◆第290話:総反撃、巨獣の魔晶を砕け!◆
魔晶の森を、大鷲の風切り音と獅子の咆哮が裂いていた。
《ガルダ》が空からけん制し、《ドロモス》が地を駆けてドラコタスを翻弄する。
その背後には、巨獣に抗える戦力がすべて揃っていた。
「ガオオオーーーーン!」
《ドロモス》は吼え、側部の四連杭を打ち放ち、右前足で風刃を放っていた。
それに負けじと――
「キュエエエーーーー!」
《ガルダ》は甲高く嘶き、収束砲を放ち、身を翻してかまいたちを浴びせていく。
しかし――
基本的には魔力による攻撃。中々決め手にならず泥仕合化していた。
「やはり、触手が邪魔だな……決め手に欠けておる」
ようやく俯瞰できるようになったエクリナは、魔力を喰らう姿を改めて見た。
「じゃあ、食べられないほどの速度で撃てばいいんだね!」
ライナは思い付きで話していた。
既に《魔斧グランヴォルテクス》は『雷殛槍刃』形態に変形しており、準備は万端だった。
「ふふ、いい案かもしれませんね。巨獣に対抗できる私たちの魔法は――」
ルゼリアは陣地を再起動し、自身とライナの魔核に接続する。
荒れ狂う魔力が唐突に侵入してきた。
「ぐうぅッ!」
「がぁッ!」
「これならできるね……!」
「ええ、派手にやりますよ!」
ライナは左手、ルゼリアは右手を差し向け、背中合わせとなる。
《魔斧グランヴォルテクス》は浮かび、《焔晶フレア・クリスタリア》は地中から出て来て『紅蓮双輪』形態となる。
エクリナ含め、皆は固唾を飲み見守る――壱番槍が放たれる瞬間を。
「雷鳴よ、我が腕に集え。天を裂くは蒼き殛槍――」
「紅蓮よ、我が心に燃え上がれ。炎輪の奔流、いま咆哮せよ――」
姉妹の詠唱が始まる。
雷の大槍は回転を始め、赤き花弁がそれを加速させる。
螺旋になる紅と蒼――詠唱が進み臨界となる。
「「我らが信念で貫き正義を示せ――レグナ・インフェルヴォルツ!!」」
ダアァァァ―――――――ンッ!!!
と、射出後に空気を突破する音が響く。
ルゼリアとライナの複合極大魔法。
マナが助けてくれるからこそできる、最大の一撃を撃ち放った。
雷槍が光速に近い速度で射出された。
後方に炎輪を備え、回転加速していく。
ドラコタスの触手は本能のままに喰らおうとするが、喰いつけず、焼かれていく。
そして――背中の魔晶に見事に命中する。
炎雷槍はなおも唸りを上げ、ギュルギュル――ガガガンッ!と魔晶を削っていく。
その一撃が、総攻撃の号令となった。
「行くぞぉぉぉーー!!」
火ぶたが切って落とされたとばかりに、エクリナを先陣としてドラコタスへ駆けていった。
ドラコタスは体をひねり、螺旋の炎雷槍をいなし、巨大魔晶への攻撃を食い止めた。
「ギャオオオオオオーーーー!!!」と鳴くと、触手が追加され、エクリナたちへけし掛けていく。
「来るぞ! 堕とせ!」
エクリナは魔杖で打ち、円盾で弾き飛ばす。
サクネは動きを重ねるように援護をしていた。
エクリナは更に飛翔し、追撃を行っていく。
「うおお!!」
セディオスは吠えながら、横一線を見舞い、首切りで次々と数を減らしていく。
「やるね! ヴォトカスト、せっかくの槍だ、試すよ」
ガンゴとブロムの合作を振るう赤い騎士。石つぶてを放ちながら大槍で切り結んでいた。
「負けられんどぉぉ!!」
ジャバープルは巨腕で殴り飛ばし、レンジャーたちは短剣で肉薄していた。
「一斉射である!!」
アーク警備隊は二部隊に別れ、長身の魔導銃にナイフを付けて近接、背後から狙撃する様式で対抗していた。
リンデ本人も指示を出しつつ、大筒で触手を撃ち落としていた。
その背後では――
ティセラが陣地の力を借り、一団の守護を一手に担っていた。
ほぼ捨て身の突撃、判断が鈍れば倒れる者が出てくる。
だが、今日のティセラは一味違った。
「いつもは魔力の残量も気にしますけど……今日は常に全力です!」
「ミメシス・アークレイ、フォートレス・フィールド――最大展開!!」
ドラコタスの戦場を覆うように、広大な結界を展開する。
更に結界に補助魔法を掛け、守護を強固にしていく。
「周囲の魔獣も面倒ですが、これならば護れます」
ティセラの背には、ヴァレンシア・イーサリ・シルヴァがいる。
ドラコタス以外の強襲を受けるわけにはいかなかった。
まさに戦場そのものを囲う檻だった。
エクリナ一団の総攻撃で徐々に数を減らす触手。
だが、代償に少なからず魔力も補充されていた。
ガバアアァァーーーと大口を開けるドラコタス。
口内が真っ白に輝いていく――
「来たか!」
エクリナは歯噛みする。
すぐさま地上に降り、《ノクタルシア》を前に出す。
「皆、我の後ろに!!」
冥八天翼で周囲を囲み、球状の空間壁を五重に展開する。
サクネもすぐさま補助に加わる。
「エクリナ、頼むぞ!」
「ああ、任せろ!!」
背を支えるセディオスに応えるエクリナ。
その声を皮切りに極太の収束砲が発射される。
砲撃と障壁が正面から激突する――さらに、そこへ一手を重ねる者がいた。
「待ってましたよ♪ 多重リフレクト・ライト!!」
エクリナの空間壁に重ね掛けされるは、魔法反射の壁。
それを多段発動していた。
バアアアァァァーーーーン!!!!!
バババババババッ!!
乱反射した砲撃はドラコタスへ降り注ぎ、背の触手は受け止めきれずに次々と焼失していった。
魔法を喰らうことができなくなったドラコタスは無防備となり、吠えるしかなかった。
「どうですか? 自分の砲撃の威力は♪」
ティセラは口元を吊り上げ、珍しく底意地の悪い声音で言った。
まるで、エクリナを苦しめた意趣返しとばかりの行動であった。
「やれ! 《ガルダ》! 《ドロモス》!」
イーサリが声を張り上げる。
「クエエエーーーッ!」「ガオォォォン!」
大鷲と獅子は指令を受け取り、仕留めに掛かる。
《ガルダ》は大翼に風刃を、《ドロモス》は大刃に金属魔法で補助する。
ドラコタスの背の魔晶の根元を狙い、両脇から一閃をお見舞いする。
ズガガガガァァァーーーーと切り砕きながら、二体は疾走した。
「さて、コルネ。そろそろ仕舞いの一撃だ」
巨大魔晶を削られ、吠えるドラコタス。
もはや限界という状態であった。
その目の前に――《ヴォトカスト》が槍を携え立っていた。
だが、それは大地ではなく、射出路であった。
「エクリナ――やってくれ! プロモ・ガイア・カリス!」
コルネは、突撃のために《ヴォトカスト》の装甲と骨格強度を限界まで引き上げる。
物理で立ち向かうなら、もうこれしかない――そう腹を括った一撃だった。
「粋や良し! サクネ、同時に行くぞ!」
「レイヤー・スマッシュッ!」
「レイヤー・スマッシュ」
背後にいたエクリナとサクネが息を合わせ、空間膨張の砲撃を放つ。
かつてのとどめの一撃が、反撃の技となっていた。
ドオオォォーーーーーン! シュパアアアァァァーーーー!
轟音とともに射出される赤い騎士、大槍を構え突貫の姿勢をとる。
狙うは魔晶の根元――全ては折り砕くために!
「おおおーーーーー、根性だぁぁぁ!!」
吠え猛るコルネ、反応できないドラコタス。
ガッキイイイィィィーーーーーーン
的確に巨大魔晶に命中した突撃は、大槍を奥深くまで突き刺した。
ビキビキビキビキ――ボキンッ! ドオオォォォンーーーーー
ドラコタスの背中にあった魔晶が折れて堕ちた。
「ギャオオオオオオッ!!!!!!!」
その衝撃に轟音を上げたドラコタスは、身を翻して一団から逃げ出した。
エクリナらはそれを追わず、逃げるさまを見届けていた。
隣にいたサクネは礼だけすると霧散していた。
「次も頼むぞ……」
エクリナは微笑み、見送った。
「ふうぅ~~。ようやく終わりか……」
そのまま大きく息を吐き、ようやく一息ついた。
巨獣との戦いを制したエクリナ一団は歓喜に沸いた。
最初は死すら思わせた戦場が、仲間が次々と集い、逆転したのだった。
ねぎらうもの、万歳する者、抱き合うもの、涙する者、放心する者、様々であった。
エクリナたちはようやく、『星楔樹エトワコル』に出会う準備が整った。
次回は、『7月2日(木)13時ごろ』の投稿となります。
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