◆第289話:集う者たち◆
アークにある大型開発工房。
転移門と通常空間の強制接続という異常事態に、工房内は騒然としていた。
作戦のためとはいえ、それを実現したエクリナの規格外ぶりに皆が息を呑む。
ともあれ、魔晶の森への転移手段は確保できた。
あとは、《ドロモス》が入っていくだけだったのだが――獅子は立ちすくんでいた。
「《ドロモス》? 何故進まないんですか?」
起動は完了しており、魔力補充も十分、何も不足はない。
それなのに動かない《ドロモス》を見て、不思議がるティセラであった。
「ガウゥゥ……」
大型の獅子型ゴーレムは情けない声を出し、たじろいでいた。
転移門の暗闇を見つめては、小さく威嚇していた。
「……あの時のことを……あの場所を思い出しているのか?」
イーサリはゆっくりと近づき、《ドロモス》の元へくる。
魔哭神に襲撃された日、獅子型ゴーレムは見捨てられた。
《ドロモス》の双眸は次元の穴を見据え、魔法陣の回転が速くなる。過去を再生しているようであった。
「暗い場所が不安なのだな……」
左前足を撫で、理解するイーサリ。
「イーサリさん、早くしないと時間が……」
ティセラは焦れていた。
ここまでは順調だったが、肝心の《ドロモス》が動かないのは想定外であった。
「ここまで無茶をしたのだ、もっと無茶をしようではないか……」
イーサリは小さく言う。
そして――
「《ドロモス》! 指令だ、小生を運べ! あの暗闇の先に連れていけ!」
声を張り、獅子型ゴーレムに指令を言い渡す。
指令を受け、僅かに思考する《ドロモス》。
(ハコブ。イッショ ニ シンニュウスル)
(イッショナラ コワクナイ)
思考がまとまり、「ガオォォッ!」と吠えて返事をした。
まるで母に甘える子のようであった。
姿勢を低くし、イーサリの搭乗を促す。
「ふふ、それでいい」
それを見て、微笑んだイーサリは背へ登り始める。
その行動についてくる者がいた。
「わたしもお付き合いします。みんなが心配ですしね」
ティセラは笑いかけ、二人とも背に乗った。
「そうだな、では行こう! 《ドロモス》、進め!」
「ガオオオーーーン!」
吠えると同時に駆けだした。
二人と一体は転移門へ飛び込む。
暗黒の空間は一瞬で過ぎ去り、次の瞬間には煌びやかな戦場へ飛び出していた。
その直後、通過した異空間はバシュウゥゥーーと音を立てながら閉じていた。
《ドロモス》は、新たな情景を見やる。
右には疲弊した黒衣の少女と、それを護る集団。
正面には大鷲型ゴーレムと、自身より遥かに巨大な魔獣。
「《ドロモス》、新たな指令だ……《ガルダ》と共にドラコタスを討伐せよ!」
背に乗っているイーサリは本来の指令を言い渡した。
「ガウ」と嬉しそうな声を出すと、伏せて二人を下ろした。
少しだけ軽くなった《ドロモス》は、巨獣へ駆けていった。
「エクリナ!」
ティセラはすぐさま親友の元へ駆けた。
息が荒く、疲労困憊のエクリナであった。
「ど、どうだ? 次元を切り裂いたぞ?」
息も絶え絶えに笑いながら報告するエクリナ。
全身が汗で濡れていた。
すでに陣地は待機状態へ移り、接続も切っていた。
「さすがですエクリナ……これを飲んでください」
鞄から薬瓶を取り出し、蓋を開けて手渡した。
「作戦通りだな……この後はどうする?」
セディオスはティセラに次の策を求めた。
「巨獣の、ドラコタスの背にある巨大魔晶を砕く。それしかあるまい」
すでに結論は出ている、と言わんばかりにイーサリは告げた。
「あの二体でやれるのか?」
「出来なくはないが、触手が邪魔だな……」
セディオスの問いに答えるイーサリ。
今ようやく、勝機が見え始めたとでも言いたげだった。
「じゃあ、皆で切り落とすしかないね。それくらいならできそうだよ」
コルネは騎士型ゴーレムから顔を出して言う。
《ヴォトカスト》はライナから大槍を受け取り、携えていた。
「わかりやすくて良いではないか。ようやく反撃に転じられるのだ、雪辱戦といこうではないか」
薬を飲み干し、少しだけ疲労が抜けたエクリナは嗤いながら話す。
巨獣に翻弄され続けた魔王は、大層お怒りであった。
「陣地はまだ行使可能です。今ならば魔力の心配はありません」
「それなら、皆を結界で護りながら進軍できますね」
「幾らでも魔法が撃てるね!」
ルゼリア、ティセラ、ライナは現状でできることを確認していた。
「ジャバープル、もう少しだけ付き合ってもらえるであるか? 吾輩らも加勢するのである」
「もちろんだど。お前ら、やるどお!!」
リンデが申し出を行い、ジャバープルが胸を叩きレンジャーを集合させる。
亜人たちも気合十分だった。
「こういった時、あたくしは役立たずですわね……」
勇ましくしている面々を見つめ、嘆息するヴァレンシア。
「オイラたちの役目はこの先にあるぬう、今は生きぬくのが役目だぬう」
白衣を着たシルヴァが励ますように声を掛けた。
人属・亜人属、ゴーレムたち――そして神造生命体の家族。
あり得ない組み合わせの一団は巨獣を見つめる。
その顔には、もはや絶望はなかった。




