◆幕間:家族たちの日常◆
エクリナが守る日常には、かつて共に戦った“家族”の姿もあった。
◆《ルゼリア編》
深紅の短髪、緋色の瞳を湛えた少女は、静かに書庫の扉を開ける。
華奢な体躯と引き締まった表情が、彼女の“理知”を物語っていた。
「……また猫が忍び込んでいました。片付けておきます」
書架の影に現れたルゼリアは、猫を丁寧に抱き上げ、そっと扉を閉める。
「最近、この子たちはどうも私の読書時間を狙ってくるようです」
そう言いながらも、その目元はどこか和らいでいた。
「エクリナ、根菜類を収穫してきました。本日のスープも楽しみにしています」
かつて炎魔法を操り“獄炎”のルゼリアと恐れられ、全てを灰燼に帰していた少女。
今は静かなる知の管理者として、館を支えている。
◆《ライナ編》
水色の髪が揺れる。雷光を帯びた足取りで、森から帰還したのは――ライナだった。
元気な笑顔を浮かべた少女は、その日も森を自在に駆け抜けていた。
ややつり目の瞳は獣のような勘を感じさせ、均整の取れた肢体にはしなやかな筋肉が宿る。
「王様ーっ! 今日はでっかいイノシシ取ってきたよ! 夕飯、楽しみにしててねっ!」
獲物を軽々と担いで帰ってくる姿は、まさに野生の化身。
水色の髪が陽光を反射し、風を切るたびに雷鳴のような魔力のきらめきを帯びる。
「ついでに、キノコとかベリーもいっぱい取ってきたんだ。あ、これ毒じゃないよ! ――たぶん!」
彼女の魔法は雷。
その身体能力を最大限に活かす雷魔法によって、戦場では“雷迅”の二つ名を得ていた。
「この食材で王様に、最高の夕飯を作ってもらうんだ~!」
その笑顔と活力が、館に日々の輝きをもたらしている。
戦場を駆け抜けた雷の申し子は、今や暖かな食卓の一角を守る、陽だまりのような存在となっていた。
◆《ティセラ編》
金糸のように艶やかな髪は淡い色のリボンでまとめられ、落ち着いた佇まいを引き立てている。
厨房では、エクリナから頼まれた食材保管用の魔導術具を設置中。
「……昔は戦争のための魔導術具ばかり作っていたのに、今は食卓を守るためのものを作っている。……変わるものですね」
静かな声とともに、どこか誇らしげな微笑みがこぼれる。
「近隣の動向は落ち着いています。けれど――」
少しだけ言葉を濁してから、そばのエクリナに琥珀色の目を向ける。
「エクリナの傍で、必要なことを、必要なだけ。それが今の私の務めです」
かつては宿命に縛られ、「魔哭神」の居城を守護する運命を覆した少女。
今は一家の守り手として、誇らしく微笑んでいた。
静かで、賑やかで、あたたかな日々。
それは――かつて世界に絶望した少女たちが手にした、ささやかで確かな幸福だった。




