第三章 オルゴールの記憶
本作『レイナ』を開いていただき、ありがとうございます。
この物語は、少し不思議で騒がしいアパートでの同居コメディから始まり、やがて悲壮なモンスターバトルへと一気に加速していく、ノンストップのSF純愛アクションです。
もともとは特撮・アクションの最前線で活躍するクリエイターたちが集結して制作した短編映画であり,映画ならではの「一切ダレないスピード感」はそのままに、テキストだからこそ描ける登場人物たちの細やかな心情や、隠された伏線を丁寧に織り込んでいます。
最後まで一気に駆け抜ける物語です。どうぞ、少しの間、良太とミー(レイナ)の奇妙な日常と死闘にお付き合いください。
「お前一体、誰なんだよ?」
良太はベッドの脇に座り込み、目の前にいる猫耳の女を問いただした。
「何なんだよ一体!」
女は不思議そうに小首を傾げたかと思うと、唐突に「パパ!」と無邪気な声を上げた。
「え?」
女は、自身の首にかかっていた銀色のペンダントをそっと外し、宝物のように両手で包み込んで差し出した。それは彼女が「ママ」から預かり、ここまで持ってきたものだった。
良太がそのペンダントを手に取り、ゆっくりとロケットを開いた。
かすかに、切なく美しいオルゴールのメロディが部屋に響き渡る。開かれたロケットの中には、日焼けした少年の笑顔――幼い頃の良太の写真が収められていた。
それを見た良太の心臓が、大きく跳ねた。
そのペンダントは、引っ越しで遠くへ行ってしまう幼馴染のレイナに、良太が別れ際に渡したものだったからだ。
「ママ、怪我してる」
女が唐突に言った。
「助けて!」
女の悲痛な叫びに、良太は困惑しきった表情でペンダントを見つめ、黙り込んでしまった。
公園での別れ
良太の脳裏に、幼い頃の記憶が鮮明に蘇る。
眩しい日差しが照りつける、夏の公園。少女だったレイナは、滑り台の階段に一人で座り込み、肩を震わせて泣いていた。
「ミーが、ミーが……ミーが……!」
レイナは両手で顔を覆い、泣きじゃくっている。引っ越しのどさくさに紛れて、飼っていた黒猫のミーちゃんが行方不明になってしまったのだ。
そこへ、半ズボン姿の幼い良太が、探し出した黒猫をしっかりと抱きかかえて走ってきた。
「はい」
良太は、黒猫の「ミーちゃん」をレイナに差し出した。
「ありがとう……」
レイナは涙を拭い、嬉しそうに黒猫を受け取る。
「これ、やるよ」
良太はポケットから、銀色のロケットペンダントを取り出した。それをレイナの手にそっと握らせる。
「僕のことを忘れるなよ」
良太の言葉に、レイナは真っ直ぐな瞳で力強く頷いた。
「忘れない。レイナ、りょうちゃんのお嫁さんになるんだから」
レイナは黒猫を愛おしそうに抱きしめ、少し寂しそうに微笑んだ。
「遠くに居ても、レイナのこと守ってね」
「うん。約束するよ」
良太は真剣な顔で頷き、レイナと約束を交わしたのだった。
「きっと、きっと、守って。……お願い!」
記憶と重なるように暗闇に響いた悲痛な叫び声が、良太を現実へと引き戻した。
追憶の果てに
良太は車を走らせていた。
白い車。運転席でハンドルを握る良太の顔には、焦りと困惑の色が深く浮かんでいる。
車は深い緑に囲まれた山道を抜け、岩肌がむき出しになった荒涼とした採石場へとたどり着いた。良太は車を停め、運転席から降りる。
「ちょ、ちょっと、待てよ!」
良太が声をかけるが、助手席の猫耳の女は勢いよく車から飛び出し、良太をあっという間に追い越して駆け出していった。獣のような尋常ではないスピードで、採石場の奥へと進んでいく。良太は慌ててその後を追いかけた。
二人は、巨大な岩壁の間に続く細い道を走り抜ける。女は迷うことなく、ある一点を目指して進んでいた。
そして、女は薄暗い洞窟のような空間にたどり着き、立ち止まった。
「おい、待てったら!」
息を切らして追いついた良太が声を荒らげる。
「ミーちゃん!」
突然、洞窟の暗闇の奥から女性の声が響いた。
「ママ?」
女が暗がりへ向かって声を返す。すると、その奥から白いブラウスを着た一人の女性が、ゆっくりと姿を現した。
「……りょうちゃん?」
女性は、良太を見て信じられないというように呟いた。
「レイナか?」
良太もまた、驚きで目を見開いた。
レイナは、安堵と喜びの入り混じった表情で微笑んだ。
「りょうちゃんね。……ミーちゃん! やっぱり連れてきてくれたのね。きっと来てくれると思ってた。だって、りょうちゃん、ミーちゃんのパパなんだもの」
レイナの言葉を聞きながら、良太は言葉を失っていた。暗がりの中、横に並んで立つレイナと猫耳の女「ミー」。その二人の顔は、まるで鏡写しのように、寸分違わぬ「同じ顔」をしていたのだ。
「どういうことなんだよ? 説明してくれよ」
良太は混乱の極みに達していた。なぜ猫が人間の姿になり、しかもレイナと同じ顔をしているのか。
レイナは悲しげな瞳で良太を見つめ、静かに語り始めた。
「私の父は、生物の遺伝子を取り出す研究をしていたの。それを他の生物に植え付けて、複数の生物の能力と記憶を持つ生物を作り出す。父は、それが人類に素晴らしい未来をもたらすと信じていた」
――時を同じくして、別の場所。
ひしゃげ、猛烈な炎に包まれて焼き尽くされていくレイナの父の車の残骸。
その業火の中から、不気味な影が蠢き出した。熱と煙を切り裂き、這い出てきたのは、禍々しい鱗に覆われた巨大な蛇のような「怪物の姿」だった。
「でも作り出されたのは、恐ろしい能力を持つ化け物だった」
レイナの声が震える。
「私と父は、恐ろしくなって研究機関を逃げ出したの。でも途中で襲われて……」
レイナはうつむき、自分と同じ顔をしたミーちゃんを痛ましそうに見つめた。
「ミーちゃんには、可哀想なことをしてしまったわ。あなたを呼んできてもらうために、私の遺伝子を植え付けてしまって。もう普通の猫には戻れない」
「俺たち二人の猫だった、あのミー……」
良太は呆然と呟いた。あの日、「パパとママになる」と約束し、二人で一緒に可愛がっていたあの小さな黒猫が、レイナの遺伝子を組み込まれ、こんな姿になってしまったというのか。
レイナは傍らに置いてあった銀色のアタッシュケースに手を置いた。
「このケースの中に、装置が入っているわ。今は、私の遺伝子が入っているの。あいつらに絶対渡すわけにはいかない。お願い、私と一緒にこれを守って」
レイナの悲痛な願いに、良太は戸惑いながらも答えた。
「あ、とにかく病院に行かなくちゃ! それに、後のことは警察に任せれば何とかしてくれるから。な?」
良太は必死に現実的な解決策を口にする。しかし、レイナは無言のまま、悲しげな瞳で良太を見つめ返すだけだった。
今回もお付き合いいただき、ありがとうございました!
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引き続き、『REINA-レイナ-』をよろしくお願いいたします!




