◆第80話:風の軌跡、未来を織る光◆
翌朝の魔法書書庫。
窓から射し込む朝の光が紙面を淡く照らし、インクの匂いと乾いた紙の音が静寂を彩っていた。
セディオスは机に広げた資料に目を通していた。そこへ、静かな足音が近づく。
「おはようございます、セディオス」
「おはよう、ルゼリア。昨日の実験、お疲れ様」
「はい。あの魔法式、やはり応用の幅が広いようです。
夜遅くまで考えてしまって……それで、少し改良案を」
ルゼリアは懐からノートを取り出し、セディオスの隣に座った。
ページをめくると、細かく練られた魔法陣と補助詠唱式の走り書きが並んでいた。
「これは……詠唱の最終句を短縮して、初動加速と安定性を維持する……なるほど、これは見事だ」
「ありがとう、ございます。セディオスとの研究が楽しくて……気づけば手が止まりませんでした」
微笑むルゼリアの顔に、どこか柔らかな誇らしさがにじんでいた。
「君の努力は見ているよ。これはきっと実戦でも役立つ」
「……はいっ」
そのとき、廊下の方からライナの大声が聞こえた。
「セディオス~! あとで模擬戦よろしくね〜!」
思わず苦笑するセディオスと、くすくすと笑うルゼリア。
「賑やかな家族ですね」
「そうだな。騒がしいくらいがちょうどいい」
ルゼリアは静かに頷いた。
「……こうして、誰かと知を交わせる日々が来るなんて、夢にも思いませんでした」
「それは、俺もだ」
その言葉に、ルゼリアの瞳が一層輝きを増す。
光が満ちる書斎の中で、ふたりの間に交わされた静かな誓い。
それは、未来へと続く風の軌跡のはじまりだった。




