニヤニヤしながら続けた。
「この前も男とどっか行ってたらしいじゃん。」
「聞いた聞いた。」
「案外軽いんじゃね?」
「清純派ぶってるだけだろ。」
「学園のアイドル(笑)だしな。」
「どうせ顔が良いからチヤホヤされてるだけじゃん。」
「中身なんて空っぽだろ。」
「それな。それにさぁ。」
さらに別の男子が笑う。
「友達思いみたいな顔してるけど、実際は優しい自分に酔ってるだけじゃね?」
「あー、それありそう。」
「人助けごっこ好きそうだもんな。」
「善人アピールだろ。善人アピール。」
「そう考えると結構キツいな。」
「はははは!」
笑い声。
笑い声。
笑い声。
そして最後に――。
「まぁ俺だったら、やることだけやって捨てるけどな。」
その言葉を聞いた瞬間。
俺の中で何かが切れた。
バンッ!
さっきまで俺を殴っていた男が吹っ飛ぶ。
「あー。やっちまった。」
「お、お前何して!?」
「はぁー。」
俺はため息を吐いた。
「俺ってこんなバカだったかな。」
頭を掻きながら立ち上がる。
「まぁ流石に今のはライン越えだ。」
俺は拳を握った。
「お前らが東條さんのことを、もう二度と悪く言えないようにボコボコにしてやるよ。」
「は?お前みたいな雑魚ができるわけないだろ。」
男子の一人が殴りかかってくる。
俺はその拳を躱し、一気に懐へ潜り込んだ。
そして――。
ドンッ。
俺の拳が男の鳩尾にクリーンヒットする。
「一人目。」
男は苦悶の表情を浮かべながら地面へ倒れ込んだ。
「な、なんだよこいつ!」
「雑魚のくせに!」
別の男が上段蹴りを放ってくる。
俺は危機察知で軌道を読み、その場で身を低くした。
蹴りが空を切る。
その瞬間を逃さない。
俺は軸足へ向かって下段蹴りを放った。
ゴッ。
脛に直撃する。
「痛っ!?」
男が悲鳴を上げて体勢を崩す。
だが、まだ終わりじゃない。
今度は背後から別の男が殴りかかってきた。
俺は振り返りながら拳を躱す。
そして伸び切った腕を掴み――。
そのまま背負い投げ。
ドガッ!
「ぐふっ!?」
男は勢いよく地面へ叩きつけられた。
残る一人。
そいつも背後から突っ込んでくる。
単調だな。
俺は半歩横へずれる。
男の拳が空を切る。
そのまま顔面へ肘を叩き込んだ。
ゴッ。
「がっ!?」
男は悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちる。
男達をその後もボコボコにし続けた。
「もう二度と東條さんに近づくな。わかったな?」
男達はもう反抗してこなかった。
怯えながら俺の問いに男達は頷いた。
「……はぁ。」
ため息を吐く。
男子達のこの様子ならもう東條さんに手は出さないだろう。
「おい! そこで何してる!」
先生がこちらへ走って来る。
「あー。やっちまったな。」
◇◇◇
その後、俺は事情を説明した。
だが、当然ながら聞いてもらえなかった。
やり過ぎたからだろう。
結果――。
停学二週間。
話を聞いてもらえなかった割には軽い気もする。
まぁ、今さら気にすることでもないか。
どうせ俺の学校生活は終わるんだから。
「はぁー。やっちまったな。」
「あの!」
帰り道を歩いていると、不意に声をかけられた。
振り返る。
そこにいたのは東條さんだった。
「東條さん?」
彼女は少し怒ったような顔をしていた。
「なんで私の友達を殴ったの?」
ああ。
そう来たか。
確かに事情を知らない人から見ればそうなる。
それに東條さんは友達思いだ。
怒るのも当然だろう。
「えっと……。」
なんて言おう。
本当の理由なんて言えるわけがない。
これ以上、東條さんを傷つけるわけにはいかない。
「ムカついたので。」
「なんでムカついたの?」
追撃が来た。
うーん。
仕方ない。
「東條さんのことが好きで。」
「え?」
「だから東條さんに近づいてるのが気に入らなくて。」
嘘ではない。
東條さんのことは人として好きだ。
ただ、本当の理由でもない。
「……そうなんだ。」
沈黙。
気まずい。
そして東條さんは静かに言った。
「ごめんね。」
「そういう理由で人を殴る人は、私は嫌いかな。」
その言葉は思った以上に俺の胸へと深く突き刺さった。
まぁ当然だ。
正論である。
「はは……そうですよね。」
苦笑する。
これでいい。
本当の理由を知られるわけにはいかない。
「あ、そういえば。」
俺は話題を変えた。
「探していた人は見つかりました?」
「……見つかってない。」
一瞬東條さんの目からハイライトが消えた気が。
いや気のせいだな。
「……そうですか。」
それだけ言って、俺は歩き出す。
俺は内心ホッとしていた。
正体がバレていないことに。
だから気づかなかったのだろう。
少し離れた場所から。
このやり取りを見つめる視線があったことに。
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