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「君、言ってたでしょう?精霊の森で魔物が生まれ始めるのがヒロインと攻略対象達がより近づくきっかけになると」
「はい……確か、高等部2年の秋頃だったと思うんですけど」
ナナリー15歳、高等部1年の春。
ヒロインの姿はまだ確認できていない。
「あれを聞いてからずっと森を見張ってたんだけどね、確かに不穏な動きがありそうだ」
「え!」
「そういうことで、私は暫し留守にするよ」
「え!?」
「さっさと始末してしまおう」
「ええ〜!!」
ナナリーの前世の記憶によれば、隣国の間者が精霊の森に魔を呼び寄せる石を埋め込む。
それによって溢れ出した魔物を倒し、原因を突き止め解決するのがメインストーリーだ。
(2年の夏頃に留学してくる隣国の皇子が真実を知った時の葛藤が人気だった気がする……)
「アルド先生、1人で行くんですか?」
「そのつもりだけど――一緒に来る?」
「居ない間寂しく―――え?」
「一緒に行く?」
買い物に誘うかのような気軽さで、アルドはナナリーに声を掛けた。
「は、え、だって私足手纏いになっちゃいます」
「君、魔法学優秀じゃない―――それに、私を誰だと思ってるの?」
それは傲慢でも何でもなく、当然の自信からの発言だった。
アルドの長い人生の大半は、魔法に捧げていたから。
「お邪魔じゃないですか?」
「うん、邪魔なら誘わないよ。実習ってことで単位も出してあげる」
「職権濫用?」
「職権濫用!」
顔を見合わせて笑い合った後、ナナリーはよろしくお願いします、と頭を下げた。
そうして3日後、準備を整えた2人は出発する事にした―――のだが。
「ナナリー!許さないわよ!私に黙って駆け落ちだなんて!」
「そうだ、何か理由があるなら王家が力になる」
ナナリーの挙動を不思議に思ったルルーラが彼女の後をこっそりつけていた事によって計画は崩壊した。
「か、駆け落ちぃ!?」
「しかも、相手が学園長だなんて!よく放課後こそこそ職員棟に行ってると思ったら!!私に相談もせずに……」
うっと泣き出したルルーラの背中をダリスは優しく撫でている。
「どうしよっか、私たちの駆け落ちバレちゃったね」
面白がるようにナナリーの肩に手を乗せ、アルドが笑う。
「……まあ、いいや。君たちも来る?急いで準備してもらう事になるけど」
「と言うと?」
ダリスの問いに、アルドは笑みを深めて答えた。
「宝探し」
「ル、ルルーラ様……大丈夫ですか?」
肩で息をしながら荷物を担いで戻ってきたルルーラに、ナナリーは声を掛ける。
「こ、これしき……なんて、事は……な、くてよ」
「ルルーラ、俺が荷物を持とう」
「だ、駄目ですわ!これを持てないようでは……着いていく事も出来ませんもの」
大きな荷物を背負うルルーラの瞳は絶対着いていくという強い意志で輝いている。
「ルルーラ……なんて素晴らしい」
そんな姿に感動しているダリスだったが。
「……私たちの荷物は空間魔法で収納するけど……君たちは手で持っていく?」
そんなアルドの一言に、ルルーラは深々礼をしながら荷物を差し出した。
貸切馬車に揺られながら、アルドはナナリーの前世には触れないよう話を始めた。
「……なるほど。つまり、精霊の森に何か細工をされた可能性がある、と」
「そう。最近隣国の動きがきな臭いからね。国の重点箇所を監視してたんだ。そしたら先日、精霊の森から嫌な気配がしてね」
「……父には」
「一応簡単な報告はしてあるよ」
アルドとダリスの話を聞きながらナナリーは首を傾げる。
(魔物が出始めたのは2年の夏……なのにこんなに早く?)
そんなナナリーの耳元で、アルドは彼女にだけ聞こえる様囁いた。
「魔物を発生させる魔具はね、発動までにかなり時間が掛かるんだ。今仕掛ければちょうど―――来年の夏頃には作動する」
「―――私の心の声、聞こえてます?」
「顔に書いてあった」
アルドの言葉に、彼女は自身の顔をペタペタと触る。
(そんなに分かりやすかったかな)
「ちょっとよろしくて?アルド様、未婚の淑女にそんなに体を寄せて……少し破廉恥ではありませんか?」
腕を組んでアルドを睨みつけるルルーラは一定の距離を空けてダリスの横に座っている。
それに比べて確かに、アルドとナナリーの間には拳一個分も隙間がなかった。
「ああ、ごめんね」
謝りながらもアルドは動こうとしない。
仕方がないのでナナリーが椅子の端までよったが、その分アルドは距離を詰めてきた。
「アルド様!」
顔を真っ赤にして怒るルルーラはナナリーの為に必死だ。
「ふふっ!私ルルーラ様の事大好き」
思わずぽろりと漏れたナナリーの本音に、3人の動きが止まった。
「……私もよ、ナナリー」
最初に返事を返したのは、真っ赤な顔をそのままに微笑むルルーラ。
「悪いが、この国は女人同士は婚姻出来ないからな」
目を細めながらナナリーを牽制するのはダリス。
「……ふぅん」
笑ってない瞳で笑顔を返したのはアルドだった。




