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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第五章:再起と絆の魔剣

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◆第79話:交わる理と力、探求の共鳴◆

晴れた午後、訓練場の一角には、簡易結界を張った試験区画が設けられていた。

地面には距離を測るための線が掘られ、左右には風圧の揺れを見るための布片が吊るされている。

その中央で、セディオスとルゼリアは向かい合って立っていた。


「では……準備はいいですか、セディオス?」


ルゼリアの目的は低級の風魔法をどこまで有効に扱えるのかを知るためであった。

魔法名の詠唱から発射までの遅れ、速度、そして威力。

それらを知るために実戦経験豊富なセディオスにお願いをしていた。


「ああ、いつでも構わない」


セディオスは鋼の剣を構えた。

警戒はしている。だが、口元にはわずかな笑みがあった。

ルゼリアが自分から頼みごとをする――それだけで、この試験には重みがあった。


ルゼリアは静かに頷き、魔力収束を開始した。彼女の周囲に展開される新たな魔法陣。

いつもの炎属性とは異なる、柔らかで、それでいて芯の通った魔力の波が広がっていく。


「――ウインド・ショット!」


魔法陣が僅かに唸りを上げる。

不慣れな魔法に指先が少し揺れる。

魔術師としては新人と言っているようなものであった。


ルゼリアの機微を目視するセディオス。

さらに魔力の流れが変わった瞬間、剣を構えた。

魔法が放たれる前から、その“気配”は隠しきれていなかった。


「……速い」


瞬時に察知し、剣で風弾を捌くセディオス。

真正面から受けず、刃をわずかに寝かせる。風弾は刃筋に沿って逸れ、背後の砂地を浅く削った。

その動作は、肉体の衰えを補う理に基づいた体捌きの結晶であった。


一方、ルゼリアの手元では次の魔法へ移る。

簡略化された魔法陣が重なり、風の弾丸が矢継ぎ早に放たれる。


一発目は胸元へ一直線。

二発目は頬を狙って。

三発目は足元へ。地を這うように走り、動きを縫い留めようとする。


放たれた風弾が空気を裂き、砂を巻き上げて頬をかすめた。


「詠唱速度と威力の両立……確かに、戦闘において有効だ」


セディオスは低く呟きながら、足元の風圧を読み、跳躍した。

身体強化は使っていない。着地の衝撃だけで、胸の奥がわずかに軋む。

それでもセディオスは息を乱さず、剣先を下げなかった。


低級とはいえ、魔法と剣の立ち合い。

技量を試すには、十分すぎる相手だった。


着地と同時、二人は再び向き合う。


「衰えた俺に躱せるようではまだまだだな」

素直な意見を言うセディオス。


「ですね……まだまだ詰め切れてないのですね。それも含めて実験ですが、少々悔しい気持ちもあります」

ルゼリアも掠めることしかできなかった己の魔法式を酷評した。


「……」


セディオスは腕を組み思案を巡らす。

ルゼリアはそれをジッと見て、発せられる言葉を待っていた。


ほどなくして――

「ルゼリア、炎魔法と風魔法を交互に放ってみてくれないか? 標的は俺のままでいい」


意図の読めない提案だった。

赤毛の少女は、数瞬だけ考え――首を縦に振った。


先ほどの位置に立つ二人。

「では――行きますよ」


互いを見つめ合う。

「スカーレット・ニードル!」


炎の矢をそつなく放つ。

右掌に魔法陣を備え、微動だにしていなかった。


セディオスは腰を落とし、剣の腹で炎矢を弾いた。

剣士としての本気の構えが見てとれた。


「ウインド・ショット!」


次なるは風の魔弾。

同じく右手で放つが、一瞬だけ身じろぐ。


セディオスはそれを見逃さずに体をそらして回避する。

剣すら構えていなかった。


「……」

「なるほど、セディオスは習熟度の差を見せたかったようですね?」


ルゼリアは回避の差を目視させられ、回答していた。


「そうだ、予備動作もそうだが、やはり初動が遅いな。このままでは咄嗟に使用できない」

「魔法式に違いはあるのか?」


本来の目的を告げるようにセディオスは式の違いを聞いた。


「基本構成は……いえ、風は不慣れな分、慎重な式を組んで……」

「なるほど、確かに編む動作で少し遅れが……ここで負荷が……」


問われ、紙にそれぞれの魔法式を書いていくルゼリア。

差を見極め、良いところ・悪いところを比較していく。

セディオスは、その一生懸命な姿を見ながら微笑んでいた。


 ◇


しばらくして――

再構築した魔法式の風魔法を放ち続けるルゼリア。

セディオスの回避を見ながら、脳内でさらに洗練していく。

夕日が落ち始めるころにようやく実験は終える。


「まだ改良の余地はあるが……これなら実戦投入も可能と判断できそうだな」

「炎と比べると、風は初動が見える。だが、射出後の軌道修正は悪くない」


セディオスは剣を鞘に納めながら続けた。

「相手の足を止める補助としてなら、十分に使える。決定打ではなく、次の炎へ繋ぐ一手だな」


「はい。セディオスがここまで回避できるとは、流石ですね……、次はもっと驚かせますよ」

結局最後まで直撃させられなかったルゼリアは負け惜しみのように告げていた。


「望むところだ」

挑戦的な顔をするセディオス。


二人が後にした訓練場には、理と力が交わった余韻だけが残っていた。

そこには確かに、新たな可能性の扉が静かに開かれていた。


次回は、『10月2日(木)20時ごろ』の投稿となります。

引き続きよろしくお願いしますm(__)m


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

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