◆第291話:再会のぬくもり、残る小さな棘◆
巨獣との対決が終結し、静寂が訪れる。
ようやく、家族との再会が始まる。
沸き立つ空気の中――剣士は目の前の少女に歩み寄る。
それは、ようやく訪れた本当の再会だった。
館では主とメイド、今は剣士と魔王と呼ぶにふさわしい状況であった。
「エクリナ……やっとまともに話せるな……」
セディオスは二刀を収め、目の前の少女に声を掛ける。
「……そうだな、セディオス。息災はないか?」
エクリナが微笑みながら剣士に近寄る。
そして――
二人は抱き合う、抱きしめ合う。
これまで離れた時間を埋めるように二人は互いのぬくもりを分かち合う。
魔王と剣士、メイドと主。
二人の親しさは、事情を知らぬ者には不思議に映った。
「いいなぁ~、セディオス。僕たちも久々の王さまなのに……」
ライナはセディオスとエクリナの抱擁を見てうらやましがる。
「いいではありませんか……ですが、あとで王からのご褒美を頂きましょう」
ルゼリアは理解しつつ、後から抱きしめてもらおうと算段していた。
仲睦まじい光景が広がる。
その最中で――あることに気づいてしまった者がいた。
「ねえ、リア姉。セディオスとリゼルのことって言っていいのかな?」
小声で、赤毛の少女に耳打ちする青髪の少女。
フォルネアで悪酔いして追求し、最後は納得した『浮気と疑った件』をライナは掘り起こしていた。
「しーーッ! ライナ、それは止めておきましょう! その件は誤解で解決しています」
ルゼリアは小声で答え、口に人差し指を立てて、それは言ってはいけないと見せる。
実際にセディオスとリゼルの関係は誤解であり、酒乱の席で解決済みであった。
だが、その姉妹の会話を聞いている者がいた。
いや――聞こえている者がいた。
銀髪碧眼の魔王の表情に微かな翳りが出ていた。
「……」
「セディオス……まだ護衛が残っているゆえ、夜に――ゆっくりと話そう」
「ああ、そうだな。ここはまだ危険だしな……」
エクリナは微笑み告げると、セディオスと共にルゼリアとライナの元へ向かった。
「エクリナ……」
「王さま!」
ルゼリアとライナはこちらに歩んでくるエクリナに向かって駆けだしていた。
同時に抱き付き、頬すりをしていた。
「先ほどの複合魔法、良い威力だったぞ。成長しているではないか」
姉妹の頭を撫で、褒めるエクリナ。
「ありがとうございます!」
「やった! 褒められた!」
炎雷の姉妹は褒められ歓喜した。
極上の再会を味わう中で――
「それでだが――先ほどのライナの話は本当か?」
エクリナの声が低くなる。
先ほどとは全く違う冷たい声色であった。
「「……」」
雰囲気が瞬時に変わり、押し黙る二人。
「聞こえてましたか……」
「あちゃ~~……」
小声で声を漏らすルゼリアとライナ。
「まあ良い――今夜まとめて話そう」
二人の反応を見たエクリナは、隠し事があると確信した。
今夜、家族会議を開く――そう静かに告げた。
「承知しました……」
「わかりました……」
歯切れの悪い返事をする姉妹は、顔を暗くさせてエクリナとの抱擁を終えた。
いつの間にか、ティセラが隣にいた。
「ご機嫌斜めですね? 何かありましたか?」
エクリナの表情を察し、気に掛けていた。
「ん? まあな……今夜時間をくれ。久々の家族会議だな……」
抑揚のない声で、エクリナは短く告げた。
「はあ~、わかりました。これからどうしますか?」
ため息を付きつつ、これからのことを話すティセラ。
「我はヴァレンシア殿たちとエトワコルに行かねばならん。ここで周囲の警戒にあたってくれ」
周りの気配を感じているエクリナ。
巨獣が去ったとはいえ、まだまだ魔晶の森は危険地帯であった。
「折角来たのに、お目見えできないとは……仕方ないですね、わかりました」
「セディオス、ルゼリア、ライナ。周囲の警戒を手伝ってください」
ティセラはエクリナの指示を飲み込み、三人の元へ寄っていく。
各方面で警戒に当たるようであった。
イーサリも話し合いに参加し、《ガルダ》と《ドロモス》に指示を飛ばして協力していた。
「リンデ殿、ヴァレンシア殿。そろそろか?」
エクリナは、移動の準備を終えている一団に声を掛けた。
「そうであるな。早々にエトワコルに向かうのである。警戒の指示助かるのである」
リンデは微笑みながら礼を言う。
「早く終わらせて離脱した方が良さそうですわね。少し怖いわ……」
片や、ヴァレンシアは魔獣の気配に怖気ついているようであった。
「その方が利口だな。目的を果たそう」
エクリナはヴァレンシアに寄り添い、告げていた。
いよいよ、幻環山ミラネリオンの中心部――『星楔樹エトワコル』へ向かう。




