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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第十二章:ルゼリアと魔術学院の灯火

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◆第304話:憧れる者たちの狂騒◆

ルゼリアとエーデルが朝食を取っている頃――

学院の掲示板前は騒然としていた。


**学長先生、久方ぶりに従士を任命! 選ばれたのは炎の新入生ルゼリア!!**

学院の新聞には大きな見出しが書かれていた。

それはまるで、娯楽誌さながらであった。


『特待従士』――それはジェンマギ学院の最優秀者しかなれない地位であり、憧れの学長と共に過ごせる特権であった。

それゆえに、エーデルに憧れ、近づきたい学徒は成績、研究成果、実技成績、素行――あらゆる面で凌ぎを削る。

だが、その慣習を飛び越える者が現れた。


それが、旅の者、赤毛の少女、そして炎の魔術師――ルゼリアであった。


ルゼリアは何も間違っていない。

入学試験を受け、学長へ一撃を与えるという快挙を成し遂げていた。

死闘を超え、自身を成長させた賜物であった。


試験を見ていた者は、黙るしかなかった。

あの一撃を、あの意地を、あの血を見てしまったからだ。


だが、見ていない者ほど声は大きい。

当然、妬む者は多かった。


彼らは怠けていたわけではない。

何年も成績を積み、研究成果を出し、エーデルに声をかけられる日を待っていた。

だからこそ、一日で隣を得たルゼリアが許せなかった。


「あんなよそ者に!」「どうせマグレ!」「妬ましい!」など様々な声が上がった。

そんな騒ぎをよそに――エーデルはルゼリアを従わせて歩いていた。


特待従士になった証明として特別な制服をルゼリアは渡されていた。

彼女の魔法属性と同じ、深紅の服で特別なあつらえ。

学徒たちが着ている黒を基調として学徒服とは全く意匠が違っていた。


「どうしたのじゃあ? 騒がしいのお」

掲示板前の集団に出くわし、疑問に思うエーデル。


「学長先生だ!」「なんで新入生を従士に!」「確かに強いけれども!」

様々な意見が織り交ざって収拾がついていない状態であった。


「はあ~。わしゃの学徒よ、試験を見ていた者は多いのじゃろう?」

「それがすべてじゃあ」


エーデルは、すべてに答えるように告げた。

それは真実そのものであり、規定に沿うものであった。

様々な意見が織り交ざって収拾がついていない状態であった。


「でも戦具使ったし!」「ルゼリア可愛いからって手加減しなかった?」

など、執拗な質問が飛び交う。


エーデルの眉が、ぴくりと跳ねた。

足元の石畳の小片が、かすかに震える。


「何か勘違いしておらんか? 従士の数に制限はないのじゃあ」

「わしゃが好きなものは、魔術師の才能だけではないのじゃがなぁ?」


「屈託のない精神、すべてを投げ出す覚悟、そして……柔軟な意思じゃあ」


エーデルは従士への条件、というよりは自身のお気に入り条件を高らかに話した。

それを聞くほどに、一名だけ顔の赤さを濃くしていく。


「ま、マスター……そ、それくらいでいいのではないのですか?」

何とか声を振り絞ったルゼリアは、これまでの生で最高潮に顔が赤かった。


ルゼリアは周囲の視線を静かに観察していた。

好意、敵意、嫉妬、好奇心。

どれも戦場の殺気よりは軽い。だが、長く浴びるには疲れる類のものだった。


「ひひひ、わらべたちよ。これくらいになれば、いつでもわしゃの元に来てよいぞ?」


隣のルゼリアを親指でくい、と示す。

今の学徒が目指す姿の結果でもあるという言い草であった。


「さて、学院の案内の続きがあったのじゃったな。わらべどもよ、また会おうぞ」


エーデルはひらひらと手を振り、ルゼリアを連れて学徒たちの前を通り過ぎていった。

学徒たちは、諦める者・諦めない者、そして、ただただ嫉妬する者。

その場は混沌としていた。


その光景を横目で見るルゼリア。

「良いのですか? あんなことを言って」


「ああ? よいのじゃあ。遅からず、自身の壁に立ち向かうことになるじゃろうて。それからが、この学院の真骨頂じゃな」


教育者の顔のエーデルは冷たくも救いの言葉を放つ。

学び舎たる学院とは、足りないものを教える場所。

しかし――何が足りないのかを認識できない者にとっては、退屈な空間でしかない。


そこに、エーデルは一石を投じ続ける。

いつしか、生み出す波紋が届くように、気づいてくれるように。あえて挑発的なことを言い放つ。

その横顔は、楽しげに見えて、どこか祈るようでもあった。


それからもエーデルの学院案内は続いた。

幾つもの試験会場、講義室への回廊、学徒と講師が利用する食堂。

そして――最後にたどり着くのは、ルゼリアが待望した魔法書の数々が並ぶ、魔法図書館であった。


「おおーー、素晴らしい!!」


赤毛の少女は本日一番大きい声を図書館中に響かせた。

勉学中、閲覧中、捜索中、片付け中――数多の学徒が一斉にルゼリアを見た。

図書館とは静寂を保つのが一種の決まりであり、それを犯した特待従士に冷たい視線を突き付ける。


そんなことにお構いなしのルゼリアは、気分を高揚させ図書館内部を見渡す。

驚くのも無理はなかった。

五層吹き抜けの構造で、壁という壁に本が埋まっている。本棚が花弁のように整然と立ち並ぶ。

圧倒的な本の山にとびっきりの笑顔を見せるルゼリアであった。


「おーおー、わらべどもすまんのじゃあ」


エーデルはこちらを見やる学徒に謝罪し、落ち着かせていた。

その声に溜飲が下がった学徒たちはそれぞれの動作に戻る。


「どうじゃ、すごいじゃろ?」


ドヤッとした顔で隣のルゼリアに声を掛けるエーデル。

しかし―――ルゼリアはその声が耳に入らない。


「これだけあれば――あの方の著書の続きや、いえ――この前見た理論の証明もできるかも」

「そういえば、時魔法に関する情報が――、まずは何から――」


本の山に目を奪われるルゼリアはブツブツと独り言を繰り返しては、怪しげな微笑みを見せていた。

それは、初めて見るものであれば恐ろしく感じたかもしれない。

しかし、エクリナら――家族にとっては普通の反応であり、可愛らしく映る表情であった。


「ひひひ、そこまで陶酔できるとは……本に魅入られたものじゃな」

「これもまた、学徒への手本かのうぅ」


自身が認めた従士の顔を見ながら満足げなエーデル学長。

その顔は新たな試みを思案するようでもあった。


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