表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私がヒロインだったんですか!?  作者: 宮澤


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/9

6

「寒くなりましたね」


「だねぇ。はい、ホットチョコレートだよ」


「わーい、ありがとうございます」



 ナナリー17歳、高等部2年の冬。

 あれから何事もなく、平和に時は経ちナナリーはもうすぐ最終学年にあがろうとしている。

 隣国との諍いは落ち着き、皇子が留学してくることも無かった。


「最近、ダリス様の押せ押せ攻撃が凄くて……あれでなぜルルーラ様は気づかないんでしょう?」


「そうだねぇ、ああ見えて彼女は自分に自信がなさそうだからね」


 最早、学園長室に行く必要もないのかもしれないが、ナナリーはアルドが止めないのを良いことに相変わらず週に三回のペースで訪れていた。


 ナナリーが差し入れたシュークリームをアルドは美味しそうに頬張る。

 そんな光景がたまらなく嬉しかった。

 ナナリーはアルドが好きだ。

 その気持ちはこの一年で更に高まり、少しでも近くに居たくて、学園長室を訪れている。


 窓の外には白い、雪がはらはらと降り始めていた。


「君、帰り大丈夫?ここから寮まで近いと言っても雪も積もってるでしょう?」


「大丈夫です!私雪の中を歩くの好きなんです」


「そうなの?」


「はい!―――私、あ!前世の私、雪の日に死んだんですけど」


 途端にごほごほと咽せる音が聞こえて、慌ててアルドの背中を摩る。


「……っご、ごめん。続けて?」


「え?大丈夫ですか?……え、と。私その、この世界でいう馬車みたいなものに轢かれちゃったんですけど」


 アルドの背を撫でながら、ナナリーは記憶を辿る。

 彼女の視線は窓の外の雪を見つめたままだ。


「もう、ダメだなって。寒くて寒くて、全身の血がなくなっていく気がして。そんな時、頬に雪が当たったんです。……冷たいはずなのに、なぜかそれが凄く暖かく感じて。雪が私から、寒さや痛みを取り除いてくれた気がして……思い残したことも沢山あったんですけど、何でしょう……私」


 アルドが、ナナリーの手首を掴む。

 それは無意識だったが、強く、強く掴んでいた。


「私、確かにその瞬間、幸せだったんです」



 ふ、と零れ落ちるような笑みだった。

 常の、天真爛漫なナナリーからは想像もできないほどに、色気の詰まった顔だった。

 ナナリーが、その前の彼女が全て混ざって出来上がったそれに。

 ゾッとするほどの美しさに、アルドは瞬きも忘れて見惚れていた。







「アルド様!何ですかナナリーのあの手首は!!」


 後日、学園長室に乗り込んできたのはルルーラだった。


 その後ろで謝るように手を合わせてるナナリーに視線で返事をして、怒るルルーラに向き直る。


「私が全部悪い。ごめんね?」


「―――っ!女性の手に痣を残すなど!到底許されることじゃありませんわ!」


 それから数十分、ルルーラの説教は続いた。


(学園長に説教する生徒なんて史上初めてなんじゃないかな……)


 ルルーラを止められなかったナナリーは、ダリスがルルーラを回収しに来るその時まで現実逃避を続けた。


「すみません、アルド先生。偶然ルルーラ様に見つかってしまって……そしたらもう、止めることも出来ず」


「いや、彼女の怒りは最もだよ。君だってもっと怒って良いんだ」


「……怒ってはないんですが……理由を聞いても良いですか?」


「うーん、秘密」


「え!」


「ごめんね。いつか時が来たら教えるから今は聞かないで?」


「うーん」


「お詫びに秘蔵のフィナンシェ出すから」


「仕方がないですね!」


「ねえ」


「はい?」


「これからも、こうしてここに来てくれる?」


 アルドの顔は真剣だった。

 まっすぐな眼差しでナナリーを見ている。


「……アルド先生がいいよって言ってくれる限り、ずっと来ます」


 ナナリーの返事に、ふにゃりとアルドは笑った。


「じゃあ、ずっと来なきゃ駄目だよ」


(―――私の、私のこの痛いくらいの心臓がアルド先生にも移れば良いのにな)


 軋む胸が、少し辛かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ