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私がヒロインだったんですか!?  作者: 宮澤


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9/10

9

「あははははっ」


 笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を拭うアルドに、ナナリーは頬を膨らませた。



「ごめんね、けど、入ってきての第一声があまりにも衝撃的で」


「だって……勝手に出ちゃったんです」


「ふぅん、そっかぁ」


 長椅子に座るナナリーの頭をくしゃくしゃと撫でながら、アルドが横に腰掛ける。

 その顔はどこまでも嬉しそうだ。


「せっかく髪の毛セットして貰ったのに……」


「ごめんね、あんまりにも可愛くて……ドレスも、似合ってる」


「―――っ」


 不意にそんな事を言うものだから、ナナリーの心臓は早鐘の様になってしまった。


「私は?」


「え」


「私は似合ってる?君の色」


「え、あ!わ、私の……勘違いじゃなく?」


「似合う?」


「……凄く、はい、似合ってます」


「嬉しい」


「先生、あの、私、何が何だか……」


「そうだね、混乱している君に一個ずつ教えてあげようね」


 ナナリーの頭を撫で続けながら、アルドは優しく話を続ける。


「まずね、そのドレスは私からだよ。絶対に着て欲しかったから君の実家から、という事にしてもらった」


「へ」


「君が私の大事な人って皆に分かる様にね」


「ん?」


「次に君の言う【ヒロイン】何だけど――それは多分君の事だ」


「はい!?」


 その時受けた衝撃を、ナナリーは生涯忘れないだろう。


「君、言ってたじゃない?攻略対象とは差し入れなんかをして仲良くなるって……君が作るお菓子ね、微量だけど魅了魔法が作用してたんだよ。ああ、私にはそういう類のものは効かないけどね」


「み、魅了……!?」


「そう、だからまじないと称して君の魅了魔法は封じさせて貰ったよ」


「あ、あの時……」


 アルドが彼女の手首にまじないをかけた日の事をナナリーは思い出す。


「じゃあ、先生はあの時から?」


「うん、そうなんだろうなって」


「な、なんで、教えて……」


「そしたら君、性格的に学園辞めちゃいそうじゃない?それは私が面白くなかった」


「……」


 否定はできなかった。

 あの時知っていたらナナリーはさっさと実家に引きこもっていただろう。


「後ね」


「ま、まだ何か――っ」


 アルドが結っていた髪を解く。

 サラサラと流れ落ちたそれは、彼の鎖骨下辺りまで伸びていた。



「――――え」


 刻が止まったアルドの身体は何の変化も受け入れない、はずだった。


「な、んで―――」


 ナナリーが震える手を、髪へと伸ばす。

 何の抵抗もなくアルドはそれを許容する。

 

「髪、が……」


「魔法の解き方はね、私が心の奥底から誰かを愛し、求める事」


 髪に触れていたナナリーの手を、アルドは優しく握って自身の胸元へと導いた。


「誰が、解いてくれたんだと思う?」


 どくどくと、ナナリーのものと同じくらい早い鼓動が手のひらを通して伝わってきた。


「……っ」


 ナナリーは込み上げてくる涙に声を出せなかった。


 

「君だよ、ナナリー!」


 嗚咽で震えるナナリーを、力強い腕が抱き締める。

 耳元のすぐ側で、アルドの生きている音がする。


「アルド先生……っ」


「大好き、大好きだよナナリー。どうか、私の人生を一緒に生きて欲しい」


「……っ」


「君の人生を一緒に生きたいんだ」


「―――っはい、はい!私も一緒に生きて欲しいですっ……おじいちゃんおばあちゃんになっても、ずっと、ずっと!」


 ナナリーを抱きしめる腕の力はさらに強くなる。

 その強さが、堪らなく嬉しかった。








「……ところで、いつから解けていたんですか?」


「えっとね、ほら。雪の日……君が死んだ日の事を話してくれたでしょ。……あの時はごめんね。手に痣を作ってしまって――でも何だか、強く握っていないと君が消えてしまいそうで」


「もう、気にしないでください。―――あれって結構前じゃ無いですか?」


「うん。それまでも君の事は気に入っていたけど、やっぱりどうしても庇護すべき生徒だって前提が消えなくてね」


「……はい」


「でもあの日、笑う君を見て……君はもう精神はすっかり大人で……私は明確に欲情したんだ」


「よ……!よく……!?」


 アルドのはっきりとした物言いにナナリーは言葉を紡げなくなった。

 先程までの感動が遠くへと走り去っていく。

 溢れていた涙も引っ込んでいった。



「それでも、卒業する迄は待とうと思って。でもその間に誰かに掻っ攫われたら堪らないから、手は打たせて貰ったんだけど」


「……あの、就職の話は……」


「うん、いい話でしょ?私に永久就職。これでも稼いでるから苦労はさせないよ?」


 両思いになれて嬉しいはずなのに、ナナリーの背には冷や汗が伝う。

 額と額が触れ合い、ナナリーの目の前には、ドレスと同じ赤色が爛々と輝いていた。

 今のアルドには、あれだけ彼が保っていた穏やかさは何処にも無い。


「大好き、ナナリー。もう私以外に大好きと言っては駄目だよ」



 輝きには燃える様な恋情や、甘やかな嫉妬が混ざっていて、ナナリーは触れる唇と共に、それらも全て受け取ったのだ。



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― 新着の感想 ―
おめでとう2人とも!たぶんたぶんハッピーエンドよね?とは思っていたけど、2人の距離がずっと付かず離れずだったから、どうなるかと思ってました。できればナナリー側でない第三者からのお話も読んでみたいです。…
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