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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第三章:静穏と影の狭間

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◆第31話:命なき刃、闇を裂く◆

白銀の煌めき。

そして、闇の斬撃。


黒騎士の双剣が、猛禽のような軌跡を描いてエクリナを切り裂かんと迫る。

しかしその瞬間、空間が歪み、斬撃が通過した先に彼女の姿はなかった。


エクリナは黒騎士の背後に現れると、魔杖を横薙ぎに振るう。

カキンッ!と右手の剣がそれをはじく。


「これならばどうだ! シャドウ・クロスアサルト!」


エクリナは魔杖の先端に闇刃を展開し、転移を交えて連続斬撃を繰りだした。

フェイントを交え、残像を重ねていく。

黒騎士は腹部、左腕部、背面へと次々に衝撃を受けるが、それにひるまず立ったままであった。


「硬いな……」


エクリナはそう呻くと、さらに転移を重ね、黒騎士の背後に立つ。

すると――


突然、黒騎士は振り向き、二振りの剣で斬撃を放ってきた。

エクリナの転移地点を予測し、反撃に出ていた。


「なッ! プレッシャー・ケイジ!」


エクリナは魔盾盤をかざすと、空間膨張による圧を上空から与えた。

刹那の斬撃を遅らせ、間合いを空けることに成功していた。

エクリナと黒騎士には五歩分の狭間が開いていた。



敵の将は――無言、無表情。

生気も闘志も感じられない。


「……命令と反射のみで動く、か。意志なき刃など、ただの道具に過ぎぬ」


その言葉が聞こえたか、再び相手は動き出す。

黒騎士は魔力を両腕に集中させると、双剣を水平に構えた。

双剣から魔力刃を放ち、目の前のエクリナを強襲する。


空間転移で回避するエクリナ。

今度は騎士の側面へ移動するが――同時に黒騎士が肉薄していた。


「何故、わかる……!」


再び空間転移で退こうとした――だが、間に合わなかった。

双剣の一閃が彼女の魔杖を弾き飛ばし、続く斬撃が魔装を掠める。

《魔盾盤ヴェヌシエラ》で受け、回避行動をとる。


「っ、チッ……!」

後ずさりしながら跳び、魔杖を回収しつつ距離を取る。


(――動きが異様に良すぎる。魔力感知が鋭いのか……通常の魔術師では間違いなく捉えられるな)


エクリナはすぐに態勢を立て直し、左手を掲げる。

「シャドウ・グラトニー――深淵であがけ!」


地面に奈落が発生、黒騎士を飲み込めてはいないが、動きが鈍る。

そこへ、魔力を収束した闇弾と空間槍を撃ち込んだ。



爆轟。

瞬間、黒い閃光が煙を貫いて飛び出した。


「まだ動けるか……!」


黒騎士の鎧にはひびが入り、兜にも亀裂が走っていた。だが動きは止まらない。

双剣を構え直す黒騎士。


再び接近、旋回、斬撃。


エクリナは空間の壁を展開し、斬撃を滑らせる。

再度黒騎士の足元へ〈シャドウ・グラトニー〉を展開し、わずかに動きを封じ隙を生み出す。


「ダークネス・フラクトル!」


エクリナの足元の影が四つに分かれる。

それは天へと伸び、影人形となる。エクリナと同じ洋装だが黒き姿であった。


「人形よ掛かれ!」


〈シャドウ・バレット〉〈ディメンション・スライス〉

〈ナハト・シンフォニア〉〈シャドウ・クロスアサルト〉

四体の影は半自動で動き、ランダムに中級魔法以下の術を放つ。


黒騎士は一体の影人形と撃ち合う。

影エクリナの杖術は単調で、容易に切り伏せられてしまう。

残り三体の影人形も単調に魔法を放ち、黒騎士を足止めする。

それは、エクリナに刹那の“詠唱の余裕”を捻り出すための時間稼ぎだった。


「……“静かなる破滅”をくれてやろう」

「ルゼリア、ライナ――退避しろ」


《アストラルリンク》を通じて静かに命じる。

《魔盾盤ヴェヌシエラ》を構え、詠唱に入っていた。


「空間よ、応えよ……我が闇は、もはや形を持たぬ。時間は砕け、次元は沈黙する。記憶されることすら許されぬ、完全なる消去――ここに下すは、魔王の消滅令ッ!」


「アニヒレイト・ゼロ・ディメンション!!」


ピッシン!――ガガガガ――ガッシャアアァァァン!!


何も無いはずの空間が破砕した。

硝子板が幾重にも砕かれるような音と共に潰され、敵は吸い込まれたのち、世界そのものが大音響と共に反転・爆裂する。

ルゼリアやライナが相手にしていた下級兵だけではなく、自身の影人形すら巻き込む、一掃の一撃だった。


――だが、その中心から再び立ち上がる影があった。


黒騎士。

まだ、立っている。


「っ……耐えた、だと……!?」

(……この将級兵、誰かに手を加えられているだけではなく、明らかに援護を受けているな……)


空間極大魔法の威力はすさまじく、結界の守護さえも砕き、消滅へと至らしめる。

それにも関わらず、まだ黒騎士はそこに居た。


だが――顔面の装甲は半壊し、鎧は焦げ、片腕が崩れていた。

眼光だけは鋭く、体は前を向き、動く意思を見せていた。


「己が……使命は……魔王から……奪うこと……」


「奪う?……その繰り返される言葉に、意味はあるのか?」

エクリナの瞳がわずかに揺れた。


「貴様に、意志はない。勝利も敗北も理解しない。“生きている”とは呼べぬ存在だ……」

魔杖を握る手に、再び魔力が集まる。


(あれほどの一撃でも、膝すら折らぬとは……。神の兵が、意地を見せるだと? 心の芽でも出ているというのか……)


(しかも、どうも邪魔が入る。もはや、“空間そのもの”を断ち切り、存在の座標ごと削り落とす――その手を取るしかあるまい)


瞳が鋭く細まり、戦場を読む魔王の眼差しが宿る。


「……貴様の存在、しかと見極めた。我が闇で覆い隠すには――今が好機だな」


次の瞬間、二人は同時に踏み込む。

魔力と剣気、空間と斬撃。

交錯する影と影――戦いは、なお激しさを増していた。


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