10
手を振るぬいぐるみに手を振って、時計塔から続く一本道を歩く。
この道をまっすぐ行くと何があるんだろう。
「次はなにする?」
後ろを歩く案内人に振り返って大きな声で聞く。
「少年は何がしたい」
「僕はね、この世界を冒険したい」
冒険。言ってみたはいいけれど何をしたら冒険になるんだろう。
んー、冒険には仲間が必要だ。
パパが聞かせてくれた話も、よくある絵本の話にも仲間がいる。
「クーちゃん、おいで」
親指と中指をこする。
一瞬で乾かした案内人みたいかっこよく出来ると思ったけど、掠れた音しかならない。
僕が鳴らした掠れた音と共にポンっとクーちゃんが現れた。
「どう、案内人みたいだったでしょ」
ふふんと胸を張って案内人を見上げる。目が合うと案内人は口元を隠して肩を震わせた。
馬鹿にしてくる案内人なんか無視だ、無視。
「クーちゃん、これ持てる?」
抱えられなくて地面に置いていたバスケットを指さした。
「キュイッ」
クーちゃがまかせろと言わんばかりにクルッと空中で一回転すると、バスケットを咥えた。
「クーちゃんすごいね」
「キュイ」
褒められて嬉しいのか頭をこすりつけてくる。
「あはは、くすぐったいよ」
撫でても、撫でてもクーちゃんのぐりぐり攻撃は終わらない。
「背中に乗ってほしいんじゃないか」
クーちゃんと笑い声を上げながらじゃれていると案内人が声をかけてきた。
「そうなの?」
「キュイキュイ」
クーちゃんが肯定するように鳴いた。
クーちゃんの背中にまたがる。
さっきは少ししか乗っていなかったから、また乗れて嬉しい。
「よろしくね、クーちゃん」
そう声をかけて、クーちゃんの頭を撫でた。
「キュイー」
クーちゃんは大きく鳴くと、勢いよく時計塔が米粒みたいに見えるほど急上昇した。
「たかーいっ。僕こんな高い場所生まれて初めてだよ」
高くて震える手をクーちゃんから離して下にいる案内人に大きく両手を振ると、案内人も振り返してくれた。
最初はあんなに高く感じた時計塔よりももっと高い場所にいる。
怖いけれど、夢の世界の端っこまで見えそうでワクワクする。
レンガの一本道は小さな丘に続いているのが見えた。あとであの丘でごろごろするんだ。
丘の先は深い森がずっと向こうまで続いている。丘から先には行けないのだろうか。
夢の世界を見下ろしていると、この高さにも慣れてきた。
もし落ちたとしても案内人みたいに羽を生やせばいい。そう思うと怖くない。
「案内人もこっちおいでよ」
大声で叫ぶと、案内人が首を横に振るのが見えた。
「え~、カッコいい案内人をもう一回見たいと思ったのにな」
「キュー」
クーちゃんも不満そうだ。
「ねぇねぇクーちゃん、凄い速さで戻って案内人をびっくりさせようよ」
「キュイッ」
クーちゃんは僕をのせたまま大きく一回転すると、ジェットコースターみたいに急降下する。
手を離して全身で風を感じると今ならなんでもできる気がした。
クーちゃんがさらに降下するスピードを上げると、バスケットからクッキーやキャンディが飛び出した。
太陽を反射してキラキラ光るお菓子が、星屑のように舞って僕の横を通っていった。
「お願い、お願い。一緒に遊ぼうよ」
クーちゃんに乗ったまま、目を丸くする案内人の手を引っ張る。
「遊んでやってるだろ」
「違うの、一緒に空を飛んで遊ぼうって言ってるの」
ほっぺたを膨らませても、首を縦に振ってくれる気配はない。
「疲れるから、もう空は飛びません」
スタスタと歩いていく案内人に追いついて、ポコスカと頭を叩く。
「ね、お願い」
横目で僕をみた案内人と目があった。
案内人はバスケットに残っていたクッキーを口に放り込みながら、首を横に振った。
「あっ、分かった。食べ過ぎて体が重くて飛べないんだ?」
つれない案内人にムッとして、からかうと溜息を吐かれてしまった。
「そういうことにしといてやるよ」
「案内人も僕と同じで、食いしん坊仲間だね」
案内人の顔を覗き込むようにいうと、軽く睨んできた。
ちょっとからかいすぎたかもしれないけど、案内人もよく馬鹿にしてくるからおあいこだ。
思わず笑い声をあげると、僕に釣られて案内人が小さく笑った。
クッキーをつまみながらレンガの道を進む。
さっき空から見えた丘までたどり着いた。
「ねぇ案内人、猫の形の木の実がなってるよ」
丘の中央に立つ木を指さして案内人を呼ぶ。
「あぁ本当だな」
「猫ちゃんがこの中に入ってるかも」
もし入っていたら僕の仲間にするんだ。
「そう思うなら中に猫がいるぞ。夢の世界だからな」
そう言いながら木から真っ赤な実をとって案内人が渡してくれる。
「確かに」
受け取った木の実からりんごみたいな香りがする。
両手で持つのがギリギリなくらい大きくて、木になっていたときより大きく感じる。
「開けてみたらどうだ」
「どうやって開けたらいいのかな」
実を目の高さまで上げて観察する。横向きに薄く線が入っている。
「この線から開くかな」
地面にドカッと座っている案内人に聞いてみる。
「そうだな。回してみたらいいんじゃないか」
「うんっ」
ジャムの瓶を開けるみたいに、木の実を回すとパカッと空いた。
「みゃあ」
木の蜜にまみれた子猫と目があった。
子猫は目を細めて鳴くと、木の実から飛び出て僕の足元をぐるぐると回りだした。




