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時計塔の窓までクーちゃんに乗って上がる。
「また遊ぼうね、クーちゃん」
「キュイーッ」
ピュイピュイと水を吹きながら尾びれを振ってくれるクーちゃんはまた僕と遊んでくれるみたいだ。
案内人が時計塔の窓を閉めると、差し込む月の光のおかげで真っ暗にはなっていない。
遠くから酒屋で騒ぐ大人達の声が聞こえる。
ガコン、ガコンと響く大きな歯車の音で夢の世界から帰ってきた実感がした。
「いっぱい遊んだのに、意外と時間は経っていないんだね」
「夢の世界にいるときはこっちの時間は進まないからな」
案内人がカギを閉めながら教えてくれた。
「そうなんだっ」
「時間を気にせず楽しみたいだろ。そうださっき拾った歯車は持っているか、少年」
「うん。これどうするの」
落とさないよう大切に強く握りしめていた小さな歯車を案内人に見せた。
手のひらの歯車は月明かりが反射している。
案内人が小さな歯車と時計塔の大きな歯車に触れた。
案内人が触った歯車からふんわりとした太陽のような温かい光で、時計塔の中を満たした。
大きな歯車の隅にある錆びた小さな歯車に、案内人が軽く指をあてるとパラパラと崩れ落ちる。
粉になった歯車だったものは床に触れるとすっと消えた。
真剣な目で流れるように手を動かす案内人はカッコよくて魔法使いみたいで目が離せない。
にやりと笑ういたずら好きな案内人が遠くに行ってしまったみたいで少し寂しくなる。
案内人は歯車の粉が無くなったのを確認すると、僕の目をみて優しく手招きをした。
「ここにその歯車を近づけてみな」
案内人が指さした錆びた歯車があった場所に歯車を近づける。
近くまで歯車を持っていくと手から歯車が離れて、吸い込まれるように歯車がはまった。
きらりと見つけた歯車が一瞬光ると、時計塔の歯車の光がまぶしくなって消えた。
規則正しく動く時計の歯車を見上げる。
来た時には気づかなかったけど小さな錆びた歯車が沢山ある。
その中で見つけた歯車が月に照らされて輝いて見えた。
「ねぇ、案内人また会える?」
歯車を見上げている案内人を見上げて尋ねた。
「時計塔に招かれればすぐにでも会えるさ」
「明日でも明後日でもまた遊べる?」
「明日は友達と遊ぶ約束があるだろう」
案内人は軽やかな笑い声をあげると、「だから明後日な」と優しく笑った。
「分かった、明後日ね。絶対だよ」
窓から見える町の光が手を伸ばせば届きそうな星空みたいだ。
「またな、少年。ママと仲直りできるのをここから見ていてやる」
「ありがとう。怒られるかなー」
「大丈夫だ、この町のことなら全部知っている俺が言うんだから間違いない」
「そうだね。じゃあね案内人」
螺旋階段の手すりを掴んで一段降りる。
「次はちゃんと名前で呼んでね」
振り返って窓にもたれている案内人に向かって声を張る。
「あぁ、またなカリスト」
案内人が小さく振る手に振り返して、駆け足で階段を下りて時計塔から出る。
時計塔から家までは一本道だ。
急ぎ足なんかじゃ足りない。ママがいる家までのレンガ道を強く蹴って走る。
家に近づくほど走るスピードがぐんぐんと速くなる。冷えた夜の空気を吸い込むと気持ちがいい。
家の扉の前で、深呼吸をする。
振り返って見た時計塔は綺麗な星空を背に堂々とたっていた。
「ママ!ただいまっ」
扉を勢いよく開けて、電話をしているママに抱き着いた。
「ママ、大っ嫌いなんて言ってごめんなさい。本当は大好きだよ」
ママは目を丸くしながらも、受話器をすぐに置いて抱きしめ返してくれた。
「ママもカリストが一番大切で大好きよ」
頭を優しく撫でてくれる。世界一温かくて優しいママの手がやっぱり落ち着く。
ぐうぅと大きなお腹の音が家の中に響いた。
ママと目を合わせて笑い声をあげる。
「お腹すいたっ!」
「ママもお腹すいちゃった。温かいうちに食べようか」
「うん」
ママと二人で食べたグラタンでお腹も心も、はち切れそうなくらい幸せでいっぱいだ。
ママが洗い物をする水の音を聞きながら、机の真ん中にあるクローバーを見つめる。
「そうだっ」
鞄からノートを取り出す。僕の夢が詰まった大切なノートだ。
新しいページを開いて、案内人とクーちゃんとシトを真ん中に描いた。
どんなことをして、どんな冒険をしようか思いついたことをノートに描く。
楽しくてきっと明後日だけじゃ足りない。
そしたらまた遊ぶ約束をしよう。
ふわっと体が浮いて目を開ける。
時計塔の夢の世界で何をして遊ぶか考えているうちに寝ちゃっていたみたいだ。
僕が描いた絵を見てママが微笑んでいる。ママの笑顔を見ながら、明日もみんなが笑顔になるような絵を描きたいと強く思った。
ママがベットに運んでくれる腕の中でまた目を閉じた。
これで第一章完結です。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
第二章も引き続き読んでいただけると嬉しいです。




