◆第284話:救出へ翔ける《ガルダ》◆
大型開発工房は慌ただしさに包まれていた。
術具士たちは持ち場を駆け、鏡映術具の向こうではエクリナが巨獣の猛攻を受けている。
一刻の猶予もなかった。
そんな中――
「セディオス、ルゼリア、ライナ。もうこれしかありません……三人は《ガルダ》に乗ってエクリナの元に行ってください!」
ティセラが金糸を揺らし、琥珀色の目で見つめていた。
その眼差しに迷いはなかった。
「乗れるのか!? とても人が乗れるようなものじゃなさそうだぞ?」
「でも、これしかありません。この中で最速は間違いなく《ガルダ》です。そして、この後の作戦を実行するには、三人とも行くしかありません」
セディオスの声に反論するティセラ。
「そ、その作戦とは?」
流石に戸惑うルゼリアはティセラに聞く。
「今は、時間がありません! 《ガルダ》で移動中に話します」
ティセラは厳しく告げると、通信術具をルゼリアへ押し付けた。
その手は震えていた。
エクリナの窮地に、誰より心を乱されているのはティセラなのかもしれない。
「ティセラ……」
ルゼリアは名前だけを呼び、少しだけ抱きしめ、頭を撫でる。
「セディオス、行こ!」
その姿にライナは決意する。
「正直怖いが、仕方ないな」
セディオスも覚悟を決めた。
その時――
「ちょうどいい、これを持って行ってくれ!」
四人が話す中、ガンゴとブロムが巨大な台車を引きずって来た。
その上には、巨大な赤い槍が乗っていた。
「はあはあ、老体にはこたえるな……」
膝を抑え、息切れするガンゴ。
「こ、これをたのむだべ……《ヴォトカスト》用の戦具だべ……」
よほど重かったらしく、ブロムも息切れしていた。
「わかった!」
ライナは駆け寄ると、《ミディア・アーカイヴ》の蓋を開け、吸い込ませた。
「それと、セディオス。これも使え」
ようやく息を整えたガンゴは大きな手綱を渡した。
「《ガルダ》の背に乗るんだろ? これを付ければ飛ばされないだろう」
「これも《ヴォトカスト》用か……わかった、使わせてもらう」
セディオスは笑うと、ルゼリアとライナを引き連れて《ガルダ》に近づく。
「《ガルダ》! 三人を乗せて、『エトワコル』に向かってください!」
ティセラは大鷲に指令を言い渡す。
「クエェェーーーー!!」
受諾した《ガルダ》はひと鳴きすると、翼を下げた。
セディオスらを乗せる姿勢になった。
三人は翼伝いに、巨砲の間に座り、手綱を取り付けた。
その間に――
ゴゴゴゴゴーーーーと裏手の大扉が開いていく。
「皆! 頼みますよ!」
外へ歩いていく《ガルダ》を見ながら、ティセラは見送りをした。
その姿を術具士たちも手を止め、見つめていた。
「そういえば、こいつはどうやって飛ぶんだ?」
疑問を投げかけるセディオスに応えるは――
「クエ!」という声であった。
そのまま大扉の外に設置された奇妙なくぼみに、脚をダンッ、ダンッと踏み鳴らしていく。
ガチャンッ! と音が鳴ると何かの準備が完了した。
それを確認したティセラは――「発射ッ!」とだけ放った。
「「「???」」」
背後でガコン!と楔が外れる。
次の瞬間、蓄えていた推進力が解放された。
――シュパアァァンッ!!
《ガルダ》は滑走路を一気に滑り出した。
風の暴風壁を展開し、ドンドン加速していく。
勢いのままに滑走路の端にたどり着くと、尾翼を下げ、噴出口から火が出る。
あっという間に大空へ飛び去って行った。
ここまで、わずか三秒。
「……聞いてはいましたが……すごい光景でしたね。確かに……人が乗るものではなさそうです」
セディオスたちを乗せた《ガルダ》を見送り、つぶやくティセラであった。
* * *
《ガルダ》は大翼を広げ、限界まで出力を高めていく。
ミラネリオンにいる仲間を、一刻も早く救うために。
背に乗っている三人はというと――
「ーーー」
「ーーーーーーーーーーー」
何も声を出すことができずに、大きな手綱に身体を巻き付けて飛ばされまいとしていた。
セディオスは、のけ反りながらも手綱をしっかりと握り、ルゼリアとライナはセディオスに抱き付くしかなかった。
(か、体がちぎれる!!)
(痛い、痛い、痛い!)
(ありえませーーん!)
三人は心の中で喘いでいた。
声も出せず、風の拷問を受け続けるしかないと覚悟したとき――
通信術具から声が出た。
「ガガガ――き――聞こえ――」
「聞こえますか!」
ティセラの声であった。
返事どころではない。
セディオスは通信術具の箱を乱暴に叩いて応じた。
「? 音だけ?」
「あ! 《ガルダ》、背中の三人に風を纏わせてください!!」
気付いたティセラは《ガルダ》に声を掛ける。
「クエェ!」
ひと鳴きすると、セディオスの周りには暴風壁が展開された。
大柄な機体に似合わず、細かな魔法制御までこなせる大鷲だった。
「「「はあ……はあ……」」」
ようやくまともな呼吸ができるようになった三人は息を整えていた。
「大丈夫ですか?」
「はあ~、だから言ったろ? 人が乗るものじゃないと……」
気遣うティセラに憎まれ口を叩くセディオスであった。
「……ティセラ、手短に作戦を……」
小刻みに震えるルゼリアは、この後の段取りを聞いた。
「わかりました。あちらに着いたら、マナを魔力へ変換して、それをエクリナに注いでください」
ティセラは、さらりととんでもないことを言った。
「その時までには転移門で穴を開けておきますので、エクリナの力でそれを裂いて大きくしてもらってください」
「それが完了したら、《ドロモス》を送ります」
一気に作戦内容を伝えた。
「……無茶な指示ですが……何とかなるでしょう……」
ルゼリアはたどたどしく返事をした。
「で、俺たちは?」
左手にしがみついているライナを見ながら、セディオスは聞いた。
「エクリナとルゼリアの護衛です。二人とも魔法式構築で動けないでしょうし、《ガルダ》には巨獣と戦ってもらいます」
その声は、冗談抜きに重要な役目を託していた。
「そりゃ、わかりやすい。わかったかライナ?」
セディオスは笑い、ライナは必死に頷いた。
「向こうについたら連絡ください……ご武運を」
ティセラは次の行動に移るため、通信を切った。
無茶の重ね掛けのような作戦だった。
それでもやるしかない。三人を乗せた《ガルダ》は、ミラネリオンへ一直線に空を裂いていく。




