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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第五章:再起と絆の魔剣

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◆第85話:触手の悪夢、浜辺にて◆

波の音に混じり、微かに聞こえる水のざわめき。

砂の城を完成させたルゼリア、ライナ、ティセラの三人が歓声をあげた。


その直後――突如として、海から蠢く巨大な影が姿を現した。


「「「えっ……!?」」」


それは“魔蛸”――深海に棲む魔力生物であり、異常気象により浜辺まで迷い込んできた捕食者。

八本の太い足に加え、数十本の細い触手を持ち、無音で動くその異形は、人を知り、人を捕らえることに特化した恐るべき存在だった。


「うわぁっ!? な、なにっ……!」

「ル、ルゼリアっ、後ろにっ!」

悲鳴が上がる暇もなく、ルゼリア、ライナ、ティセラの身体が細い触手に絡め取られ、腕、脚、胴、そして首元まで、無遠慮に巻き付けられていく。


「んぐっ!? こ、これはっ……魔力がっ……制御できない……っ!」

「は、離せっ! 締め付けてくるなぁっ! 」

「や、やあっ!」

必死に抵抗を試みるが、魔蛸の触手は魔力を撹乱させる特性を持ち、三人は為す術なく捕らわれていく。



その間に、エクリナにも触手が忍び寄り、まどろみから目覚めるより早く、彼女の四肢を拘束していた。

「な……っ!? 何事だ、これは……っ!」

目を開けた瞬間に見たのは、仲間たちが蹂躙される惨状。


それはさらに続く、海面が再び泡立ち、無数の触手が波間から噴き出した。

一本、二本――いや、十、二十と増えていくそれらは、まるで意志を持つ蛇の群れのように、三人の少女たちへと殺到した。


「うそっ……増えてる!?」

「やだっ、こっちにも来るっ!」


触手は四肢に巻き付き、腕を、脚を、腰を締め上げていく。

肉に食い込むような圧力とともに、砂浜の上で彼女たちの身体がずるずると引き寄せられる。

力を込めても、締め付けは強まるばかり。まるで海そのものに呑み込まれるような錯覚を覚えた。


「くっ……離せっ!」

「エク…リ…ナ…たすけっ……」


そして、さらに細く、しなやかな触手たちが、締め上げていた束の間から滑り出し、入水衣の表面をなでるように這い回る。


まるで獲物の構造を“探っている”かのように――生物的な好奇心すら感じさせる不気味さだった。

しかも、魔蛸の細い触手は、それぞれの入水衣を貝殻のような外殻として扱い、 表面を這いながら魔力の流れを乱していく。


「ひゃっ、くすぐったいってば!」

「……早く、助けて……!」

「やっ、こ、これ……魔力が……吸われて………」


魔力そのものを撹乱するような感覚が全身を駆け抜け、三人の身体が思うように動かない。

息を詰まらせた悲鳴 ――それは、普段の彼女たちからは想像もできない、無力な少女たちの呻きだった。


そして、エクリナの上を這いまわる触手も、ついに“踏み越えてはならぬ領域”へと迫ろうとした――。



"ブチッ"と何かがキレた――その瞬間、空気が変わった。



「……そこは、”まだ”触れられてはおらんところだぞ? 不敬である!!」


それは、まさしく堪忍袋の緒が千切れた瞬間だった。


怒号と共に魔力が波のように迸り、エクリナの身体から漆黒の魔気が立ち上った。

拘束が弾け飛び、魔蛸は驚愕しつつも、”()()()”をエクリナへと向ける。


この時、魔蛸は生まれて初めて“本能的な後悔”というものを知った。


しかし――


「よくも気持ち悪いことしたな!!」

怒りに満ちた声と共に、ライナが魔斧で触手を一閃。

雷光が空を裂き、数本の触手を両断する。


「切断面、再生しようとしてますね……」

即座に察したルゼリアが、炎魔法で断面を焼き潰す。


「いいようにしてくれましたね……」

冷たい瞳が魔蛸を睨む。


逃げようと身を捩る魔蛸。


「どこに行こうとしているんですか? これからが“()()()()()”ですよ?」

ティセラの結界が魔蛸の動きを封じる。


「では……そろそろ、終わりにするぞ」

エクリナの言葉と共に、三人がそれぞれの高位魔法を放つ。


ライナ「サンダークラッシュブレイカーッ!」

ルゼリア「エンド・オブ・フレイム!」

エクリナ「ノワール・ブレイク!」


雷と炎と闇が交錯し、魔蛸は一瞬にして霧散した。

残されたのは、香ばしい匂いと、粘液にまみれた入水衣姿の彼女たちだった。


そして――ようやく、セディオスが戻ってきた。


「ん? この魔力は……エクリナ?」

急ぎ足で戻ってきた先には、波打ち際に座り込む少女たちの姿。

入水衣は乱れ、身体は粘液がこびりつき 、皆、半泣きの表情。


「…………」


事態を察したセディオスは無言で背を向け、調理道具を取り出した。


「ち、昼食、すぐ用意するよ」


「「「「!?」」」」

その声でセディオスが帰ってきたのを察した彼女たちは、慌てて海に飛び込み、体を洗い、入水衣を整えていった。


──そして、何事もなかったかのように、昼食の時間が始まった。

が、その穏やかな時間の裏には、確かに刻まれた“事件”の記憶があった……。

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