第六十一話 ぶっ飛ばすぞ!
コノハさんが凛とした声を張り上げると
夜空が瞬時にかき消された。
頭上に広がるのは、真昼のような澄み渡る青空。
その中心から、
巨大な光の輪がゆっくりと降りてくる。
天照大御神。
この国の頂点に立つ、絶対的な太陽の女神の降臨だ。
その光に当てられたせいか
一瞬だけ足の激痛が和らいだような気がした。
……いや、嘘だ。やっぱりめちゃくちゃ痛い。
「……う、うぅ……っ!」
ハナコさんが目を強く閉じ、頭を抱えて呻いた。
天照大御神はまだ何もしていない。
大地に足をつけてすら、いない。
それなのに、その存在だけで
闇を纏ったハナコさんは苦しんでいた。
大御神が、コノハさんの隣に静かに降り立つ。
コノハさんは最敬礼でお辞儀をし、震える声で告げた。
「……では、大奥様……お願いします」
ハナコさんが必死に手をかざし
大御神に向けて漆黒の波動を放つ。
ゴォォォォンッ!
しかし、波動は直前で不自然なカーブを描き
青空の彼方へと吸い込まれていった。
満身創痍のウズメさんが、
神器『闇比礼』を振るい
攻撃の軌道を逸らしていた。
「ウズメさん、大丈夫なんどすか……っ!?」
コノハさんが駆け寄る。
「……うん、天照の光のおかげでね。
でも、まだキツいわ。……コノハっち、代わって」
ウズメさんは『闇比礼』を
コノハさんに託し、肩で息をついた。
最高神の到来。それだけで
絶望的だった戦況は完全に覆された。
大御神が、ハナコさんへ向けて静かに掌をかざす。
神通力を使う予備動作は最高神も変わらないらしい。
――天照の力は『浄化』。悪いモノは全部消すし!――
ウズメさんの言葉が頭をよぎる。
……それだけは、絶対にダメだ!!
「……やめろぉぉぉッ!!」
俺は折れた足の激痛を根性でねじ伏せ
無理やり身体を動かした。
そのまま、大御神の白い腕に全力で飛びつく。
じゅぅぅぅぅ……ッ!!
熱い! 皮膚が焼ける!
まるで真っ赤に熱したフライパンに
素手で触れているような熱量だ。
焦げる匂いと足の痛みが混ざり合い
あまりの苦痛に胃液がせり上がる。
「太郎さんっ!? 大奥様になんてことを……!
あきまへん、離れなはれ!!」
コノハさんが悲鳴のような制止を飛ばすが
俺は絶対に離さない。
傍らでそれを見ていたウズメさんだけが
なぜかケラケラと場違いな笑い声を上げていた。
ハナコさんも苦しそうだ。
攻撃が目に見えて雑になっている。
コノハさんは『闇比礼』で
ハナコさんの攻撃を丁寧に上空へ逸らしながら
必死に俺を説得してくる。
「太郎さん、お気持ちは痛いほどよう分かります!
せやけど、今を逃したらハナコはんは
ただ災厄をもたらすだけの『概念』に
堕ちてしまわはりますえ!?」
「嫌だッ!!」
「そない子供みたいなこと言うて……!
太郎さんは世界がどうなってもよろしいんどすか!?」
「いいよ!そんなもん!!」
このまま熱に焼かれて死ぬのなら、それでもいい。
……全部ぶちまけてやる!
「俺は世界なんかより、ハナコさんが大事だ!!」
「最高神だろうが何だろうが……
ハナコさんに手ぇ出したら、ぶっ飛ばすぞ!」
「……ふぇ?」
ハナコさんの攻撃が………ピタリと止まった。




