第15話柏野楓の曇らせ(上)
時は少し遡る。
柏野楓が彩香たちのいる場所へ向かう前――。
◇◇◇
side:柏野楓(メイド長)
夜。
私は小さな物音で目を覚ました。
「何の音でしょう……?」
耳を澄ます。
チーン。
どこかでベルのような音が鳴った。
「扉の方から……?」
私はベッドから起き上がり、音の正体を確かめるため部屋を出る。
静かな廊下を進みながら音のする方へ向かう。
しかし、しばらくすると音はいつの間にか止んでいた。
代わりに、廊下の先に二つの人影が見えた。
「誰です! そこにいるのは!」
思わず声を上げる。
二人が同時にこちらを向いた。
一人はメイド服を着た人物。
長い髪で目元を隠している。
もう一人は、その人物と対峙するように立つ白銀の髪を持つ無表情な少女。
……?
理解が追いつかない。
なぜこんな時間に人がいるのか。
なぜメイド服を着ているのか。
そもそも、この二人は誰なのか。
次々と疑問が浮かぶ。
すると突然、メイド服の人物がこちらへ走り出した。
「えっ――。」
反応する間もなかった。
相手の方が圧倒的に速い。
気づけば私は強く抱きしめられていた。
何をされるのかと身構えた、その瞬間。
プスッ。
風船から空気が抜けるような音が響いた。
そして、私を抱きしめていた人物の体から力が抜ける。
「無事で……良かった……。」
かすれた声が耳元で聞こえた。
その人物はゆっくりと倒れ込む。
私は呆然としながら正面を見る。
白銀の少女の手には銃が握られていた。
その光景を見て理解する。
――庇われたのだ。
本来撃たれるはずだったのは私だった。
そして、その代わりに。
「きゃあああああああっ!!」
悲鳴が口から飛び出す。
だが体は動かない。
頭では分かっている。
今すぐ手当てをしなければならない。
なのに足が動かない。
恐怖と混乱で全身が硬直していた。
「人が来る。」
白銀の少女が静かに呟く。
次の瞬間、少女は倒れたメイド服の人物を軽々と担ぎ上げた。
その拍子に、髪で隠れていた顔が一瞬だけ見える。
「――彩香?」
息が止まった。
間違いない。
彩香だった。
私のせいで。
私を庇ったせいで。
彩香が撃たれた。
そんな現実を理解した瞬間、胸が締め付けられる。
嘘だ。
嘘だ。
嘘だ。
受け入れられるはずがない。
たった一週間。
それでも私はあの子を妹のように可愛がっていた。
その彩香が、私のせいで死ぬかもしれない。
「手当てしなきゃ……。」
震える手を伸ばす。
しかし、その手は虚しく空を切った。
「これは私がもらっていく。」
少女はそう言い残す。
そして彩香を担いだまま窓へ向かい――。
迷いなく飛び降りた。
私はその場に立ち尽くす。
引き止めることも。
追いかけることも。
何一つできなかった。
私は、その現実を受け入れられず、ただ消えていく二人の姿を呆然と見つめることしかできなかった。
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