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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第十一章:巨獣たちの咆哮

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◆第286話:触手の檻と空色の救援◆

空中からの高高度飛び蹴りを受け、ドラコタスの巨体は地に伏していた。

だが、その背から伸びる触手群だけはなおも蠢き、《ヴォトカスト》を囲んでいる。

魔晶の森の異常は、まだ終わっていなかった。


「エクリナ……どういうことだと思う? なんでこのヘビみたいなのまだ動くんだ?」


操縦桿を握るコルネの手は汗ばんでいた。

勝利を確認した一撃、それでもまだ危機は去っていなかったからだ。


「しつこいやつだな……こ奴らは捕食器官だけではないということか……」

「動かぬ巨獣を見るに、寄生体か?」


ぐったりとしたドラコタスを一瞥しつつ、エクリナは半ば願うようにそう告げた。


「拘束できる?」

「やるしかないな」


コルネの依頼を引き受けるエクリナ。


エクリナは《ノクタルシア》を構え、触手群へ空間魔法を重ねた。

「プレッシャー・ケイジ! フェイズ・チェイン!」

空間圧が速度を奪い、半数ほどの首に鎖が食い込む。


間髪入れず、コルネが《ヴォトカスト》の左腕を地へ叩きつけた。

「プロモ・ロック・パイル!」

円周上に噴き上がった土杭が、拘束された触手をまとめて貫いた。


「よし、畳みかける――」


エクリナが指示を出そうとしたとき、魔法を回避していた触手が、拘束されている触手を助け始めた。

鎖を喰らい、〈プレッシャー・ケイジ〉の囲いを砕いていく。

バキン、ボキンと破壊音が響く。


自由な触手が増えていく中――

「プロモ・セキーラ!」

「ディメンション・スライス! ナハト・シンフォニア!」


コルネは拳よりも大きくなった石礫を浴びせかけ、エクリナは二種の刃で切り裂き続ける。

少しでも倒すためにあがいていた。


目の無い顔を向ける触手たちは大口を開けた。

そして――口内を広く輝かせていく。


魔力を収束させ、すべての首は収束砲を吐いた。


「はあ!?」

「飛ぶぞ!」


エクリナは冥八天翼を操作し、《ヴォトカスト》に回避行動をとらせる。

翼は翻るように動き、それに合わせてコルネが機体を操縦していた。

あらゆる角度から収束砲が撃たれ、上へ下へと避け続け、最後は急上昇するしかなかった。


空の高みを目指すエクリナ――

しかし、隙を突かれ翼が一枚撃ち抜かれてしまった。

ガクン!、と赤い騎士型ゴーレムは姿勢を大きく崩す。


その瞬間、操縦席の縁からエクリナの身体が投げ出された。


「しまった! エクリナ!!」


コルネは歯噛みするも、自身では飛翔制御ができない。

エクリナの操作を失った冥八天翼は態勢を立て直し、浮遊だけしていた。


「どうする! 翼を――間に合わな――」


地上にはごちそうを待つ触手が、口を開けて待っていた。

それは、撃ち落とした小鳥を心待ちにしているかのようであった。


遠ざかっていくコルネを見つめながら、エクリナは死を覚悟した。

エクリナは胸中に思う。


ガンゴの工房で別れた家族たち。

戦具祭、夜会、夢の世界、そして幾度も囲んだ食卓。

ティセラ、ルゼリア、ライナと戦域を駆けた日々。

孤高だったはずの生は、いつしか帰りたい場所で満ちていた。


次々と過去の想い出が蘇る。

そして――最後に浮かぶのは、セディオスだった。


「もう一度……会いたかったな……」


エクリナは落下しながらつぶやく。

魔王でも、死は訪れる。それは世界の理であり、抗えない。



そして、触手の顎がエクリナへ届こうとした。



だが、その瞬間――轟音と悲鳴が空を裂いた。



ゴオオォォォォ――――――!と、空色の飛翔体が轟く。

「もう、いやーーー!」「キャーーー!」「ぐぅ、突っ込め!!!」と、悲鳴まじりの声が響いた。


上空を裂いてきた《ガルダ》は、そのまま落下線へ割り込むように急降下した。


「ーーーーーーーーーー!」


嘴を開け、触手たちへ声なき音波を浴びせる。

触手たちはたまらず身を引き、ドラコタスの背へ退いた。


《ガルダ》は速度を一切緩めることなく、落ちるエクリナを追い、ついに追いつく。

セディオスは手を伸ばし、エクリナを抱き寄せていた。


そのまま地を削るように滑り、《ガルダ》は強引に着地した。

転がるように降りるルゼリアとライナ。

手綱を切り離し、そのままエクリナを抱いてセディオスは降り立った。


「《ガルダ》! 時間を稼いでくれ!!」

「クエエェェーー!!」


剣士の声に応えるように甲高く鳴くと、ドラコタスへ飛んで行った。

ちょうど、宿主が起き上がる瞬間でもあった。


「セ、セディオス……」


たくましい腕に抱かれる銀髪の少女は、その胸に抱き付いていた。

潤んだ碧眼でセディオスを見つめ、頬を撫でていた。


「ただいま、エクリナ」

剣士は微笑み、魔王は少しだけ涙した。


死すら覚悟したエクリナの目の前に現れた援軍。

家族の姿を見て、安堵するエクリナであった。

背後では、完全に目を覚ましたドラコタスを相手に、《ガルダ》が囮となって飛び回っていた。

再会の安堵に浸る暇は、まだない。


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