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私がヒロインだったんですか!?  作者: 宮澤


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2


「ナナリー」


「ルルーラ様」


「食堂に行きましょう」


「はい!お腹空きましたねぇ」


「ふふっ貴女先程お腹を鳴らしていましたものね」


「……聞こえていましたか」


「えぇ、ばっちり」


 

 ナナリー13歳、中等部2年目。

 彼女はルルーラの親友と言っても過言では無いほどに親密になっていた。

 狙っていたわけでは無い。

 友人の1人になれたらいいな、とは思っていたが、ナナリーとルルーラは予想以上に相性が良かった。





「え、ルルーラ様。今日のデザート、アップルパイかフルーツケーキのどちらか一つですって」


「あら、では私がアップルパイを。貴女はフルーツケーキね」


「ですね」


 傍から見れば勝手に人のデザートを決めつけている様にも感じるが、ルルーラはナナリーと半分こをする前提で話をしている。

 その選択を当たり前に、迷う事なく選んでくれるルルーラの性格がナナリーは大好きだ。



 そして。



「相変わらず仲が良いな」


「ダリス様」


 椅子から立ち上がろうとしたルルーラとナナリーに、手で制したダリス。

 彼はこの国の第3王子であり、攻略対象者でもある。

 ダリスはナナリーの記憶によればメイン攻略対象だ。

 ルルーラが1番悲惨な目に遭うルートでもあった。


(……だけど)


「……共に食事をしてもいいだろうか」


 ルルーラがちらり、とナナリーに視線を向ける。

 ナナリーがこくん、と頷くとその綺麗な瞳がきらりと輝いた。


「ええ、どうぞ。ダリス様」


「ありがとう、失礼する」


 迷わずルルーラの隣に腰をかけたダリス。


(どう見ても、両思いなんだよなぁこの2人)


「ルルーラ、君の好きな人参だ」


 ダリスはそれは綺麗な所作でルルーラの皿に人参を入れる。


「……まあ、そういう事にしておいて差し上げますわ」


 満更でもない顔でそれを受け入れるルルーラに、ナナリーは口元が緩むのを紅茶を飲む事で誤魔化した。


(あー!!甘酸っぱい!!13歳の恋、最高!!)







「……それで、その後ルルーラ様に私がケーキをあーんしたんですけど、その時のダリス様のお顔ったら!あぁ……最高でした」


「随分と楽しんでるねぇ」


 放課後、いつも通り学園長室でナナリーはお茶会を楽しんでいた。

 最近では、アルドに話したい事が多すぎて週に一度どころか三度程押しかけているが、彼も嫌がる様子を見せていないのでナナリーは遠慮なく部屋を訪れていた。



「自分も13歳だった時には、こんな目線で友人の恋を見ることはありませんでしたから。―――でも、あの2人ってどう見ても両思いな事、周囲にバレバレじゃないですか」


「そうだね、教師陣の間でも有名だよ」


「あ、そこまで」


「うん、まあダリスの立場も含めて注目されやすいからね」


 アルドはテーブルに置かれたクッキーを一つ指で摘むと、まじまじと見て、それからゆっくり口へ含んだ。


「……美味しい」


「えへへ、良かった!」


「本当に美味しい」


「んふふ」


 最近のナナリーの趣味はお菓子作りである。

 この世界は前世と共通した食べ物ばかりなので、材料も手に入るし、簡単な物なら自分で作ることもできる。

 ナナリーは現在学園寮に住んでいるが、部屋に小さなキッチンが付いている為誰に憚る事なく自由に好きな時にお菓子を作っている。

 

「……ねぇ、お菓子を私以外にもあげた事はある?」


「いえ、いつもは自分で食べてます」


「そっかぁ……じゃあこれからも私以外には上げないでね?」


「え、それはやっぱり美味しくなかった「そうじゃないよ」


 もう一枚手に取りながらアルドが笑う。


「独り占めしたくなっただけさ」


 その、少しだけ意地悪気に笑う顔に、ナナリーの心臓が大きく反応する。


「そ、そういうのは心臓に悪いので辞めてください……」


「いいね、私の心臓は何にも反応しないからなぁ」


「それは……私なんかじゃアルド先生は気にも留めないかもですけど」


「ああ、そうしゃなくてね」


 テーブル越しにアルドはナナリーの右手を引き、自身の胸の上へと重ねた。


「な、何を――!」


 最初はその動作に驚いたナナリーは。


「……ん?」


 アルドの胸から手を引き、ナナリーは立ち上がる。

 そんなナナリーを見るアルドの瞳に一瞬だけ翳りが過ぎった。

 しかし。


「あの、ちょっと良いですか?」


 ナナリーはアルドのすぐ側まで近づくと、その胸元に耳を寄せた。


「えっ」


 流石に驚いたアルドの声にも応えずに、ナナリーは目を閉じ、音に集中していた。


「……聞こえない」


「でしょ」


「胸が動いてもない」


「そうなんだよ」

 

「え、アルド先生、心臓無いんですか!?」


「君は本当に面白いねぇ」


 そのあまりにもはっきりとした物言いに、アルドは声をあげて笑った。


「私ね、ほらこの外見だから結構人気なんだよ」


 肩口で切り揃えられた、サラサラと揺れるパールグレー色の髪。

 少し垂れ目気味のルビーレッド色の瞳に、右目の下には黒子が一つ。

 高い鼻筋に、少し大きめの薄い唇の端は常に上がっている様に見える。

 ナナリーは改めて男の様子を見て、うんうんと頷いた。


「……突っ込めないのが悔しいです」


 ふふっと笑ったアルドが話を続ける。


「それでさ、昔私に恋をした魔女が居てね。――若い私は随分と傲慢だったから、割と酷い振り方をした」


「……想像つかないです」


「その時はまさしく年相応だったから。……恨みを買ってしまってね。身体の刻を止められてしまったんだ」


「と、き……?」


「そう。それからもうずっと、私はこのままさ」


「……その、解く方法はあるんですか?」


「あるよ。何ならその魔女は自分で解けると思っていただろうね」


「……解けなかった?」


「―――誰にも。魔女もとっくに死んでしまった」


(そんな……)


 あまりにも重たい話に、ナナリーは苦しくなって、泣きたくなった。


「でも、良いこともあるよ。お陰で思う存分魔法の勉強が出来たし、今じゃ何たって学園長だ。職権濫用でこうして生徒とお茶まで楽しんでる」


「女子生徒と2人はまずいんじゃ無いですか?」


 明るく茶化し始めたアルドに、ナナリーも乗る事にした。


「それもね、長く生きた特権。私は今やエルフと同じ、欲のない男だと認識されてるからね」


 ははっと笑う男に、ナナリーは歪んだ笑顔しか返せなかった。


「あ、こんなに近くにいるついでに君におまじないを掛けてあげよう」


「おまじない?」


「うん、私の力が少しでも君を守りますように」


 アルドがナナリーの右手首をすっと撫でる。

 一瞬だけ光ったと思ったら、特に何の変化も残さずに元に戻った手首を、ナナリーが不思議そうに眺める。


「……ありがとう、ございます?」


「うん、どういたしまして」


 穏やかに笑うアルドは結局、どんなまじないを掛けたのか語ることはなかった。



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