◆第81話:―王の静かな嫉妬―◆
その日の夕刻。
書庫の窓から漏れる陽光が和らぎ、やがて館の空気に夜の気配が混ざり始めたころ
――エクリナは静かに廊下を歩いていた。
一歩、また一歩。 重厚なドアの前で足を止め、ノックの音が響く。
「セディオス。我であるぞ」
「どうぞ、入ってくれ」
返事を受け、扉を開けたエクリナは、書棚から何冊もの本を取り出して並べているセディオスの姿を見つけた。
「ふむ、うぬは最近、ルゼリアと随分と親しげであるな?」
唐突な問いかけに、セディオスは少し驚いたように振り返る。
「そうか?魔法研究の話で盛り上がっていただけだが」
「そ、そうであろうな……! そ、それなら良いのだが……っ」
エクリナは目をそらしながら、わずかに頬を染める。
何気ないやり取りの中に、ほんのりとした不満と寂しさが滲んでいた。
「我も……我だって、うぬと話したいことがあるのだぞ!」
「そうか。なら、今夜は俺の部屋で少し話そう。紅茶でも淹れるよ」
「なっ……ば、馬鹿を言うなっ……! ……だが、まあ……少しなら、付き合ってやっても良いぞ……っ」
彼女の表情には、幼さと威厳の狭間で揺れる複雑な感情が浮かんでいた。
「それと……」
エクリナは小さく呟く。
「ライナとも、よく模擬戦をしておるのだな……。
そっちでも楽しそうで……、ふん、うぬは我を差し置いて忙しいのだな」
(……我だって、うぬの隣に居たいのに……)
「違うよ。ライナとの修行も、皆のことを考えての訓練だ。家族を守れるようにってな」
「……っ、そ、そうか……。それなら、まあ……許してやらんでもないっ」
セディオスは、素直になれないその声音の奥に、寂しさと愛おしさを感じていた。
「ありがとう、エクリナ」
「……ふん、礼などいらぬ。そもそも我が誘ってやったのだぞ」
◇
静かな夜。月光が差し込む廊下に、ふたりの影が並んで伸びていく。
少しだけ近づいたその距離に、微かな温もりが灯る。
それは、王と家族が分かち合う――小さな幸福のはじまりだった。
次回は、『10月5日(日)13時ごろ』の投稿となります。
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