◆第34話:静寂の中の誓い◆
戦いの余韻がようやく静まった戦場――崩れた岩壁、焦げた地面、散らばる影の残滓。
その中央で、三人の少女が静かに息を整えていた。
「……無事、終わった……んだよね?」
ライナは《魔斧グランヴォルテクス》を肩に担ぎ、疲労と安堵の入り混じる顔で呟いた。
「ええ……今は、ね」
ルゼリアも《焔晶フレア・クリスタリア》を納め、空を見上げる。
その瞳には、まだ見ぬ“次”への覚悟が揺れていた。
エクリナは深く息を吐き、空間を見回す。
「リゼルは退いた。だが、あやつは何を計画しているのか……次なる戦いに備えねばな」
「それに……“我が姉”か……我ら『神造生命体』は因子での繋がりだが……よもやこんな出会いになるとはな……」
「……愉快とは言い難いな」
「……あいつの目、何かが欠けてた。感情じゃなくて……心が」
ライナがぽつりと漏らすと、ルゼリアもうなずく。
「感情がないのに、あれだけ話せるなんて……逆に、怖かったですね。理屈だけで動いているなら、止まる理由がない」
やがて、ティセラとセディオスが戦場の外縁から現れた。
ティセラは魔力を保ったまま周囲を見回し、結界を解放する。
「魔力波長、安定しました。今のところ、転移痕跡も消失。リゼルも来ないでしょう」
「……むしろ、綺麗すぎるくらいです。魔力の残滓がほとんど残っていない……意図的に痕跡を消している可能性が高いですね」
セディオスはエクリナたちを見て、わずかに微笑みを浮かべる。
「よくやった。……本当に、よく耐えたな」
「当然であろう。我が側近にして家族……その誇りは、決して折れぬ」
エクリナはゆっくりと歩み寄り、セディオスの隣に並ぶ。
「だが……」
彼女は空を見上げながら、静かに続けた。
「この世界には、まだ我らを脅かす者がいる。それが『何』であろうと、我は必ず打ち砕く」
「その時は、また戦うの?」
ライナが問いかける。
「ふむ……そうならぬためにも、今一度、備えを整える必要があるな」
エクリナは少し微笑みながらそう答える。
「帰りましょう、皆」
ティセラが穏やかに言い、全員がうなずいた。
夜——
再び館に戻ったエクリナたちは、テラスで静かな時間を過ごしていた。
セディオスがバーボンの瓶とグラスを持って現れ、エクリナの隣に座る。
「今日は、本当にお疲れさま」
「ふ……我は王、当然の務めを果たしたまでのこと」
そう言いながらも、エクリナの声音はどこか柔らかい。
二人でグラスを傾け、夜空を見上げる。
「……思い出したくもない気配だった……あれは“魔哭神”に通じていた……」
エクリナが、ぽつりと呟く。
「過去からの逆襲か……」
セディオスが静かに返す。
「それでも、どうしても護り切れないと判断したら、その時は皆一緒に逃げよう。
生きてさえいれば、取り返せるものもある」
エクリナは一瞬、驚いたようにセディオスを見た後、ふっと笑った。
「ふ、弱気に聞こえて、その実、一番しぶとい策だな。それでこそ我が主よ」
「平穏な日々はどこへやら……だな」
二人のグラスが、静かに音を立てて重なった。
その音は、再び訪れるかもしれない嵐への覚悟と、今を慈しむ心を映していた。
テラスの外では、虫の声と、遠く波打つ森のざわめきだけが夜を満たしている。
「何が来ようとも――この日々だけは、我が闇を賭してでも護り抜いてみせよう」
エクリナは小さく呟き、その誓いを夜空へと溶かしていった。




