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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第十一章:巨獣たちの咆哮

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◆第285話:冥翼と赤騎士の反撃◆

魔晶の森は、いまや戦場と化していた。

荘厳で静かなはずの餌場を荒らしているのは、突然変異の巨獣――ドラコタス。

その咆哮を真正面から受け止めるのは、魔王エクリナだった。


「ギャオーーーー!」

ドラコタスは雄たけびを上げ、魔王エクリナと相対していた。


「まったく、面倒なやつだ!」


ドラコタスの轟く咆哮に応えるように、エクリナは吐き捨てた。

魔法は吸われ、距離も切れず、さすがに辟易していた。

自身を囮にするも、触手が邪魔をし、距離を開けることすらできていなかった。


「これを試してやる! シャドウ・クロスアサルト!」


エクリナは左前脚へ踏み込み、《アビス・クレイヴ》に闇刃を灯す。

ザシュ、ザシュ――肉を裂く手応えが、確かに杖先へ返った。


「お? 効くのだな……物理が弱いか!」


エクリナは嗤い、連撃を重ねる。

だが、皮膚が厚く効果が薄かった。


「ならば……サクネ、コルネと交代だ。急げ!」


サクネは頷くと、魔獣と戦っている集団へ駆けた。

エクリナは勝ち筋を探すために赤き騎士に乗る少女と配置換えを指示した。

その間、エクリナはドラコタスの注意を惹き、翻弄していく。


ほどなくして――ダンッ! ダンッ!と重い足音が近づいてきた。

「エクリナ! 大丈夫!?」


リンデたちへ襲う魔獣の討伐をサクネに任せ、コルネが隣に立った。


「こ奴についてわかったことがある。」

「一つ目は触手で魔法を喰らうこと、二つ目は物理攻撃が通じるということだ」


「なるほど。そりゃ、うちの方が分があるね」

《ヴォトカスト》の拳をガィンッ!と、互いに打ち付けてドラコタスを睨むコルネ。


「我は魔法攻撃が主だからな、《ヴォトカスト》には期待しているぞ」


「乗って、エクリナ!」


赤き騎士は膝をつき、右手を差し出す。

乗れるように配慮した姿勢だった。


「承知した」


右手、右肘、右肩を踏み台にして駆け上がり、操縦席の縁へ滑り込むように腰を落とした。

自身を向かい入れてくれた巨兵を見やり、少しだけ微笑んだ。


そして、険しいまなざしで眼前のドラコタスを睨む。


「行くぞ!」

「おおっ!」


コルネが吠え、エクリナが声を出す。

ダンッ! ダンッ!と、巨獣へ向けて走り始めた。


「シャドウ・グラトニー! フェイズ・チェイン!」


ドラコタスの右前足には黒い手が巻き付き、左前脚には空間の鎖が絡みつき、締め上げていた。

ほんの僅かだけ、巨獣の動きが止まる。


「やるよ、《ヴォトカスト》。プロモ・ティエラ・ボラール!」


猛るコルネ。

赤き騎士型ゴーレムがひときわ大きく地面を踏み鳴らすと、ドラコタスの直下に魔法陣が展開する。

そこを起点とし、石柱や土柱を突き出し射出された。


それは見事に巨獣の顎に命中する。

「ギャウウ!」


無様な声を出す魔獣は、すぐさま捕食相手を睨みつける。


「おお、怒ったね……」

「ふふ、効いておるようだな……」


天敵を見やる二人。

初めて見る巨獣の悶えに、二人はようやく「相手も生き物なのだ」と実感していた。


その最中――


「ザ――、ザザーー。エ――エクリナ!、コルネ!」


《ヴォトカスト》の操縦席から少女の声が聞こえた。


「ティセラか!」


擬似音声越しでも、エクリナは一瞬でそれがティセラだと見抜いた。


「良かった――何とか繋がりましたね!」


何度も交信を続けていたティセラは、ようやく聞こえたエクリナの声に安心する。


「ティセラ、見えておるのか? こ奴の弱点はなんだ?」


巨獣が拘束を引きちぎり、コルネが反撃をかわし続ける中――

エクリナは、間髪入れずに質問で返した。それほどまでに追い詰められていた。


「魔獣の名はドラコタス。突然変異のようです」

「知っての通り、魔法というか、魔力を喰らいます。恐らくは物理攻撃が有効です」


イーサリから聞いた情報をかみ砕いて話すティセラ。


「やはりか!」

信頼する者の判断を聞いて、より安心するエクリナ。


「こちらからも応援を――ザ、ザザザ――、ブツン――――――」

ティセラが言葉を言い終わる前に通信が切れてしまった。


「応援だと?」

「《ガルダ》かもね、修理終わってるし」


憶測を巡らせるエクリナにコルネが伝えた。


「恐らく、物理攻撃が得意な者かもしれぬな……」

援軍の顔ぶれを思い浮かべたのか、エクリナはわずかに口元を緩めた。


「??」

コルネはその表情の意味を読み取れなかった。


攻撃をいなし続け、時間を費やすゴーレムに対して――

ついにドラコタスは怒りをあらわにする。魔力が不足して、いら立っているようにも見えた。


「ギャオオオオォォォ―――――――!」

と鳴くと、口を開き魔力を収束させる。


「エクリナ、ヤバイよ、あれが来る!!」

コルネはわかっていた。次の攻撃がエクリナの空間魔法壁を、幾つも砕いた攻撃であることを。


「まともに防ぐには少し厳しいな……」


率直に返すエクリナ。

ティセラから"援軍"の知らせがあった以上、魔力を浪費するわけにはいかない状態であった。


「森へ逃げてくれ! 動き続ければ、当てられまい!」


コルネは即座に応じ、《ヴォトカスト》はドラコタスの脇を抜けていく。

だが、二人は気づいていなかった。ドラコタスがここまで大きくなり続けた理由を――


ドラコタスの背の触手が伸び、騎士型ゴーレムの行き先をはばんでいく。

まるで檻のように、逃げ道へぶら下がり威嚇を行っていた。


「このお!!」


コルネはその妨害を砕こうと、拳を連ねる。

しかし、うねうねと回避され全く当たらず、ドラコタスの術中にはまってしまった。


収束を終えた砲撃が二人を襲う。


「逃げろ!!」

「マジでヤバイ!!」


全速力で逃げようとするが、ドラコタスは体をひねり、首を振り、砲撃しながら横薙ぎの姿勢をとる。


「動きながら撃てるのか!」


あまりにも柔軟な生物に嫌気すら覚えるエクリナ。

思いつける手はひとつだった。


「コルネ、飛ぶぞ……」

無茶なことを言い出す。


「え? ……飛ぶ??」

「跳ねられても、飛べないよ!?」


コルネは至極当然のことを言い放った。


「これしかない! 飛ぶぞ!!」

「冥八天翼、展開!!」


《ノクタルシア》の装飾が飛び出ていく。


しかし、横薙ぎの砲撃が迫ってくる。怒りのままに、勢いよく振るっていた。

それは、森を焼き、目に見える範囲は焼け野原となっていた。

ドラコタスは眼前の餌を消滅させ、少し離れた場所ではリンデたちが唖然としていた。


煙が逆巻く最中で――

一筋の光が天へ舞った。赤い姿に、翼を背負った姿。


騎士型ゴーレム《ヴォトカスト》であった。


「おおぉ!」


エクリナは《冥盾翼書ノクタルシア》の輝く翼を制御し、見事に窮地を脱していた。


「こんなこともできるの!?」


コルネは初めて空飛ぶ騎士に乗り、驚くしかなかった。

あっという間にドラコタスの遥か上空に位置した。


「さすがに肝を冷やしたな……危ないところであった……」


空中で汗を拭くエクリナ。

最後の切り札を切ってしまった瞬間でもあった。


「凄い高いよ……で、どうする?」

高みから地上を見やるコルネは少し恐怖を感じていた。


「……」

「折角だ、蹴りのひとつでも入れてみるか? 辛酸をなめ続けているからな……あ奴の苦しむ顔をみたくはないか?」


自慢の魔法を喰われ、愚弄され続けてきたエクリナは我慢の限界であった。


「……いいね! このまま喰らわせよう!」


コルネの返事が合図であった。

『冥八天翼』は推力を切り、翼角だけを残したまま落下へ移る。

《ヴォトカスト》は、赤い流星のようにドラコタスへ墜ちていった。


「はは! エクリナって意外と乱暴だよねぇ!」


落ち続ける《ヴォトカスト》を操作し、飛び蹴りの構えにする。


「いけぇぇぇ! ヴォトカスト・キーーックッ!」


落ちる赤い騎士の蹴りは、ドラコタスの首元に直撃する。

油断しきっていた巨獣は構えることもできずに受けていた。


「ギャフゥッ!!」


くの字に曲がり、息を漏らす巨獣は地面に叩きつけられていた。

地面にめり込み、衝撃が無くなったのを確認したコルネは、大地に降り立った。


「はあはあ……空は空気が薄いね……」

「でも、いい顔になったぞ?」


苦悶の顔を浮かべているドラコタスを見て満足そうなエクリナであった。


だが、背の触手だけはまだ死んでいない。

本能のままに騎士型ゴーレムを囲い込み、窮地はなおも続いていた。


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