12
いつもより短めですが、読んでいただけると嬉しいです。
そっとノートを開く。
空飛ぶ鯨、カッコいい恐竜、さわやかな風が吹く草原。
キラキラした僕の夢が描いてある。
クーちゃんに乗って空を飛ぶ夢を叶えた。
鯨の絵を指でなぞる。
草原ではないけれど、優しい風が吹く丘でみんなとクッキーを食べた。
恐竜にはまだ会えていないけれど、この世界でパパの話みたいな冒険をしたらきっとすぐに会える。
一つ一つ指で絵をなぞりながら、夢を確認する。
机いっぱいのおいしいご飯も、ぬいぐるみと遊ぶことも、カッコよくて可愛い仲間をもつことも叶えることができた。
夢の世界でいっぱいの夢を叶えられた。
このまま夢の世界に居続ければもっといっぱいの夢を叶えることがきっとできる。
でも、何か足りない。
心にぽっかりと空いた穴の理由はきっとこれだ。
ノートの真ん中に大きく描いた笑顔のママの絵。
この夢は叶ったけど一瞬だった。僕が壊したから。
ミトンを投げつけたときのママの悲しそうな顔が頭に思い浮かぶ。
「......ママ」
ごめんねの声は喉に詰まった。
「ママに会いたいか?」
「うん。だけどママを傷つけた僕は会えないよ」
膝を抱えて顔を埋めた。
「ママがお仕事を頑張ってるのは僕の為だって知っていたのに、イラってなって思ってないこと言っちゃった」
「そうか」
案内人はただ優しく相槌をうってくれる。
「ママに嫌われちゃった」
ボタボタと目から涙が溢れて地面に落ちる。
「嫌われてはないだろ」
「えっ」
真っ赤になっているだろう目で案内人を見る。
「少年が一番分かっているんじゃないか」
「僕が......?」
「あぁ。忙しい仕事の中、毎日手作りのご飯を用意して誕生日には少年の大好物を忘れずに準備する。そんな母親が子供のことを嫌いになると思うか?」
「ならない、と思う。でも僕はママにひどいこと言った」
僕が夢の世界を楽しんでいる間、ママは泣いているかもしれない。
僕が放った言葉のせいで。
「でも本心じゃないだろう」
「うん、嫌いだなんて思っていない。本当は大好きだってママに伝えなきゃ」
謝って、大好きって伝えたらママは頭を優しく撫でてくれるかな。
その後は二人で作ったグラタンを食べるんだ。きっと冷めているけど、そのグラタンは今までの中で一番おいしいはずだ。
「じゃあ帰るか」
案内人が優しい笑顔で笑った。
「うん」
勢いよく立ち上がって、こぶしを空に突き上げる。
空がまぶしく感じた。
木の枝にキラッと光る何かが引っ掛かっている。
「ねぇ、案内人」
案内人にあれが何か聞こうとしたら、強くでも優しい風が吹いた。
僕の声は風に吹かれて案内人には届かない。
風に吹かれてキラッと輝く何かが僕の手のひらに舞い落ちてきた。
目の前に掲げてよく見ると、それは小さな歯車だった。
「歯車?案内人は何の歯車か分かる?」
「あぁ。少年なら見つけられると思っていた」
意味ありげに頷く案内人に、ますます何の歯車か気になってくる。
「ほんと?教えて」
「時計塔に帰ってから教えてやるよ」
ニヤリと笑って案内人はレンガの道を歩き出した。
「ねぇ、待ってよ」
シトが入ったバスケットを咥えたクーちゃんと、急いで案内人まで走ると、すぐに追いついた。
早く時計塔に帰らなきゃ。
案内人の手を引っ張ってレンガ道を駆ける。
案内人と僕の笑い声がカラフルな夢の世界に響き渡った。




