◆第77話:静謐なる探求、知識の煌き◆
平穏な昼下がり。
館の一角、静かな書庫でページをめくる音だけが響いていた。
「……なるほど、魔力収束効率を高めるには、初動の詠唱タイミングが鍵……」
ルゼリアは分厚い魔導書を読み解きながら、幾つもの紙に魔法陣や詠唱式を書き連ねていた。
その様子を、廊下から静かに覗いていたセディオスは、ルゼリアの集中した横顔にしばし見惚れていた。
「ルゼリア、少し良いか」
「……! あ、セディオス。どうぞ」
軽く咳払いして立ち上がった彼女に、セディオスは一冊のノートを差し出す。
「この間、ティセラと話した内容で、魔力の循環について気になる点があった。うまくまとめられないのだが、意見を聞かせてほしい」
「……! もちろん、喜んで」
◇
ふたりは机を挟み、魔法理論についての議論を始める。
「ここで詠唱補助式を挿入すれば安定性は増すが、戦場では発動が遅すぎる」
セディオスが否を示すと、ルゼリアはすぐに反論を重ねる。
「では、最終句を省略して術具に担わせれば――速度も確保できます」
「……! なるほど、その発想はなかった」
紙の上で式が書き換えられ、インクの匂いと共に新たな理論が形を成していく。
沈黙を挟むことなく、思考が交錯し、互いの熱が理論を磨き上げていった。
(……こうして共に考えられる。まだ、俺にもできることがある)
静かで、しかし熱を帯びた時間が流れていた。
やがて、ふたりの議論はひとつの結論に辿り着いた。
「ありがとう、ルゼリア。君の助けでようやく形になった」
「いえ……わたしこそ、セディオスとこうして一緒に考えられて、光栄です」
恥ずかしげに俯いたルゼリアの頬は、ほんのりと紅く染まっていた。
窓から差し込む午後の光が、机に広げられた図面とインク壺を淡く照らしていた。
静かな書斎。 けれどそこには、確かな絆の火が灯っていた。




