◆第287話:束の間の再会、反攻の支度◆
次回は、『6月28日(日)13時ごろ』の投稿となります。
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巨獣が咆哮を上げ、大鷲が嘶く。
魔晶の森の戦いはなおも激しさを増していた。
その喧騒からわずかに外れた場所で、剣士と魔王だけが束の間の再会を抱きしめていた。
「セディオス……セディオス……」
エクリナは顔を胸へ埋め、愛しい主の名を何度も呼んだ。
世界に恐れられる魔王も、この瞬間ばかりはただの少女だった。
「エクリナ……皆が見ているぞ? それにまだ再会を喜ぶ時ではなさそうだ……残念だがな」
エクリナの頭を軽くなでると、優しく引き離すセディオス。
「……この程度見せつければよい……だが、早く倒さねばな」
涙を拭く少女。
巨獣を見るときには、いつもの魔王に戻っていた。
「それでこそ、エクリナだ。ルゼリア来てくれ!」
セディオスは微笑むと炎の少女を呼び寄せる。
ようやく地に足が着いた安心を噛みしめていたルゼリアは、その声に反応し二人の前に立った。
「こほん、失礼しました。ここからは私が説明します、セディオスはライナを連れて警戒に当たってください」
凛とした姿を取り戻したルゼリアは、ティセラの伝言通りに指示をする。
「ああ、わかった。エクリナ……また会おう」
「ライナ、行くぞ!」
名残惜しそうにエクリナの名を呼ぶと、雷娘の元へ駆け寄っていった。
「あ、コルネを自由せねばな」
《冥盾翼書ノクタルシア》を《ヴォトカスト》ごと手繰り寄せ、冥八天翼を収納していく。
「エクリナ、ごめん! 助けられなかった……」
《ヴォトカスト》から飛び降りたコルネは、エクリナに抱き付く。
久々にできた友達へ、謝罪をしていた。
コルネを抱きしめ返すエクリナ。
「良いのだ、我は無事だ」
「ひとつ頼みがある、援軍……家族の力となってくれ。我にはやらねばならぬことがあるようだ」
やんわりと言うエクリナに――
「もちろんだよ……今度は、ちゃんと護るよ!」
そういうと、《ヴォトカスト》に再搭乗し、セディオスらの元へ駆けていった。
「さて、何か策はあるのだな?」
ルゼリアに顔を向け、問いかける。
「まだまだ無茶が必要ですが、手はあります」
ルゼリアなりの冗談を口にしつつ、すでに繋いでおいた通信術具を手渡す。
相変わらず、抜かりのない側近だった。
「エクリナ! 無事ですか!!」
通信術具からはティセラの声が鳴り響いた。
今にも泣きそうな声であった。
戦いの映像だけは工房内に届いており、エクリナが落下する瞬間を見た影響であった。
「ああ、無事だ。早速だが、策を教えてくれ? どうしたら、あ奴を倒せるのだ?」
心配する親友をなだめつつ、エクリナは話を促した。
「あれは、わたしたちには天敵です。そのままでは倒せません……」
声を落とし、勝てないことをはっきりと告げた。
「なので――さらなる援軍、《ドロモス》を送ります」
代案を力強い声で言い放った。
「《ドロモス》……話に出ていたゴーレムか!」
会議で話題に上がった獅子型ゴーレムを思い出すエクリナ。
「そうです、出撃準備はできてます。ただ、そちらに繋げる転移門が未完成です。なのでエクリナにはそこを手伝って欲しいです」
そう答えつつ、ティセラはエクリナへ次の指示を出した。
「……どうすればいい?」
エクリナは余計な疑問を呑み込み、必要な手順だけを求めた。
「説明の前に……ルゼリアは居ますか?」
「ええ、ここに居ますよ」
ティセラの声に反応するルゼリア。
「魔力変換の魔法式の構築に入ってください。その間に、こちらの説明を進めます」
「その方がいいですね。エクリナ、頼みますね」
指示を受けたルゼリアは、信じる王へ小さく微笑み、静かに目を閉じた。
そして、魔法式の構築へ入る。
「うむ、わかった。ティセラ続けてくれ」
「ルゼリアの準備ができたら、転移門を起動し、そこの座標に時空の穴を開けます」
「それを引き裂いて、拡張してください!」
ティセラは、エクリナならできると信じているからこそ、そんな無茶を言った。
「……それしかないのだな?」
「はい。魔力はルゼリアが供給してくれますので安心してください」
マナの補助があるとはいえ、やはり無理がある作戦であった。
だが――エクリナが言える言葉はひとつしかなかった。
「はあ~……わかった。何とかしよう……」
ため息をつくも、時空を裂く魔法式を考え始めるエクリナ。
それは魔術師の真骨頂――この世にない魔法を即興で生み出すことであった。
その間、ルゼリアはエクリナの背後で集中していた。
転移門の魔法式の誤りを看破したとはいえ、即時に紡げるものではなかった。
「マナとは……厄介なものですね。魔晶と違って、雑味が多すぎます……」
「こうなれば――フレア・クリスタリア!」
初めてのマナに触れ、困惑するルゼリアは相棒の戦具を呼び出す。
そして――
「要となりなさい!」
《焔晶フレア・クリスタリア》は『飛晶』形態となり、ルゼリアを囲むように大地へ突き立った。
本来は射撃補助のための『飛晶』だが、ルゼリアは無理やり術式の杭として転用した。
そこを起点に小さな魔法陣が次々と展開し、赤い線が互いを結んでいく。
幾重にも重なった文様は、やがて眩い一つの術式陣へと組み上がった。
遺跡都市でも行った陣地構築であった。
反撃の狼煙が間もなく上がろうとしていた。




