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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第十二章:ルゼリアと魔術学院の灯火

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◆第296話:騒然とする館の朝◆

技術都市フォルネアへの旅立ちから、ひと月余り。

エクリナ一家は、ようやく館の日常へ戻っていた。


遺跡都市の探索、外交の護衛、巨獣たちとの戦い。

短い旅路は、あまりにも濃かった。


それらは、隠居を望むエクリナにとって、また一つ良き思い出となっていた。

旅路の話で盛り上がる朝食の卓は、久方ぶりに穏やかな熱を帯びていた。


だが、紅茶の時間になった頃――。


カンッ!

エクリナの手から、ケーキを刺したフォークが落ちた。


唖然とする顔の先には、ルゼリア・ライナ・ティセラの真剣な面持ちがあった。

それを静かにセディオスは見守っていた。


「――今、なんといった?」


改めて聞くエクリナ。

耳に入った言葉が何かの間違いであることを願う声色をしていた。


「王、エクリナ。私は暫しの暇を頂きたいです。館を離れ、魔術都市に向かいます」

ルゼリアは端的に告げていた。


「もう一回言うね、王さま」

その言葉に振り向くエクリナ。


「僕はユヅランに行ってみたいんだ、そこでもっと強くなりたい」

ライナはエクリナと目を合わせ、覚悟をにじませていた。


「わたしもしばらく離れて、アークに住もうと思います。新型ゴーレムの製造に取り掛かるためです」

心配そうに眉を寄せながらも、ティセラは自身の希望を伝えた。


三人はそれぞれ、書状をエクリナに差し出した。

なおも呆然とするエクリナ。


恐らく、これまで見せたことのない――狼狽する表情をしていた。

手がプルプルと震え、顔を強張らせていた。


「――我が愛する者たちよ……我のことが嫌いになったのか? それともこの生活が――」


それはもうかつての魔王や、王と親しまれるいつもの姿ではなかった。

一つ一つを確かめるような、迷子になってしまった少女のように儚い顔であった。


「違います! 誤解されないでください!」

「落ち着いて聞いてよ~。王さま!」

「わたしも、もちろん愛してますよ!」


初めて見るエクリナの絶望した顔に必死に声を掛ける三姉妹。


そこに――


「エクリナ、まずはちゃんと話を聞こう。な?」

隣にいるセディオスはエクリナの頭を撫でながら抱き寄せた。


「セ~ディ~オ~ス~………ぐすん……」


もはや限界というばかりのエクリナは涙目となり、なんとか泣くのだけは我慢していた。

なおも頭を撫で続けるセディオス。

ルゼリア・ライナ・ティセラは立ち上がり、エクリナへ寄ると抱きしめていた。


「大好きです、愛してます。私の王はエクリナしかいませんよ……」

「泣かないでよ王さま~~。でも、今のままじゃ僕弱いままなんだ……」

「転移扉でいつでも戻れますから……そんな顔しないでエクリナ」


それぞれが愛する王に声を掛け、なだめる。

それはひと時続いた。


 ◇


「こほん……すまなんだ、皆。突然の……発言でな……」


まだまだ取り乱しているエクリナ。

セディオスは落ち着かせるために頭を撫で続けていた。


「訳を聞かせてくれ……今のままではダメなのか? リゼルなんぞ、我らならいつでも返り討ちに――」

エクリナは涙を拭きながら、言っていると――


「それは流石に厳しいかと思います」

ルゼリアは王に対してきっぱりと言い放った。


「なッ! いや……そうかも……しれぬな……」


今は傷の癒えた胸元を擦るエクリナ。

夜会での死闘を思い出していた。


「フォルネアに行った時のこと覚えてる? 色んな戦具に、色んな魔法、知らないことばかりだよね……」

ライナは思い出話をする。己が無知であることをやんわりと伝えていた。


「リゼルの計画が何なのかは掴めませんが……やれることはやったほうがいいと思いました」

ティセラは核心を突くように言う。


「すべてはこれまでの日常を護るためです。王がいて、セディオスがいて、皆がいる日常」

「そのためにはもっと強くなる必要があります」


ルゼリアはエクリナの涙を拭い、頬をなでた。

それはこれからも共に在りたいという誓いでもあった。


「だ、そうだ……今回の旅で縁が広がったのも事実だな」

「イーサリに……カンダチ道場……ヴァレンシア……それぞれに充てられた内容だな」


セディオスは三人の話を聞き、後押しするように書状の出先を伝えた。


「そうか……縁か……」

「成長するきっかけにはよいかもしれぬな……」


ようやく平静を取り戻したエクリナは三つの書状の内容を読む。

どれもルゼリア・ライナ・ティセラのためになることが書かれていた。


エクリナは一度だけ深く息を吸った。

震えていた指先を握り込み、涙の奥に、王としての光を戻す。


「わかった、行ってくるがいい」


エクリナは気丈な笑顔で送り出すことにした。

その涙を溜めた顔を見て、三人にも涙が出てくる。


たった三週間の別行動でも寂しかったのに、次は一人きり。

それほどまでに家族の絆は強くなっていた。


「ただし、条件がある」


エクリナは真剣な面持ちに切り替えた。

ゴクリと唾を飲み込む三人。


「週末は必ず帰ってこい。共に食事をし、土産話を聞かせてくれ」

「それが我からの命令だ」


三人をまとめて抱き寄せ、家族の契りを口にするエクリナ。


「「「はい! もちろん!!」」」


ルゼリア・ライナ・ティセラは元気よく返事をした。

例え遠くでも帰る場所がある三人――魔王エクリナはいつでも待っているという宣言でもあった。


それからは旅の支度が始まった。

いつもの旅装束に、《瞬装環アペリオ》、《次元重層収納ミディア・アーカイヴ》、そして館の転移扉へ一時的に接続できる《旅道板キーポート》を大事にしまっていた。


それぞれの道へ。

けれど、帰る場所は一つ。

三姉妹は、魔王エクリナの待つ館を背に歩き出した。


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