第8話メイドのお仕事
何故俺が正座させられているのか。
それを説明するには少し時間を遡る必要がある。
◇◇◇
「でけぇー。」
俺は思わずそんな声を漏らした。
女装を済ませ、メイド服に着替えた俺は天堂家の屋敷の前まで来ていた。
デカい。
とにかくデカい。
普通の家なら千軒くらい入りそうな大きさをしている。
まるで城だ。
俺は驚きながら黒塗りの高級車から降りる。
「ふふ。行きましょうか。」
「は、はい。」
俺は歩きながら、車の中で天堂さんから言われた俺の仕事内容を改めて整理する。
『新山様にしていただきたい仕事は二つです。』
『一つはメイドとして潜入し、内部にいる裏切り者を見つけること。』
『もう一つは外部の攻撃から私を守ることです。』
つまり。
俺は内部と外部の両方を警戒しながら天堂さんを守らなければならない。
俺がメイドになるのは内部への警戒も仕事に含めるためだったらしい。
なかなかハードモードである。
それとメイドとして潜入する以上、メイド業務も頑張らないとな。
そんなことを考えながら屋敷の中を歩いていると。
「そろそろ私の部屋に着きますわ。」
紫苑さんがそう言った。
今の俺は完全にメイド姿だ。
ウィッグよし。
メイクよし。
メイド服よし。
完璧である。
たぶん。
「承知しました。お嬢様。」
「よろしくお願いしますね。」
紫苑さんの前に立つ。
そして扉を開け、お嬢様を中へ通し、静かに扉を閉めた。
「ありがとうございます。」
「いえ。当然のことです。お嬢様。」
部屋を見渡す。
天蓋付きのベッド。
大きな本棚。
執務机。
ソファ。
どれも高そうだ。
俺が壊したら弁償できる気がしない。
そんなことを考えていると、部屋を掃除していた女性がこちらを見た。
「……?」
女性からの鋭い視線。
怖い。
「お嬢様。そのメイドは誰ですか?」
「新しく連れてきましたわ。」
「……。」
また、女性の視線が俺に向く。
怖い。
すごく怖い。
「承知しました。」
女性は一礼した。
「そのメイドには私が仕事を教えます。よろしいですね、お嬢様。」
「はい。問題ないです。。」
「では、そちらのメイド。」
女性が俺を見る。
「自己紹介をしなさい。」
「は、はい。新山彩香です。」
「そう。」
女性は頷いた。
「私はメイド長の柏野楓です。」
メイド長。
なんか怖そう。
というか絶対怖い。
オーラがヤバい。
「これから貴方の上司になります。」
「よ、よろしくお願いします。」
「……はい。」
その間はなんなんだ?
こ、怖いすぎる。
「では早速仕事を教えます。」
「よろしくお願いします。」
◇◇◇
「まずは皿洗いです。」
簡単だな。
余裕だろ。
「食洗機に入れる前に軽く汚れを落としてください。」
「やってみてください。」
「はい。」
俺は自信満々で皿を持った。
そしてスポンジで洗う。
「……あ。」
パリン。
割った。
「……。」
後ろからの視線が怖すぎる。
振り返れない。
「皿洗いは後回しにしましょう。」
◇◇◇
「次は掃除です。」
「この廊下を掃除してください。」
「はい。」
今度こそ大丈夫だ。
そう思った。
数分後。
ガシャーン。
高そうな花瓶を倒して割った。
「……。」
後ろからの視線が痛い。
◇◇◇
「次は本棚の整理です。」
「は、はい。」
これならいける。
そう思った。
数分後。
ドーン。
本棚を倒した。
「……。」
◇◇◇
パリン。
窓ガラスを割った。
◇◇◇
ボン。
洗濯機を壊した。
◇◇◇
ガコン。
掃除機も壊した。
◇◇◇
そして現在。
俺は正座していた。
「お嬢様。」
「なんですか?」
俺の目の前にはメイド長が立っている。
その後ろには優雅に椅子へ座る紫苑さん。
「これはどこで拾ってきたのですか?」
「……学校からです。」
紫苑さんが視線を逸らしながら答える。
メイド長は深いため息を吐いた。
「戻してきてください。」
「え?」
「こんな無能、天堂家のメイドにふさわしくありません。」
「ちょっと!?」
天堂さんが思わず叫ぶ。
だがメイド長は真顔だった。
そして俺も真顔だった。
絶望していたからだ。
俺はこんなに家事ができないのかと。
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