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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第一章:それでも、主の傍に

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◆幕間:家族たちの日常◆

森林の縁に佇む、かつて魔導士が住んでいた館。

立地は緑風郷リマリスの郊外。小高い丘と森、澄んだ川に囲まれた穏やかな場所。

そこに、主セディオスと四人の少女が共に暮らしている。

エクリナが護る日常にはかけがえのない存在たち、かつて共に戦った“家族”の姿もあった。


赤毛の少女——ルゼリア。

深紅の短髪、緋色の瞳を湛えた少女は、静かに書庫の扉を開ける。

華奢な体躯と引き締まった表情が、彼女の“理知”を物語っていた。


「……また猫が忍び込んでいました。片付けておきます」

そう言って書架の影から現れたルゼリアは、猫を丁寧に抱き上げ、そっと扉を閉める。


「最近、この猫たちはどうも私の読書時間を狙ってくるようです」

そう言いながらも、その目元はどこか和らいでいた。


「エクリナ、根菜類を収穫してきました。本日のスープも楽しみにしています」

作業服の裾についた土を指先ではらいながら、静かに報告する。


「……それと。猫の写真、撮りためています」

ルゼリアは少しだけ視線を逸らし、写真機を抱え直した。

「本にするつもりです。完成したら……お見せしますね」

館の本を読み込むうちに、自分でも作りたくなって写真集に着手した。


かつて炎魔法を操り、“獄炎”のルゼリアとして恐れられ、全てを灰燼に帰していた少女。

今は静かなる知の管理者として、館を支えている。



青髪の娘——ライナ。

水色の髪が揺れる。雷光を帯びた足取りで、森から帰還したのはライナだった。

元気な笑顔を浮かべた少女は、つい先ほどまで森を自在に駆け抜けていた。

ややつり目の瞳は獣のような勘を感じさせ、均整の取れた肢体にはしなやかな筋肉が宿る。


「王さま~! 今日はでっかいイノシシ取ってきたよ! 夕ごはん、楽しみにしてるねっ!」

獲物を軽々と担いで帰ってくる姿は、まさに野生の化身。

水色の髪が陽光を反射し、風を切るたびに雷鳴のような魔力のきらめきを帯びる。


「ついでに、キノコとかベリーもいっぱい取ってきたんだ。あ、これ毒じゃないよ! たぶん!」

「“たぶん”などという曖昧さを捨ててから持ち帰るんだぞライナ」

厨房の奥から、エクリナの冷静な声が飛んだ。


彼女の魔法属性は雷。

その身体能力を最大限に活かす雷魔法によって、戦場では“雷迅”の二つ名を得ていた。


「この食材で王さまに、最高の夕飯を作ってもらうんだ~!」

「ふ、任せろ。血抜きも終わっているな、見事な切り口だ。今日の予定を変更してシチューにしてやろう」

エクリナはイノシシを確認し、皮を剥ぎ始めた。


「手伝うね! とりゃ!」

ライナはそういうとシシの首を豪快に切り落とす。横目で見やるエクリナは、前足を外し始める。

二人の解体合戦が始まっていた。


雷娘の笑顔と活力が、館に日々の輝きをもたらしている。

戦場を駆け抜けた雷の申し子は、今や暖かな食卓の一角を守る、陽だまりのような存在となっていた。



金髪の童女——ティセラ。

金糸のように艶やかな髪は淡い色のリボンでまとめられ、落ち着いた佇まいを引き立てている。

厨房では、エクリナから頼まれた食材保管用の魔導術具をせっせと設置している最中だ。


「……昔は戦争のための術具ばかり作っていたのに、今は食卓を守るためのものを作っている」

軽く指先で刻印の仕上がりをなぞり、ティセラは小さく笑う。

「……変わるものですね」

静かな声とともに、どこか誇らしげな微笑みがこぼれる。


魔導術具の調整を終えたティセラは、外の景色にちらりと視線をやる。

「近隣の動向は落ち着いています。けれど――」

少しだけ言葉を濁してから、そばのエクリナに琥珀色の目を向ける。


「エクリナの傍で、必要なことを、必要なだけ。それが今のわたしの務めです」

ずっとそばにいるティセラは、これからもそうありたいと口に出していた。

「頼もしいぞ、我が親友」

その宣言に口元が緩むエクリナ。


すると――

「ん? ライナが帰ってきたな、出迎えてくる」

窓の外を見ると、ライナがイノシシを外に置いていた。


「大物ですね……間に合ってよかったです」

エクリナの確認が終わるや否や、解体を開始していた。ライナも参加し、その速度は速かった。

「早くしないと鮮度が落ちますね……解体が終わるまでに起動してしまいましょう」

二人に負けじと、設置作業の速度を上げるティセラであった。


かつては宿命に縛られ、『魔哭神』の居城を守護する運命を課せられていた少女。

今は一家の護り手として、誇らしく微笑んでいた。


静かで、賑やかで、あたたかな日々。

それは、かつて世界に絶望した少女たちと、その“魔王”がようやく手にした、ささやかで確かな幸福だった。



夕刻——

柔らかな日差しが館を染める頃。食卓に、音が集まっていく。

本のページを閉じる音。獲物を下ろす鈍い音。工具を片付ける金属音。

その全部の中心にいるのが、エクリナであった。

食卓ではセディオスを囲んで、エクリナたち四人が席につき、談笑していた。


「今日の夕餉は我が自信作のシチューである。うぬ、感謝して食すがよい!」

胸を張って言いながらも、エクリナはセディオスの感想を内心そわそわしながら待っていた。

とろりと湯気を上げる鍋からは、肉と野菜の香りが食卓いっぱいに広がっている。


「これはうまい! 一段と腕を上げたんじゃないか?」

笑顔で褒められ、エクリナは思わず頬を赤らめる。


「当然だ! ルゼリアの丹精を込めて育てた野菜、ライナの仕留めたイノシシの肉、ティセラの見事な保存用魔導術具……これらを合わせれば至高のシチューになるのは道理だ!」


「ん~っ! このお肉の柔らかさ、完璧だよ、王さま!」

ライナは口いっぱいに頬張りながら親指を立てる。


「この野菜の甘みを生かした味付け……病みつきになりますね」

ルゼリアは淡々と告げつつ、目元にはかすかな笑みを浮かべた。


「……焼きたてのパンにも合いますね」

ちぎったパンをシチューに浸しながら、ティセラも小さく微笑む。場は和やかな空気に包まれる。


「まだまだお代わりはあるからな、存分に食すがよい!」


こうして今日も、笑い声が静かに響く。

かつて世界に受け入れてもらえず、戦い続けた少女たちが、今はただひとつの卓を囲み、主と共に過ごしている。

それが、彼女たちの“今”。――そして、エクリナが護り抜く日常だった。

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