◆第293話:宴の翌日、命脈の行き先◆
『巨獣』対『種族を超えた連合軍』。
絆を重ねた一団は変異したドラコタスを倒していた。
その晩の宴会は盛大であった――その結果、朝が明けると、地べたで眠るものが大勢いた。
そんな中――空き家で一夜を過ごしたエクリナは目を覚ます。
とても暑苦しくて、快眠とすら言えない状態であった。
右腕はルゼリアが抱きしめ、左腕はライナが足にはさみ、胸元にはティセラがうつ伏せになっていた。
「はあ~、久々の四人同時添い寝だが、暑くて敵わんな……」
エクリナは忠臣の願いを聞き入れ、かつてヴァルザに挑んでいる頃の寝入り方をしていた。
内心、寂しい思いをさせたとエクリナは思っていた。
「朝か……起きねば……」
身を起そうとするがガッチリ掴まれており、起き上がることすらできない。
「う、動けん……うぬら、起きよ……」
抱き付く三人に声を掛ける。
まったく動く様子が無い。
「起きているのであろう? そろそろ支度をしなければならぬ」
エクリナは優しく告げる。
「「「……」」」
三人は本当に起きていたらしく、観念したように惜し惜しと手を放した。
「ふふ。また、一緒に寝ようぞ。ティセラ、その時は冷風を出す術具と一緒だぞ? 四人一緒は汗だくだ……」
「軽く湯を浴びねば……」
寝間着姿のエクリナは布を持ち、浴室へ向かった。
「ふう~。久々のエクリナを堪能できました」
「やっぱ、王さまと寝るとぐっすり寝れるね」
「今日も素晴らしい香りでした」
三者三様に、エクリナとの朝を惜しんでいた
「ねえ、リア姉。セディオスと話さない?」
「ええ、私もそう思ってました」
昨晩、何も声を掛けられずに就寝していた二人は裁判の結果を気にしていた。
互いは頷き合い、身支度を整えた二人は、そのまま寝室を出ていく。
それをジッと見送るティセラであった。
空き家の扉を開けると、外は死屍累々であった――
実際は死んでいないのだが、酒を浴びるほど飲み、眠るもの、二日酔いに悩まされるものなど様々であった。
ルゼリアとライナの探し人は、目の前――空き家前の階段に座っていた。
昨夜たらふく飲んだらしく、酔いつぶれて眠っていた。
炎雷の姉妹は、セディオスを挟むように両脇に座った。
「セディオス?」
「飲みすぎたの?」
優しく揺らし、起きるのを手伝う二人。
「ん――あ、ああ……ふあぁぁ~、もう朝か……」
「おはよう、二人とも」
目を覚ましたセディオスはいつも通りに挨拶を交わした。
「昨日はすみませんでした……助けることができませんでした……」
「ごめんね、セディオス。でも、リゼルと一緒に寝るなんて……ねえ?」
ルゼリアは真っすぐに謝り、ライナはリゼルのことを持ち出していた。
「ああ、俺の失態だ……しかも、エクリナが泣くとはなあ……」
頭が痛いらしく、こめかみを抑えながら言うセディオス。
エクリナの涙で気に病み、深酒をしたらしかった。
すると――
ドサリと背中に温かく、柔らかな感触が生まれた。
「悔いるのならば、二度とエクリナを裏切らないでくださいね」
ティセラが背合わせで、セディオスにもたれかかっていた。
優しい声色で、厳しいことを放っていた。
「わ・た・し・は、セディオスを信頼しています。だからこそ、『わたしのエクリナ』の傍にいることを許しているんですよ?」
ティセラは体重を掛けて更にもたれ掛かり、セディオスはその重みを一身に感じていた。
「あなたの短い生涯は、エクリナの幸せのためにあります……わたしたちと比べて老いるのですから、気を付けてください」
頭をグリグリと押しつけ、セディオスの後頭部に地味な痛みを与える。
まるで小姑のようにセディオスを静かに叱っていた。その小言は、怒りではなく信頼の裏返しでもあった。
「もし……もしですよ? "また"浮気したら……次は私が断罪します。いいですね?」
そう告げると、ティセラは立ち上がり、「ふん」と鼻を鳴らして空き家へ戻っていった。
「ふふ、手厳しいですね。ですが、最後は私も同意です。その時は灰にして差し上げますね」
ルゼリアは笑顔でティセラの味方をした。
「だったら僕は、死ぬのを懇願するほどの雷撃を与え続けるね♪」
ライナはセディオスの背をバシバシと叩き、怖いことを予告していた。
「俺は、エクリナを愛してるんだ! 安心してくれ!」
からかわれていることに気づいているセディオスは力強く宣言していた。
その姿を、周りの人属や亜人属は微笑ましく見ていた。
まさに父と娘のやり取りのようであった。
◇
午前のうちに宴の残り香も片づき、町はようやく落ち着きを取り戻した。
すでに昼を回った頃――駐屯町のひときわ大きな空き家に集まる集団がいた。
シルヴァ・リンデ・イーサリが並び、その正面にはヴァレンシア・エクリナが座っていた。
アークの迎賓館と同じく、会議の始まりであった。
「早速始めるぬう」
ドライアドのマナ研究者、シルヴァは嬉しそうに会議の始まりを告げていた。
ペパーミントの紅茶が皆に差し出され、昨晩の酒気を払うようであった。
「良い香りだ……口の中がすっきりするのである」
「ん……すまぬのである。続けてくれ」
初めて嗅ぐ紅茶の香りを堪能していたリンデは、厳粛な会議であるのを思い出し促していた。
「……長」
「続けるぬう――昨日の探索術具の結果を地図にしたぬう」
シルヴァは巻かれた紙片を紐解き、長机に匹敵する大きさの地図を広げた。
それに注目する面々。
「命脈はエトワコルから、極東に掛け、人属領の中央を抜けて戻ってきているぬう。その二か所はマナのたまり場になっているようだぬう」
「細かいところは省いているぬうが、これが大まかな流れぬう」
地図を樹の指で指し、マナの流れを説明する。
「極東……位置的にはユヅランですわね……確か大きな山がありましたわ」
「それと……この位置は……イグナメル? ですわね?」
三環大陸トリスクレオンの東の果ては、ひとつしかなかった。
和都ユヅラン――人属領に於いて最古の都市。
そこにそびえたつ剣岳が、思い当たっていた。
そして人属領、その中心部に位置する都市もただ一つ。
魔術師、魔導士が必ず修学に赴く場所――魔術都市イグナメルしかなかった。
「そうぬうか?」
シルヴァは位置を言い当てたヴァレンシアを見つめる。
「……ええ、商談で……訪れましたからね。間違いないですわ」
「まさか、人属領に二か所も泉のような場所があるとは思いませんでしたわ」
にっこりと笑うヴァレンシア。
人属領でもマナを使えそうだと安心している様子であった。
「ふ、収穫はあったようだな。ヴァレンシア殿、ようやく我らは隠居生活に戻れそうだな」
満足そうなヴァレンシアに、微笑みながら声を掛けるエクリナ。
依頼が完了し、いつもの日常に戻れるというような声であった。
「エクリナさん、あなたのおかげです。これでようやく新たな発展を遂げることができますわ!」
ヴァレンシアはエクリナの手を握り、感謝を述べていた。
巨獣を退け、探索術具を無事に手に入れたエクリナへの最高の賛辞を送っていた。
エクリナもヴァレンシアの手を握り返していた。
こうして、エクリナ――いや、魔王一家へ依頼は完了した。
それが、今後の世界の動向を担うきっかけになろうとは思いもよらなかった。
次回は、『7月9日(木)13時ごろ』の投稿となります。
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