◆第82話:秘められし素顔、浜辺の戯れ◆
澄み切った青空と、波音が心地よく響く静かな浜辺。
セディオスが用意した無人の貸し切りビーチで、今日一日だけは戦いも使命も忘れ、心から楽しむ時間が始まろうとしていた。
日頃の労をねぎらうため、彼は皆を“碧湾町エルシェイド”へと招いたのだ。
王族・貴族専用のリゾート別荘が点在するこの街は、人目を避けたい一家にとって最適の地だった。
◇
──その数刻前。
「っ……この……! 胸のあたりが、き、きつい……っ」
脱衣所でライナが鏡の前でもぞもぞと入水衣を整えていた。
彼女の水色のビキニは元気いっぱいな印象だが、予想以上に成長していた自分の胸に思わず戸惑っているようだった。
「ライナ、胸元が気になるなら、もう少し肩紐を調整するといいですよ」
ティセラが白基調のワンピース型入水衣に身を包み、軽外衣を羽織ったまま助言する。
「ふぇっ!? てぃ、ティセラ!? み、見てたの?」
「動きがあまりに不自然でしたから。……ふふ、けれど少し発育してるんですね。
私なんて、もう成長が止まっている気がします……」
「なっ……な、なに言ってるのティセラぁっ!?」
顔を真っ赤にして抗議するライナを横目に、ルゼリアが赤の運動ビキニ型入水衣に静かに袖を通し、無言のまま支度を終えていた。
その所作は、まるで修練を積んだ戦士のように無駄がなかった。
「ふたりとも騒がしいですよ。さっさと済ませないと、セディオスが退屈してしまいます」
「ル、ルゼリアも……意外と大胆ですね。その入水衣、すごく似合ってますよ」
「……当然です。水の抵抗が少なく動きやすい入水衣を選びましたから」
静かな熱を帯びた口調に、ティセラとライナが一瞬だけ固まり、視線をそらす。
「うぬら、遅いぞ……っ! うぅ……これで本当に良いのだな……?」
最後に脱衣所から現れたのは、紫のビキニに同色のパレオを腰に巻いたエクリナだった。
堂々とした態度ながら、顔はほんのり赤く、視線は泳いでいる。
「王様……その……すごく……綺麗……」
ライナが呟くと、エクリナは顔をさらに赤らめて腕を組んだ。
「ば、馬鹿を言うなっ! 我は、セディオスに褒められるために……で、ではなく!
王たる者、この程度で動揺など……っ」
「ふふ……可愛い」
そんな乙女たちは着替えを終えたところで、ビーチへの扉がゆっくりと開かれる。
──待っていたのは、白い砂浜と青い海。
その先には、無言で佇むセディオスがいた。どこか優しい視線を彼女たちへと送っている。
「さて……今日は存分に楽しむとしよう」
その一言が、彼女たちを自然と笑顔にさせた。
華やかに、賑やかに――そして、少しだけ照れながら。
魔王とその家族たちが紡ぐ笑顔と陽光にあふれる束の間の楽園が、いま静かに幕を開けた。




