第17話柏野楓の曇らせ(下)
『新山緋色についての調査報告』
「………………? 新山緋色?」
「なんでしょうか、これ?」
「新山って、彩香と同じ苗字……?」
私はそのことが気になった。
本当はもっと気にするべきことがあったはずなのに。
私はその書類を手に取る。
そして内容を見る。
『新山緋色についての調査報告。
現在手がかりなし。』
書かれていた内容を要約すると、それだけだった。
「…………。まだ下のページがありますね。」
五枚ほどの書類が重なっている。
『手がかりなし。』
『手がかりなし。』
『手がかりなし。』
下の三枚からも読み取れた内容は同じだった。
…………そして。
私は次の書類を見て、内容を理解できなかった。
『調査対象の詳細書類。
名前:新山緋色(新山彩香)
性別:男性(女装して潜入調査中だった)
外見:黒髪黒目、身長172cm
(普段は前髪が目までかかっている)
※女装を解かれている可能性大。
男性の姿での捜索も依頼。
状況:現在、東雲グループまたはその他の天堂グループ敵対勢力に連れ去られたと予想される。』
「…………!?」
私の中に、ある予想が浮かぶ。
私はそれを信じられなかった。
だから、私は事実を確かめるため、直感に従って最後の書類を見る。
『新山緋色の身辺調査。
名前:新山緋色(旧姓:柏野)
性別:男
身長:172cm
体重:60kg
住所:○○○○○○○
現在の家族構成:父、義母、義妹
(父:離婚二回、母:離婚一回)
柏野楓との関係調査結果:義弟
経歴:ほとんどの武道大会で優勝経験あり
※裏面に顔写真あり。 』
私の呼吸は、この書類を見た瞬間に止まっていた。
そして私は、信じられない気持ちのまま裏面を見る。
まだ偶然という可能性も――。
………………。
写真を見た瞬間、私はすべてを理解した。
………………………………。
…………………………。
………………。
「ひゅ。」
とブサイクに息が漏れる。
楓は糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちた。
心臓を氷の手で掴まれたような寒気が全身を駆け巡る。
顔は死人のように青ざめ、わずかに残っていた目の光も完全に消え失せていた。
「うそだ……。」
その言葉が漏れる。
「うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそだ……。」
壊れたラジオのように同じ言葉を繰り返す。
なぜ私があそこまで彩香を可愛く思ったのか。
弟だったから。
似ていたからじゃない。
本人だったから。
なんだ。
本人だったんだ。
こんなにも近くにいたのに。
その弟は、私のせいで――。
もう、この世にいな……。
そう考えた瞬間、喉の奥が跳ねた。
床に胃液をぶちまける。
どろりとした液体が容赦なく溢れ出した。
だが、まともに食事を取っていなかったせいだろう。
すぐに胃の中は空っぽになった。
だが、胃の中は空のはずなのに、痙攣する内臓が酸っぱい液体だけを何度も押し上げてくる。
それでも口から言葉が漏れる。
「いや……」
「いや、いや、いや、いや、いや、いや……。」
やがてそれは悲鳴へと変わった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
声が枯れる。
涙と涎で顔はぐしゃぐしゃだった。
それでも吐き気は止まらず、酸っぱい液体だけを吐き続ける。
どれほどの時間が経ったのだろう。
やがて楓の胸に、一つの願いが芽生える。
今の精神状態の楓に、それを抑える術はなかった。
――弟に会いたい。
その願いだけを胸に。
死人のような顔と、おぼつかない足取りのまま。
楓はどこかへ向かって歩き始めた。
唯一の希望を胸に。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
1日1話20時に投稿します!
好評なら1日2話あげるかもしれません!
続きが気になる方は評価の⭐︎をください!また、ブックマークもして続きを読めるように待っててくれると嬉しいです!感想やレビューもどしどしお待ちしております!




