第19話そして、重なって
助けて。
彩香ちゃん――。
「ちょ、ま!? 絶対勢いつけすぎだって!」
「うあーーーーーーーーーーーーーーー!」
いきなりそんな声が聞こえた。
冬馬君がそちらを見る。
「は? ちょ……。」
冬馬君がそんな素っ頓狂な声を出す。
次の瞬間。
冬馬君に横からスーパーのカートが突っ込んできた。
バン!
「痛ーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「傷開くって、これ!」
カートに乗っていた人がそんなことを叫ぶ。
「な、なんでお前が叫んでんだ! 痛いのは――。」
冬馬君がそう言いかけた瞬間。
「オラァ!! 汚い手で東條さんに触れた罰だ!」
その人が冬馬君のあそこを蹴り上げる。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
冬馬君が転がる。
「いっ……痛い! 痛い痛い痛い痛い!!」
既視感のある光景。
きっと一生忘れないであろう、すごくかっこいい背中。
「彩香ちゃん!」
私は彩香ちゃんに抱きつい――。
「緋色!」
誰かが私の前に割り込み、彩香ちゃんに抱きつく。
「は?」
思わずそんな声が漏れる。
その瞬間。
今まで感じたこともないどす黒い感情が、私の中から湧き出してくる。
今すぐ離して。
私の彩香ちゃんなのに。
私に残された最後の大切なものなのに。
私から奪うんだ。
そんなの許さない。
許されるわけがないよね。
そう思った時、あることに気が付く。
「…………? 緋色?」
「そう。」
「新山緋色。」
「…………!?」
いつの間にか隣にいた小柄な少女がそう言う。
「彩香は女装してる時の名前。」
「………………。」
………………。
……………。
…………?
「……え? 新山くんが彩香ちゃんなの!?」
「って、おい! ひより! 何勝手にバラしてんだよ!」
「緋色。うるさい。」
「あと、そこの人。緋色から離れて。緋色は私のもの。」
「は? 何言って――てか、あなたは誰……。」
「って?え?あ、あなたはあの時、緋色を攫っていった人!」
「なんでここに!いやそんな事どうでもいい。」
「あなたの事は絶対に許さない! 私がこの手で必ず報いを――!」
…………。
私を置いて、どんどん話が進んでいく。
でも、そんな事より私は。
私は。
私はなんて事をしてしまったんだろう。
自分を三度も助けてくれた王子様を傷つけて、本当になんて事をしてしまったんだろう。
しかも、告白されたのに振るなんて。
なんて私は馬鹿なんだろう。
……………。
…………。
………。
「東條さん、大丈夫か?」
「緋色くん!?」
……あれ?
「あの二人の女の子は?」
「えっと、あのメイド服の人寝ちゃって。もう一人に違う場所に連れて行ってもらったんだ。東條さんは大丈夫? ……って、大丈夫なわけないよね。あんな目に遭って……。」
「緋色くん。ごめんなさい。」
「え?あ?え?」
涙が勝手に溢れ出す。
「え?なんで泣いて!?え?」
「私、私……。緋色くんを傷つけて。絶対償うから。」
「……? えっと、大丈――。」
「償うから。」
「いや、だ――。」
「償うから。」
「い――。」
「償うから。」
「は、はい。」
「え、えっと、東條さん。もうそろそろ警察が来るはず……。って、東條さん!?」
あれ?
急に意識が遠く……。
◇◇◇
side:新山緋色
「え? 東條さん! 東條さん!」
スー。スー。
「って……寝てる?」
「安心したからかな。」
ただね。
東條さん。
俺に寄りかかりながら寝るのはどうなんだ?
さっきまで男に襲われそうだったのに、無防備じゃないか?
「はぁー。なんでこうなった?」
メイド長は俺に抱きつながらひよりに怒り始めたと思ったら寝るし、東條さんも俺に寄りかかって寝るし、訳が分からない。
俺は枕かなにかなのか?
まぁでも、やっと帰って来られたな。
この街に。
本当は家に帰りたかったんだけど。
はぁー。
一ヶ月ぶりに帰れると思ったのにな。
まぁ、それにしてもこの一ヶ月は大変だった。
俺はこの一ヶ月に何があったのかを思い出し始める。
俺に寄りかかって寝ている美少女、東條さんから気を逸らすために。
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