第12話暗殺者
◇◇◇
彩香のメイド特訓五日目。
早朝。
まだ日も昇り切っていない時間に、お嬢様から呼び出しを受けた。
部屋へ向かうと、お嬢様はいつも通り落ち着いた様子で言った。
「そろそろ本来の仕事をしてもらいたいのです。」
俺はすぐに了承した。
そして初めて、自分の仕事内容について詳しい説明を受けることになった。
本当はもっと早く話す予定だったらしい。
だが――
「新山様が想像以上に家事ができませんでしたので。」
そんな理由で後回しになっていたそうだ。
失礼な。
いや、事実だから何も言い返せないんだけど。
話によると、現在お嬢様は兄弟たちと家督争いの真っ最中らしい。
しかも状況はかなり有利。
現時点ではお嬢様が一歩抜きん出ているらしく、そのせいで他の兄弟たちはお嬢様への妨害工作に必死になっているとのことだった。
内部からの妨害はこれが原因らしい。
具体的には屋敷の中にいる裏切り者による工作だ。
こちらに関しては、これまで通り屋敷の中の怪しい人物を探す以外に方法はないだろう。
問題はもう一つ。
外部からの妨害だった。
天堂グループのライバル企業。
東雲グループ。
奴らは様々な手段で妨害を仕掛けてきているらしい。
そして俺が阻止するのは、その中でも武力による妨害。
つまり――。
お嬢様の暗殺の阻止。
そう考えておけば間違いないらしい。
「そろそろ私を殺しに来ると思います。」
お嬢様はまるで当然かのように言う。
いや、怖い怖い。
そんな物騒なことを平然と言わないでほしい。
それにしても。
俺はいまだに疑問だった。
なんでお嬢様は俺なんかをスカウトしたんだろう。
ただの高校生だぞ?
…………。
……まあいいか。
選ばれたからにはやるしかない。
武器の準備だって、スカウトされた時から終わっている。
まさか厨二病全盛期に集めた遺物を本当に使う日が来るとは思わなかったが。
◇◇◇
それから二日。
特に何事もなく時間が過ぎた。
そして俺のメイド特訓も無事終了した。
その日の夜。
俺は見張りをしながら家事の復習をしていた。
皿洗いの効率化について考えつつ、どうやって裏切り者を見つけるか頭を悩ませていた時だった。
危機察知が反応した。
能力が警鐘を鳴らす。
『後方から銃弾が飛来する。』
「あぶっ――!」
反射的に首を傾ける。
直後。
耳元を弾丸が通り過ぎた。
「なっ!?」
驚きの声が聞こえる。
「危ないな。」
俺は肩をすくめながら振り返った。
「後ろから銃を撃つとか、人としてどうなんだ?」
言いながら一気に距離を詰める。
「速い!?」
暗殺者が目を見開いた。
「お前が遅いんだろ!」
俺はそのままジャブを放つ。
相手は首を傾けて回避しようとした。
予想通りだ。
俺はさらに軌道を変え、顔面へ拳を叩き込もうとする。
しかし――。
再び危機察知が反応した。
『そいつに触れたら感電する。』
「っ!?」
俺は咄嗟に拳を引き戻し、後方へ飛び退く。
「マジかよ。」
服の表面に電流を流しているのか?
「お前、それ痛くないのか?」
俺が尋ねると、暗殺者は不思議そうに首を傾けてこんなことを言う。
「すごい。」
「ん?」
「どうやって気付いた?」
さっきまでの動揺した様子はどこにもない。
あの動揺した様子は演技だったらしい。
「お前の演技が大根だったからな。」
もちろん嘘である。
普通に騙されて殴りかけました。
「自信あったのに。残念。」
「本当に残念ならもっと残念そうに言え!」
「ごめん。」
「え?」
「謝る。ごめんなさい。」
「いや、そこは素直に謝るところじゃ――。」
その瞬間。
危機察知が再び反応した。
『カーテンからナイフが飛んでくる。』
「はぁ!?」
俺は慌てて身を捻る。
直後。
銀色のナイフが目の前を通過した。
壁に突き刺さる。
どうやらカーテンの裏に罠を仕掛けていたらしい。
「すごい。」
暗殺者が感心したように呟く。
「今のも避けた。」
「危なすぎるだろ!」
俺は思わず叫ぶ。
「お前そろそろいい加減――。」
その時だった。
破れたカーテンの隙間から月明かりが差し込む。
白い光が暗殺者の顔を照らした。
そして俺は、その顔を見て固まる。
「……え?」
見間違えるはずがない。
学校中の誰もが知っている有名人。
「……月城さん!?」
そこに立っていたのは――
東條彩乃と並び、学校で最も人気があると言われる少女。
月城ひより(つきしろひより)だった。
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