8
「待ってよ、案内人。置いてかないで」
どんどん遠くなる案内人に声をかけても止まってくれる気配はない。流石に笑いすぎてしまったのかもしれない。
「待ってってば」
走ってやっと追いついた案内人の服を掴むとやっと止まってくれた。
「何がしたい?」
案内人は腕を組んで、そっぽを向いている。
「さっきは笑いすぎた。ごめんね」
「別に謝らなくていい。で、何がしたい」
今度は僕のほうを見てくれた。
「へへへ、何がいいかな。空飛ぶクジラに乗れたからなぁ。後は恐竜にも会いたいし、羽で空を飛んでみたいし......」
くるくる回りながら、考えていると笑っている案内人と目があった。
「なに?」
「子供が考える夢の世界は自由でいいな」
「大人は違うの?」
「あぁ。塔から出るときに梯子を使って降りていたし、他の夢も現実的でつまらなかった」
「それはもったいないね」
「まぁ、無駄でもなかったみたいだけどな。少年、やりたいことは決まったか」
案内人に聞かれて腕を組んだ。
「できると思ったことだけだもんね」
本当はパパに会いたいけど、叶わなかったらきっと案内人を困らせてしまう。
案内人をちらっと見上げると目があった。
「そうだな」
案内人はそう呟くと、僕から目をそらした。何か考えているみたいだ。
案内人は口角を上げて、僕を見た。
「動くぬいぐるみと遊ぶこともできるぞ。こんな風に」
案内人が指をパチンと鳴らすと、ポンっとぬいぐるみが三匹現れた。
うさぎ、くま、ねこのぬいぐるみが輪っかになって、踊っている。
「可愛いね」
いつの間にか世界に流れていた音楽に合わせて、楽しそうにしているぬいぐるみを見ているとなんでもできる気がしてくる。
夢を叶えて、夢の世界を信じることができたらきっとパパにも会える。
そんな気がした。
「ねぇ、案内人」
ぐうぅぅ
案内人に声をかけると同時にお腹が鳴ってしまった。
「あはは。お腹がすいたか、少年」
「うん。おいしいご飯とお菓子が食べたい」
「子供らしくて良い願いじゃないか、少年」
「だってママと喧嘩してご飯がたべられなかったんだもん」
ほっぺを膨らませて、案内人を軽く睨む。
案内人はぷはっと噴き出すと、ぬいぐるみを指さした。
「ほら、ぬいぐるみがご飯の場所まで案内してくれるみたいだぞ」
「うん。クーちゃん行こう」
手招きをするぬいぐるみに駆け寄る。
「キュイ」
クーちゃんも嬉しそうについてきてくれた。
振り返ると案内人は後ろをゆっくりと歩いている。
「速く歩かないと、ご飯が冷めちゃうかもよ」
手を大きく振って呼んでも、案内人の歩くスピードは変わらない。
「もうっ」
案内人のところまで戻る。
「早く行こう」
「そんなに急がなくてもいいじゃないか」
手をぐいぐい引っ張っても全然変わらない。
仕方なく案内人の後ろにまわって、背中を両手で押す。
「はいはい、急ぎますよ」
案内人が呆れたように笑った。
軽やかにステップを踏むぬいぐるみに、スキップしながらついていく。
水色やピンク、黄色のカラフルなパステルカラーのレンガの道をワクワクしながら進む。
どんな美味しいご飯があるんだろう。
「グラタンあるかな?」
「あると思えば、出てくるぞ。夢の世界だからな」
そういう案内人は自信にあふれている。
「楽しみだなぁ。案内人は何が好き?」
「好きな食べ物か。クッキーだな、チョコチップが入ってるやつ」
「そうなんだ、パパと一緒だね」
「そうか」
案内人は空を見上げながら呟いた。
グラタンもチョコチップクッキーもきっとある。
お店みたいのでも、家で作るようなものでも、どっちでも楽しみだ。
ぬいぐるみが小さな家の前で止まった。
家の中からチーズが焼ける匂いとお菓子の甘い匂いが漂ってきた。
またぐぅっとお腹が鳴った。肩を震わせる案内人を少し睨んでからぬいぐるみの後を追う。
扉まで続く石を一つ一つ飛び跳ねながらぬいぐるみを追いかける。
うさぎのぬいぐるみが扉の前で僕を手招きしている。他の二匹はその隣で飛び跳ねている。
ドアノブに触れるとワクワクで心臓がはち切れそうだ。深く息を吸って吐く。
ゆっくりと緑色のドアを開けた。
ぎぃいと音を立てながら見えてくる、家の中は真ん中に木でできた丸い机があった。
その机には隙間がないくらい、クッキーやケーキ、キャンデイ、そしてほかほかと白い湯気を立てているグラタンが並んでいる。
「ほわぁ」
体いっぱいに食べ物の匂いを吸い込む。こんなに幸せなことってあるんだ。
「いつまで立ってるんだ」
後ろから案内人に声をかけられてハッとする。
そうだ、目の前にごちそうがあるのに見ているだけなんてもったいない。
口から溢れそうなほどの涎をゴクリと飲み込むと、急いで椅子に座った。




