◆第298話:英雄少女と神の子◆
面妖な白い姿の少女はルゼリアをじっと見ていた。
そして、ルゼリアも怯むことなく、奇抜な格好のエルフの少女を見ていた。
(何ですか? あの奇抜な……子供用の舞台衣装姿は?)
エーデルの姿は特殊すぎた。
白色を基調にし、フリルの付いた短いスカート、身体の線に沿う衣装、可愛らしさを強調するような意匠。
すべてが可愛かった。
見つめ合う二人の少女――周囲もまた、静まり返っていた。
塔の頂から少女が下りてきたから――というわけではなさそうだった。
学徒たちはまるで憧れの舞台役者を迎えるような熱気だった。
「キャー」という歓声や「学長先生!」、「こっち見て~!」など、人気者に対する態度であった。
「わしゃ、エーデルじゃ。イーサリの紹介でここに来たじゃと?」
自己紹介しながら、ルゼリアに歩み寄るエーデル。
しかし、五歩前で立ち止まる。
エーデルは即座に顔をしかめていた。
向けられる殺気を混ぜた視線――ルゼリアはなんとなく察していた。
(なるほど、私が神造生命体であることを見抜かれましたか。かなりの強者ですね)
「講師ども!! わらべたちを学院内に入れろ、もうすぐ講義の時間じゃ!!」
エーデルは手を叩き、周囲に促す。
それに従い、講師たちは学徒を引き連れて学院内へ戻っていく。
学長に対して、学徒たちは手を振っていた。
「……中に入るのじゃ。案内するが……不審な真似を見せたら……容赦はせんぞ?」
ルゼリアを厳しく見やり、学院内へ受け入れた。
コツ、コツ、コツと、二人分の靴音だけが鳴り響く。
誰もいない回廊。
白い柱が立ち並び、いくつもの廊下が交錯しているようであった。
その先、回廊の奥へと向かっていた。
回廊の端に据えられた、ひときわ大きな円筒の前に立つ。
それに縦筋が入り、左右に割れた。昇降機の扉だった。
「乗るのじゃ」
「はい」
ルゼリアを最大警戒しているエーデル。
会話は最低限であった。
ルゼリアも状況を理解し、返事だけで済ませていた。
上へ引っ張られる感覚が体を占める頃――
「チーン」と鈴音が聞こえ、扉が開いた。
空の匂いがした。
紙片が風に流され、床には書類と割れた硝子が散乱していた。
「適当にそこの椅子に掛けるのじゃ」
クッションが乱れた長椅子を指さすエーデル。
従うようにルゼリアはそこに座った。
それを見やりながら、エーデルも椅子を引き寄せて腰を据えた。
「で、わしゃの妹と神造生命体に何の関連があるんじゃ?」
「神の子がわざわざ脅迫に来るとは思えないんのじゃがなぁ?」
二人きりの空間。
ようやく本題を切り出すことができたエーデルであった。
「やっと話が出来そうですね。まずは、こちらをお読みいただければと」
イーサリの紹介状を差し出すルゼリア。
ガサリと乱暴に封筒から手紙を出し、黙読を始める。
エーデルは手紙から目を上げ、ルゼリアの瞳をじっと覗き込んだ。
敵意はない。
だが、漏れ出る魔力の質は、確かに神が放つ波長によく似ていた。
それでも――整然とした佇まいには強い意志を感じた。
「はん、マナを魔力に変換する陣地をその場で構築じゃと? 流石、神の子じゃな、大したもんじゃ」
「で、知識豊富で発想力も豊かと……確かにわしゃの学院に推薦するのは当然じゃな」
「ご理解いただきありがとうございます」
ルゼリアはやっと納得されたと思い、微笑む。
「神の兵や、それに近い波長を持つ連中を幾つも相手にしてきたんじゃ。多少の警戒は許してくれや」
「馬鹿講師にはもう少し教育が必要じゃな。身なりで相手を判断するんじゃから、程度が低い」
エーデルは謝罪しつつ、愚痴をこぼす。
「その講師の方のおかげでここに座れてますのでお気になさらず。ちなみにその方はどうなさいましたか?」
先ほどの轟音の発生源が、学長室であることを見抜いているルゼリアは興味本位で聞いた。
「あの馬鹿にはかる~く仕置きをしただけじゃ。この学院の何たるかをわかっておらんのじゃ」
「イーサリの名が出なければ、わらべを逃すところじゃった。危ない危ない……」
カラカラと笑いながら、言うエーデル。
ルゼリアへの警戒は、少なくとも敵意ではなく興味へと変わっていた。
「この学院は身なりの良い方が多いですが、貴族の名門ではないのですか?」
ルゼリアはエーデルの言葉に疑問を投げかけた。
「はッ! わしゃの学院はそんなつまらんことはせんのじゃ。そもそもわしゃエルフじゃ、人属ですらない」
「それでもじゃ、先々代の人属王は神との戦争で功績をあげたわしゃに学院を預けてくれたのじゃ。そう、才能だけではなく努力すれば魔法を制御できると証明したのじゃよ」
エーデルは、懐かしいことを言うように和らいだ表情で昔話をする。
「だから、この学院の方針はひとつじゃ。誰でも通えるようにする、例えそれがかつての敵――神の子であったとしてもじゃ」
ルゼリアを見つめ、堂々と受け入れると宣言した。
「エーデル殿は、素晴らしい思想の方なのですね」
「それに……強者とお見受けします」
赤毛を揺らし、挑戦するかのような言い方を学長に向けて言い放った。
「知識と強さを求めているようじゃな。普段なら、階級順に講師どもに相手をさせるんじゃが――イーサリの推薦じゃからな」
「特別にわしゃが、直接わらべの力量を測ってやるのじゃ」
エーデルは怪しく嗤う。
久々に才能を持った学徒候補に興味津々であった。
魔術都市イグナメルの最高峰学院。ジェンマギの学長、エーデルからの入学試験が始まる。
次回は、『7月19日(日)13時ごろ』の投稿となります。
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