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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第五章:再起と絆の魔剣

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◆第77話:静謐なる探求、知識の煌き◆

平穏な昼下がり。

館の一角――静かな書庫。


暖かな日差しが窓から差し込み、室内を明るくしている。

静かな書庫でページをめくる音だけが響いていた。


「……なるほど、魔力収束効率を高めるには、初動の魔力操作が鍵……」

「基本的なところですが、こういう記述を読むと再認識させられますね」


ルゼリアは分厚い魔導書を読み解きながら、幾つもの紙に魔法陣や術式を書き連ねていた。

その様子を、廊下から静かに覗いていたセディオスは、ルゼリアの集中した横顔にしばし見入っていた。


「ルゼリア、少し良いか」


「……!」

「あ、セディオス。どうぞ」


軽く咳払いして立ち上がった彼女に、セディオスは一冊の手記を差し出す。

表紙の端が黒ずみ、ところどころ傷みも目立っていた。


「この間、ティセラと話した内容で、魔力の操作について気になる点があった。うまくまとめられないのだが、意見を聞かせてほしい」

「……ええ、わかりました。もちろん、拝見しましょう」


ふたりは机を挟み、椅子に腰かけた。

丁寧な所作で本をめくるルゼリア。手記とはいえ、一冊の本として大切に扱っていた。


「……」

「これはセディオスの直筆ですか。しかも自身の魔法剣技に使用している魔法式の数々……」


ルゼリアは内容を追いながら、一つずつ理解を深めていく。

見覚えのある属性式に、効果の連なりが実戦寄りの形で組まれていた。


「ああ、そうだ。ディスフィルスに術式として刻む際に必要だということで書き出した魔法式だ」

「これまでの剣技もなるべく使いたくてな……見直しも込めているんだが……」


セディオスが問題と考えているところの相談を始める。


「ここに詠唱補助式を挿入すれば安定性は増すが、戦場では発動が遅すぎる」

「術式として書き連ねると長くなってしまって困っているんだ」


紙片に書かれている魔法式を読み解き、ルゼリアはひとつの提案をする。


「では、序盤の式を省略して戦具に担わせれば――速度も確保できます」

「魔法付与では、一部の式は同じですからね。共通の部分は省いて、それ以外は使い手が負担すれば――」


「……! なるほど、その発想はなかった」

ルゼリアの柔軟な発想に感心するセディオス。


紙の上で式が書き換えられ、インクの匂いと共に新たな理論が形を成していく。


「セディオスの魔法式は初めて見ましたが、かなり独特なのですね……」

「どこかツギハギのような、実用的に洗練されているような――そういった感じに見えます」


セディオスがこれまで構築していた魔法式の数々を目の当たりにして、ルゼリアは率直に言っていた。


「雇い入れの講師から、基本しか学べなかったからな。そのあとは手当たり次第に魔法書を読んで自分が使える属性を増やしていった」

「俺は"前"の家族には恵まれなかったからな……」


セディオスは終わったことだという感じで苦笑しながら話した。


「なるほど、独学ですか。ではもっと効率化できますね」

「この辺りの構築は必要な魔力と威力が釣り合ってません。この式はもっと素早く発動できるはずですよ」


ルゼリアの目がキラリと光ったように見えた。

はっきりと改善点があると告げていた。


「そうなのか? できれば魔力効率が上がるようにしたいんだ」


「今のセディオスに合った魔法式へ、すべて見直しましょう。もう無理はできない魔核ですし、良い機会かと思います」

「では、早速ですが、この属性の魔法式ですが――」


その言葉を皮切りにルゼリアは次々と魔法式の見直しを行っていく。

セディオスもなんとか付いていき、意図を説明しながら再構築を進めた。

沈黙を挟むことなく、思考が交錯し、互いの熱が理論を磨き上げていく。


(……こうして共に考えられる。まだ、俺にもできることがある)


静かで、しかし熱を帯びた時間が流れていた。

夕方になる頃、ようやく"半分"の魔法式の再構築が完了した。


「ありがとう、ルゼリア。君の助けでまだ戦えることがわかったよ」

「新たな魔剣ができたところで、使い手が不甲斐なかったら使いこなせないからな」


剣を握るようにした右手を見ながらセディオスは感謝の言葉を送っていた。


「いえ……私こそ、セディオスの魔法式を見せてくれたことは光栄です」

恥ずかしげに俯いたルゼリアの頬は、ほんのりと紅く染まっていた。


「まだ再構築は残ってますから明日も手伝いましょうか?」

机の紙を見ながら提案するルゼリア。


「ああ、頼むよルゼリア」

セディオスは笑顔で答えた。


窓から差し込む西日の淡い光が、机に広げられた図面とインク壺を照らしていた。

静かな書庫。 けれどそこには、確かな絆の火が灯っていた。


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