◆第299話:公開入学試験◆
王立ジェンマギ学院、その塔の頂に学長室はある。
風が吹きすさぶ部屋の中で、ルゼリアとエーデルは見つめ合っていた。
互いに怪しく嗤い合う。
「折角の有望な学徒候補。そして、わしゃの試験」
「立会人は多い方がいいのじゃあ」
エーデルはそう言い放つと机の横まで歩む。
そして、そこに置かれた拡声術具を握りしめると――大声を放つ。
「わらべども聞け! これより一時間後に、わしゃ直々の入学試験を行う!」
「知見を広める、い~い機会じゃ。第一試験会場まで集まるのじゃ!!」
「それと……講師ども、しっかり働くのじゃあ!!」
エーデルは言いたいことを言い終えるとブツリッ!と術具を切った。
豪快すぎる学長の行動に目を丸くするルゼリア。
「どういうことですか?」
状況がつかめず、聞くしかなかった。
「わしゃの魔法は珍しい上に、今回はわらべの入学試験じゃ」
「多くの学徒に見せねば勿体ないじゃろう? ただそれだけじゃ」
エーデルはあくまでも学びのためと告げた。
「私の入学試験は教材ですか……変わってますね」
ルゼリアは理解し笑った。
一時間後――
王立ジェンマギ学院の第一試験会場。
フォルネアの闘技場と同じく、中央に円形の舞台があり、周囲には階段状の観客席が伸びている。
試験会場というには、お祭り騒ぎだった。
会場の席は制服姿の学徒で埋めつくされ、階段のところどころでは食べ物や飲み物を売り歩く学徒の姿もあった。
これから始まる試験に、期待し、賑わい、雑談を交わし合っていた。
「……」
「教材発言は訂正します。これはただの見世物ですね」
賑やかな光景の中心が自身であると理解しているルゼリアは、どうしてこうなったのかとため息をついていた。
だが、これも学びの場だというなら――拒む理由はない。
見られる側であろうと、得るものはある。
「ひひひ、こういうのも大事なんじゃよ? 座学だけではつまらんからのう、こういう催しは多い方がいいのじゃ」
破天荒な学長エーデルは笑いながらルゼリアを諭す。
「学長先生、ルゼリアさん! 間もなく入場です」
今回の祭り――もとい、入学試験の裏方を行っている学徒が連絡してきた。
「わかりました」
「いつもすまんのじゃ!」
ルゼリアとエーデルは承知し、合図とともに二人同時に試験会場に入っていく。
二人の姿が見えた途端、大歓声がそれを迎え入れた。
「キャーキャー」「可愛い!」「こっち見てください!」
歓声の大半は、白き学長へ注がれていた。
「おーおー、いつ見ても元気なわらべたちじゃのぉ」
そう言いながら、エーデルは機嫌よく両手を学徒たちに振っていた。
「本当に人気者ですね。まるで歌姫のようです」
水都に居る歌姫を連想させるような声援に感心すら覚えるルゼリアであった。
「ひひひ、慣れるとなかなか気持ちいいものじゃぞ。わしゃの可愛い学徒じゃからな」
「さて、そこの白線の前に立て。そう、そこじゃ」
笑いつつ、ルゼリアに段取りを指示する。
それに従い、白線前に立つとエーデルと向かい合わせになる。
無事に入場が完了すると、裏方学徒がエーデルに拡声術具を渡していた。
「よい頃合いじゃな。わらべども聞け!」
拡声術具を握りしめ、沸き立つ観客に呼びかけるエーデル。
その瞬間、学徒は一斉に静まり返る。
食い入るようにエーデルの一挙一動に注目した。
「いい子じゃ、いい子じゃあ。今日はこの学院の入学試験に来たわらべを紹介する」
「この赤毛の娘は、ルゼリアじゃ」
すぐさまおとなしくなった学徒を見て満足げなエーデル。
続く言葉でルゼリアの紹介をした。
その言葉を聞くと、ルゼリアは流麗にお辞儀をした。
「わらべども、わかっておるな?」
「せっかくの有望な学徒候補。そして、わしゃ直々の試験じゃ。しっかり見るんじゃぞ?」
学徒への説明を終えると、ルゼリアを見やる学長。
「ルゼリア、試験の合格基準は二つじゃ」
「一つ目は、わしゃの魔法属性を看破すること。二つ目は、十分以上耐え抜くことじゃ」
「ただし――わしゃに傷をつけることができたなら、その時点で合格としてやるのじゃ」
合格条件を突きつけるエーデル。
その内容は知識だけではなく、相応の実力を示す必要があると言っていた。
「あ、忘れておったが、戦具は禁止じゃ。ここは魔術学院、己の実力で挑むんじゃ」
「まあ、わらべには容易いことじゃろうがな?」
試験規定を言い終わるエーデル。
心底楽しみだという表情をしていた。
拡声術具を裏方学徒に渡す。
学長直々の入学試験が始まる!
既にエーデルからは異様な圧力が放たれていた。




