◆第295話:神教団の設立◆
魔哭神城の地下工房――世界を滅びへ導く拠点。
薄闇の卓を囲むのは、リゼル、ネヴァ、ヴァイエルナだった。
「ネヴァ、クリシュニアの血とその歌を記録した術具です」
「その声に共鳴する装飾品を造ってください。形状は任せますが、多くの者が身につけやすいものを。数は大量に必要です」
リゼルは今夜の収穫をネヴァに渡しつつ、次なる指示を出す。
「わぁかりぃまぁしたぁ、リゼル様ぁ。すぐにぃ準備ぃしまぁすぅ」
ネヴァはいつもの間延びした声で返事をする。
「リゼル様」
「わらわは如何しましょうか?」
ヴァイエルナはリゼルの前に立ち、右手を胸に、左腕を腰の後ろへ回して命令を求めた。
「貴方には大事な役目があります。そろそろ、ここに来るはずですが……」
リゼルは四人目の訪れを待っていた。
すると――
「リゼル様~、お待たせどす。アーキュラ、ただいま戻りましたわ~」
工房の暗闇から現れたのは、奇術師めいた魔装を纏う女だった。
灰がかった薄茶の髪は狼を思わせるように軽く跳ね、背丈はヴァイエルナとほぼ同じだった。
「?? リゼル様、この者は……」
「初ぃめてぇですぅねぇ~?」
ヴァイエルナとネヴァは初めて見た者に驚きを隠せず、リゼルに紹介を求めた。
(誰ですの? わらわたち以外に神造生命体がいましたの?)
「あちしはアーキュラ。長~う、仕えておりますえ」
「表の世界を歩く役目が多かったさかい、初めましてやねえ」
柔らかな物腰で初対面の二人に自己紹介する。
仲間なのに、雅に礼をする姿は少しだけ歪にも見えた。
「アーキュラは長く外にいましたが、次の計画に必要なので呼び戻しました」
リゼルは少しだけ補足した。
「リゼル様~、お土産がありますわ」
ネコなで声で名を呼び、卓の上に術具を置いた。
「これは?」
小さな球型の術具を手に取るリゼルは、角度を変えながら眺めていた。
「マナの命脈が記録された術具どすえ。これも欲しがっていたやろ? 入手には難儀しましたわ……まあ、頑張っているのは魔王はんですがね」
アーキュラの言葉に、ネヴァとヴァイエルナは目を見開いた。
「エクリナの動きを、そこまで追っていましたの……?」
つい、聞いてしまうヴァイエルナ。
「それは――秘密やね♪」
笑顔で柔らかくも拒絶する。
「そのあたりは、リゼル様の特権やわ~。容赦してくれやす?」
「……わかりましたわ。リゼル様、そろそろご命令を頂きたいですわ」
アーキュラのつかめない性格に少し苛立つヴァイエルナ。
それでも忠義を尽くすためにリゼルへ声を掛けた。
「では、計画を話しましょう。貴方たちはこれから、神教団を設立して信者を作ってください」
「アーキュラは教祖、ヴァイエルナは教団騎士に扮してください。ネヴァは先ほど指示した術具の製造です」
アーキュラは妖艶に微笑み、ヴァイエルナは凛々しい顔をする。
ネヴァは術具のもたらす結果を楽しみにしていた。
「拠点は魔術都市イグナメル。設立資金は宝物庫から持っていきなさい。神殿は豪奢にするように」
「さて、神教団の名は……アーキュラ、何か案はありますか?」
リゼルは計画を伝えると、名づけを求めた。
「そうどすな……」
アーキュラは細く笑い、少しだけ視線を宙へ泳がせた。
「では、“アバルーンザ”でどうどす? 思い付きやけど♪」
アーキュラは微笑み、提案した。
「……」
「悪くない響きですね、それでいきましょう。大事な計画です。じっくりと這いより、滅びへ導きましょう」
リゼルは嗤い、作戦会議を締めた。
◇
コツ、コツ、コツ――
玉座へ続く階段を上がるアーキュラ。
ひとり、ゆっくりと進む。ついてくるのは影のみであった。
「ふふふ、アバルーンザ……懐かしい響きやわ……」
思い付きと偽った名を反芻しながら、遠い記憶に浸っていた。
後ろに手を組み、慰めるように自身の左手を撫でていた。
空の玉座へたどり着くと、アーキュラはゆったりと膝まずいた。
主のいない座を見上げ、その顔をほころばせる。
その時だけは、純真な少女のようであった。
「すべては滅びのために……舞台を眺めて嗤うために、ずっと尽くしやすえ。ヴァルザ様♪」
アーキュラは、そこに誰かがいるかのように微笑み続けた。
世界に滅びが訪れるための種は、静かに蒔かれた。
あとは、それが人の世へ根を張るのを待つばかりだった。
この話で十一章が完了となります。
十章を前編として、後編として書いてみた章になります。
特にスケール感にこだわり、巨獣を出してみました。最後の総攻撃が最大の見どころなのだと思います。
詳細は活動報告に書ければと思います。
次回の投稿より十二章に突入します。
主人公がガラリと変わり、あのキャラが奮闘します!
次回は、『7月12日(日)13時ごろ』の投稿となります。
引き続きよろしくお願いします。
本日もお付き合いいただきありがとうございました!
引き続き、評価・ブックマーク・感想で応援いただけると励みになります!




