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「おはよう、よく眠れた?」
「……おは、ようご、ざいます」
「あれ?何だか疲れてるね」
翌朝、ナナリーはアルドの顔を見る事ができなかった。
―――なぜなら、彼女は昨日、初めて自覚したのである。
アルドの事が好きだと。
自覚のなかったナナリーに驚いたのはルルーラの方だった。
たった1日、一緒にいる2人を見た私でも気づけたのですよ、と。
(ダリス様の思いには全然気づいてないくせに)
そうして自覚してしまうと、今までより一層輝いて見えてしまうのが恋というものだ。
(ま、眩しくて直視できないっ!)
今や後光まで感じるほどに、アルドがピカピカと輝いて見える。
「大丈夫?今日は歩けそうかな?」
「だ、大丈夫です!」
頬を一度ぱちんと叩いて気合いを入れたナナリーを、ルルーラだけが微笑ましく眺めていた。
森の中はひどく静かで、神聖な空気が漂っていた。
4人の大地を踏みしめる足音だけが辺りに響き、鳥の囀り一つ聞こえない。
「それで、アルド先生。迷わずに進んでいるという事は目星は付いているのか?」
「うん。これだけ澱みのない空気の中どろどろに濁った形跡は消せないからね。それを追えば良いだけさ」
「……許し難いな」
「……そうだね。この森に侵入を許したのも問題だ。守りを固めるように言っておいてね」
「……貴方から言えば良いのでは」
「それじゃあ圧が強すぎるでしょ」
アルドとダリスの会話に疑問を持ちながらもナナリーは口を挟まなかった。
休憩を挟みながらもさらに奥へと歩き続けて2時間ほど経った頃だった。
「わぁ……」
「すごいですわね……」
思わず感嘆のため息が出てしまう程に立派な大木が、そこにあった。
―――そして。
「うん。ここの根元だね。よりにもよって森の守り木の傍に埋めるなんて」
「ここに……」
ナナリーはこくり、と息を呑む。
アルドが示した位置を4人で掘ると、それほど深くない土の中にそれはあった。
見るからに不気味なそれは、手のひらより少しだけ大きい漆黒の石だった。
「さて、3人は少し離れていてね」
アルドに従い、少し距離を空ける。
それを見届けたアルドは、石をその手に乗せると小さな声で詠唱を始める。
アルドの髪がふわりと風に舞い、光の粒が彼の周りに集まる。
その光景が、あまりにも綺麗で。
ナナリーは言葉も無く、見入っていた。
程なくして石は漆黒から透明へと色を変えた。
「うん、これでもう大丈夫。帰ろっか」
「え!もう終わりですか?」
驚くナナリーにアルドは笑いながら答える。
「うん、終わり。だから君たちが着いてきても問題なかったでしょ?」
「確かに……」
予想以上にあっさりと終わり、肩の力も抜ける。
「いや、ナナリー嬢。普通はこんなに早く終わらない。魔具から魔力を抜くのは通常2ヶ月はかかる」
「え」
「そうよ?しかも詠唱だけでなんて……普通は専門器具が必要と聞くのに」
「ええ?」
「伊達に長く生きてないからね」
へにゃり、と笑ったアルドにダリスとルルーラが大きなため息を吐いた。
「アルド先生は元は王家に連なる方なんだ。……つまり、俺とも血の繋がりがある」
「ええ!!」
「でもさ、今の王も嫌でしょ?自分よりずーっと年上の親族に口を出されるなんて」
「そんな事ないと思うが」
ナナリーの衝撃をよそに、2人の会話も、帰路に着く馬車も進む。
「……ルルーラ様もご存じだったんですか?」
「まあ、噂くらいなら……真実で驚いていますわ」
「別に隠してはないんだけどねぇ」
呑気なアルドの返事にダリスは疲れたような顔をした。
「……本当にありがとうございます。アルド先生のお陰でこの国が守られた」
「それは良かった」
ダリスに答えながらもアルドはナナリーに視線を向ける。
労わる様な眼差しだった。
(本当に、良かった)
笑顔を返したナナリーの頭をアルドは優しく撫でた。
「アルド様!未婚の距離ではないと言ったでしょう!」
怒るルルーラにもやはり、アルドは笑みを返すのだった。




