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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第五章:再起と絆の魔剣

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◆第84話:波間に忍ぶ影◆

碧湾町エルシェイド。

その貸し切り浜辺でエクリナ一家は休息を楽しんでいた。


ルゼリアとライナは専用の板に乗り、初の波乗りを成功させていた。

ティセラとエクリナは、海に潜り色鮮やかな魚を追いかけ、見たこともない煌びやかな世界に浸っていた。


だが、ほんの一瞬だけ、小魚たちが同じ方向へ逃げるように散った。

エクリナは振り返ったが、水の奥にはただ青い揺らぎがあるだけだった。


ひとしきり楽しんだエクリナは、軽く濡れた髪を払いながら日傘の下に戻ってきた。

潮風の中に、どこか懐かしい海の匂いが混じっている。


「セディオス、我は少し疲れたぞ……」

「お疲れ様。ほら、水をどうぞ」


差し出された水筒を受け取り、一気に飲むエクリナ。

冷たい水が心地よく喉を潤す。


「……ふぅ、助かった」


彼女の視線が砂浜に向かう。

そこでは、ルゼリア、ライナ、ティセラが魔法を駆使して砂の城を作っていた。


ライナが砂を盛り上げ、ルゼリアが適量の水を見極めて固めていく。

ティセラは成型しながら結界で崩れないように補助していく。

見事な連携――城を造っていたはずが、城壁備えて要塞と化していた。


外壁には貝殻が並び、塔の先端には流木で作った旗まで立っている。

ライナがやりすぎたせいで、城門はなぜかエクリナより大きくなっていた。


「これで塔が完成ですね」

「おっきくしすぎたかもっ!? 崩れちゃわないかな!?」

「大丈夫。支柱にも結界魔法をかけましたから」


その朗らかな笑い声が、波の音と共に耳に届く。


「たまには館から離れてみるのも良いな……」

「ああ、皆の知らない一面が見られる……」

微笑みながら見つめてつぶやくエクリナ。


「まるで母のような目をしているな、エクリナ」

つぶやきに応えるように言うセディオス。


「なっ! どちらかと言えば、我は姉に近いのだぞ……」

水筒を指先で撫でながら、真面目に答えるエクリナ。


「はは、そうだったな」

セディオスは穏やかに笑った。


エクリナはそっと微笑み、隣のセディオスと視線を交わす。

「……良い眺めだな」


「そうだな。こういう日が、永遠に続けばいいんだが」

柔らかな静寂がふたりを包み込む。


ぐうぅ~とセディオスが腹を鳴らす。

「はは、昼時か。頼んでおいた昼食を受け取りに行ってくる。店の者は、この浜辺の奥までは入れない決まりらしいんだ」


「む……そうか。ならば仕方あるまい」


「ついでに少し歩いて、酔いも覚ましてくるよ」

砂を払いながらセディオスは立ち上がる。


「む……わかった。気を付けて行くのだぞ」

もう少し語っていたい気持ちを押し込みながら、エクリナは声を掛けた。


セディオスは軽く手を振りながら砂丘の向こうへ消える。

その姿を見送った後、エクリナはゆっくりと日傘の下に身を預けた。


エクリナは小さく息を吐いた。今日は休む日。

そう決めていたから、魔力感知の範囲もいつもより少しだけ狭めていた。


ふと、エクリナの耳に“かすかな低い唸り”のような音が混じった気がした。

しかし、次の瞬間にはもう、ただの潮騒しか聞こえなかった。


エクリナは薄く目を開け、沖を見た。

波は穏やかだ。

砂の城の前では、ルゼリアたちがまだ笑っている。


(……気のせい、か)


そう思った瞬間、潮風が心地よく頬を撫でた。

疲れた身体が、警戒よりも休息を選んでしまう。


「……ほんの少しだけ、休むとしようか……」


心地よい風が優しく髪を撫で、波音が子守唄のように響く。

まどろみの中、彼女の意識がゆっくりと沈んでいく。


──そのとき、沖の波間が一瞬だけ、違う色を帯びた。

白い飛沫の中に、わずかに“黒い影”が混じり、すぐにまた消える。



砂の城の周りに作った水堀へ、波が細く入り込む。

その水が、一瞬だけ黒く濁った。


「あれ? 今、変な色しなかった?」

「海藻でも混じったのでしょう」

ルゼリアはそう言いながらも、すぐに塔の補強へ意識を戻した。


その間にも、海鳥の鳴き声がかすかに途切れ、空気がわずかに重くなる。

浜辺を撫でる潮風の向きが、ほんの僅かに――変わった。

それは、何かが「近づいている」ことを、大海が告げているようだった。


──しかし、誰も気づかなかった。

海の中、ゆらりと蠢く異形の影。

それは潮の満ち引きに紛れ、音もなく浅瀬へ近づいていた。


波が寄せるたび、黒い筋が砂の下へ潜る。

波が引くたび、それはほんの少しだけ少女たちへ近づく。


無邪気な笑い声は、まだ途切れない。

その足元で、黒い影が静かに形を変えた。


次回は、『10月9日(木)20時ごろ』の投稿となります。

引き続きよろしくお願いしますm(__)m


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

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