第四章 惨劇と完全体
本作『レイナ』を開いていただき、ありがとうございます。
この物語は、少し不思議で騒がしいアパートでの同居コメディから始まり、やがて悲壮なモンスターバトルへと一気に加速していく、ノンストップのSF純愛アクションです。
もともとは特撮・アクションの最前線で活躍するクリエイターたちが集結して制作した短編映画であり,映画ならではの「一切ダレないスピード感」はそのままに、テキストだからこそ描ける登場人物たちの細やかな心情や、隠された伏線を丁寧に織り込んでいます。
最後まで一気に駆け抜ける物語です。どうぞ、少しの間、良太とミー(レイナ)の奇妙な日常と死闘にお付き合いください。
鬱蒼と茂る緑の中、良太は重傷を負ったレイナの肩を抱きかかえるようにして、険しい山道を歩いていた。良太の右手には、レイナから託されたあの銀色のアタッシュケースがしっかりと握られている。
二人は岩壁に囲まれた少し開けた場所に出ると、歩みを止めた。
「りょうちゃん」
レイナが、すがるような瞳で良太を見上げた。
「え?」
良太が聞き返すと、レイナは悲しげな、けれど微かな希望をはらんだ声で問いかけた。
「今でもレイナのことを、嫁さんにしてくれる?」
「え?」
唐突な言葉に、良太は困惑し、思わず視線を逸らして押し黙ってしまった。レイナはそんな良太の横顔を、切なそうに見つめ続けている。
その時だった。
――ヒュンッ! ドスッ!
空気を裂く鋭い音と共に、背後から凄まじい勢いで飛んできた木の槍が、レイナの胸を無残に貫いた。
「あぁっ!」
鮮血が激しく飛び散り、レイナは自らの胸から突き出た血まみれの槍を両手で掴みながら、苦悶の表情を浮かべた。
「りょうちゃん、子供の頃に戻り……」
レイナは最期の言葉を振り絞るように呟き、そのまま地面へと崩れ落ちた。白かったスカートが、赤黒い血に染まっていく。
「うわあああああああ!」
目の前で起きた突然の惨劇に、良太は絶望と恐怖の入り混じった絶叫を上げた。
倒れ伏したレイナの骸の傍らで、良太が呆然とへたり込んでいると、ゆっくりとした足音が近づいてきた。
「小娘が、こんなところに隠れていたのか」
黒いジャケットに黒いスカート、首には真珠のネックレスを身につけた、冷酷な眼差しを持つ女――レイナの父の車を執拗に追いかけ、部下たちに「娘を探せ」と命令していた、あの女だった。女は倒れているレイナを一瞥し、忌々しげに吐き捨てた。
良太の背後からは、いつの間にかミーが駆けつけ、身構えている。
「レイナ!」
良太が悲痛な叫びを上げる。しかし、黒ずくめの女は顔色一つ変えず、冷酷な視線を良太に向けた。
「そのケースさえ大人しく渡せば、命だけは助けてあげる」
良太は地面に落ちている銀色のケースを急いで拾い上げると、それを大事に抱え込んで守るようにしながら、レイナを殺した女を強く睨みつけ後ずさった。
女は声を荒らげる。
「それを置いてさっさとどこかへ、おゆき!!」
次の瞬間、怒りに駆られたミーが黒ずくめの女に飛びかかった。激しい格闘戦になるが、女はミーの攻撃をいとも簡単に捌き、圧倒的な力でミーをねじ伏せた。女は倒れ込んだミーの首ぐらを掴み、容赦なく締め上げる。
「大人しく渡せば、命だけは助けてやると言ってるのに。バカなやつ」
苦しそうにもがくミーを冷たく見下ろした女は、そのままミーを軽々と放り投げた。宙を舞ったミーは、良太と白い車のすぐそばの地面に激しく叩きつけられる。
「たかだか、小娘の遺伝子を植え付けられた猫の分際で」
黒ずくめの女は立ち上がり、両手を不気味に広げながら高笑いした。
「この蛇の能力を持つ完全体の私に、勝てると思うのか!!」
女の周囲に紫色の稲妻が激しくスパークし、濃い煙が噴き上がる。閃光と共に女の姿は掻き消え、その煙の中から、青黒い鱗に覆われ、鋭い牙を剥き出しにした巨大な蛇の怪物――完全体となった女が、禍々しい雄叫びを上げて姿を現した。
採石場の死闘
「りょうちゃん、逃げて!!」
ミーは起き上がるなり、良太の手から銀色のアタッシュケースを奪い取り、怪物の視線を自分に引きつけるように駆け出した。
「ミー!!」
良太が叫ぶが、ミーは振り返らずに採石場の奥へと向かっていく。蛇の怪物もまた、獲物を追うように恐ろしいスピードでミーの後を追った。
ミーは暗く入り組んだ廃墟のような石切り場へと逃げ込んだ。獣の身体能力を生かし、積み上げられた巨大な石のブロックを自らの足で次々と飛び越えていく。だが、背後にはすでに蛇の怪物が恐ろしいスピードで迫っていた。
凄まじい怪物の打撃を食らい、ミーは激しく吹き飛ばされた。その拍子に、抱えていた銀色のケースが手からすっぽ抜けて地面を転がる。すぐさま身を翻し、ケースを拾いに行こうとするミー。同時に、怪物もまたケースを奪おうと手を伸ばしてきた。
一瞬早く、ミーがケースを拾い上げた。だが、その直後だった。
背後から迫った怪物の太く長い尻尾が、ムチのようにしなってミーの首に巻きついた。
「うっ……!」
そのまま強引に宙へ持ち上げられ、ミーは石の壁へと激しく押し付けられる。怪物のギリギリと首を締め上げる力に、絶体絶命の窮地に立たされた。
もはやこれまでかと思われたその時、背後から良太が駆けつけてきた。良太は落ちていた太い木の棒を拾い上げ、怪物の背中めがけて渾身の力で振り下ろした。
「この野郎!」
バキッ!
鈍い音と共に棒は真っ二つに折れたが、怪物には全く効いていない。怪物はミーを地面に投げ飛ばし、ゆっくりと振り返り、邪魔立てした良太を無造作に掴み上げ、勢いよく空中へと投げ飛ばした。
地面に投げ出されたミーが顔を上げると、怪物の力で空中へ放り投げられた良太の姿が見えた。
「りょうちゃん!」
慌てて飛び出したミーは、落下の衝撃から良太を庇うようにしっかりと受け止め、二人は勢いそのままに地面を激しく転がった。土埃の中、下敷きになった良太の上に、ミーが折り重なるようにして止まる。ケースはまたミーの手を離れて横に転がっていた。
至近距離で見つめ合う二人。荒い息をつきながら、上に乗ったミーが良太を見つめて尋ねた。
「どうして戻ってきたの?」
良太は真剣な眼差しで答える。
「君を助けようと思って」
自分を助けるためにわざわざ戻ってきてくれた。その不器用でまっすぐな想いに触れ、ミーは痛む体で微かに微笑んだ。
「助けられちゃったけどね」
いい雰囲気に包まれ、二人の間に確かな絆が生まれた瞬間だった。だが、無情にも怪物が再び襲いかかってきた。
怪物の容赦ない蹴りが炸裂し、ミーは無残に蹴り飛ばされてしまう。
良太は慌てて転がったケースを拾い上げる。しかし、怪物の標的はすでに、良太と彼が守ろうとするそのケースへと移っていた。
「危ない!」
ミーは良太を庇うように素早く戻り、怪物へと再び躍りかかった。
壮絶な肉弾戦が再開される。激しい攻防の末、怪物の巨体が、壁際に高く積み上げられていた古い石油缶の山に激突した。派手な音を立てて缶が崩れ落ち、ひしゃげた口から大量の油がドクドクと地面へ漏れ出していく。
怪物の猛攻を躱すため、ミーは高くジャンプして宙を舞った。逃がさじと、怪物が太い尻尾を空中へ向かって鋭く伸ばす。だが、ミーを狙ったその尻尾は空を切り、石切り場の上空に張られていた高圧線に激突し、強引にちぎった。
バチバチッ!!
ちぎれた高圧線から激しい火花が散り、無数の火の粉が雨のように降り注ぐ。その火花が、地面に溢れ出していた油へと引火した。
導火線を走るように炎が燃え広がり、怪物のお膝元へと到達する。
――ドォォォォォンッ!!
轟音と共に凄まじい大爆発が巻き起こり、巨大な火柱が蛇の怪物を完全に飲み込んだ。
「ミー!!」
爆風と熱波からミーを守るため、良太は咄嗟に彼女の上に覆い被さるようにして叫んだ。
激しい炎の中で、蛇の怪物は天を仰ぎ、断末魔の叫び声を上げながらもだえ苦しんでいる。良太とミーは、業火に焼かれていく怪物の最期を、ただただ息を呑んで見つめ、その場を後にした。
今回もお付き合いいただき、ありがとうございました!
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引き続き、『REINA-レイナ-』をよろしくお願いいたします!




