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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第十一章:巨獣たちの咆哮

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◆第283話:魔力を喰らう獣、反攻の糸口◆

幻環山ミラネリオン――

その中央部にそびえる『星楔樹エトワコル』を訪れるため、フォルネアとアークの使節団はここまで来ていた。

だが、ようやく辿り着いたその中央部で、彼らは窮地に立たされていた。

世界の誰も知らぬ巨獣が、一団の守護たるエクリナへ迫っていた。

「何故だ……何故、我らの極大魔法が効いておらん……魔法が効かないとでもいうのか?」


エクリナは、先ほどよりも活気づいた巨獣を前に考え込んだ。

明らかに歩調は軽く、歩む速度が上がっていた。


ズシン――ドシン――と小気味に歩くようにすら見えた。


「こうなれば……乱れ撃ちだ! 有効打を見つけるぞ、サクネ!」


隣の影人形――サクネに指示を出す。

その声は、ほのかに仲間にみせる声色であったと影は認識し、微笑んだように見えた。


「ディメンション・スライス! フェイズ・チェイン! スペース・ランス!」

エクリナは《ノクタルシア》の効力を活かすため、空間魔法を中心に放つ。


「シャドウ・バレット シャドウ・グラトニー シャドウ・ランス」

一方、サクネは元より秀でている闇魔法中心で相対した。


巨獣に対して――


不可視の刃が幾重にも走り、半透明の枷と鎖が脚へ絡みつく。

さらに透明な魔槍が降り注ぎ、闇の魔弾と黒き手が巨体へ食らいついた。

単体で見れば低級と中級の魔法群。だが手数だけなら、一個師団すら呑み込める。


しかし――


巨獣、ドラコタスはヘビのような触手でそれぞれの魔法を噛み、吸い、大口を開けて飲みこんでいく。

まさに捕食――そうとしか言い切れない光景がエクリナとサクネの目の前で行われていた。

食するたびに背中の魔晶が煌めいて、光を溜めているようにも見えた。


「……なるほどな……魔を喰らう魔獣か……まるで魔術師殺しだな……」


自身の天敵ともいうような言葉を紡ぐエクリナ。

そして――不敵に嗤う。


「で? その胃袋はどこまで飲み込めるのだ?」

「背負った巨大な魔晶は既に輝きが強くなっておるぞ? 限界は近そうだな……」


初めて目視した時よりも明らかに眩い魔晶を睨み、嗤っていた。

ため込める魔力はさほど多くない、と。


「我の魔力はよほど旨いらしいな……ならば、さらに喰らえ!!」


「セリクラヴィス!」

「セリクラヴィス」


エクリナとサクネは声を重ね、同じ高位魔法を叫ぶ。

対象の周辺を囲い、束縛し、一気に杭で貫く魔法を。


「ギャオオ!!」


ドラコタスはあたりを見渡し、驚愕する。

更に放たれる無数の空間圧縮の杭に抵抗を始める。


触手をけしかけ、捕食、巻き付く。

高密度の魔力の塊、勿体ないとばかりになるべく食事は行う。

そのたびに背中の超巨大な魔晶は輝きを強め、いつしか太陽に負けないほどの輝きを蓄え、放出していた。


エクリナはニタリと嗤う。

口角を上げ、獲物をしとめたような顔をしていた。


想定では、これで終わりだった。

だが――魔晶の森で生まれ育ち、突然変異したドラコタスに、そんな常識は通じない。


満腹になってなお、周囲にはまだごちそうがある。

ドラコタスは大口を開いた。


パアアァァァァ―――

超巨大魔晶が一層輝く、爆発前のような輝きであった。


しかしそれに続くは――ゴオオオォォォーーーーーーーーー!!

口から放たれる魔力の砲撃であった。


空間の檻を砕き、魔力砲撃がエクリナへ迫っていく。


「!?」


勝利を確信していたエクリナは驚くが、即座に漆黒の円盾を前面に出し防御する。

(逃げれば、皆が!!)


背後に護るべきものを背負ったエクリナは逃げることすら許されなかった。

口から放たれた魔力砲撃が、正面から空間壁を削り続ける。

幾重にも巡らせた障壁は砕け散り、サクネが隣でさらに重ね掛けしていく。


あまりの衝撃に脚はめり込み、少しずつ押されていく。


「ぐうぅぅぅーーーー! まだまだ!!」


歯を食いしばり耐えるエクリナ。

咆哮ひとつで小さな島ひとつすら消し去る一撃を耐え抜く。


ひと時して、ようやく収まった。

ドラコタスが背負う超巨大な魔晶の輝きは鈍くなっていた。


「はあ……はあ……」

「そうか、そうか……ここまで愚弄されたのは初めてだなァ!!」


エクリナは巨獣に負けじと咆哮した。


 * * *


たびたび《ヴォトカスト》が振り返り、エクリナが戦う姿が工房内に映し出されていた。

ドラコタスがブレスを吐いた際には、襲い掛かる魔獣は逃げていたが、皆はエクリナの背をずっと見護っていた。

それは、逃げられない想い、仲間と共に散るという覚悟のようにもみえた。


「間違いないですね……魔法……いえ、魔力を喰らってます……」

ルゼリアは目を見開き信じられないという弱々しい声で報告していた。


「魔法が通じない生物……」

「……」


イーサリはうつむき、ブツブツと何かを発していたが、誰にも聞こえていなかった。


「どうしよう! 王さまがやられちゃうよ!」

「ここから遠いのか……何か手立てはないのか!」


ライナとセディオスは声を荒げる。

愛する王が、かけがえのない存在が、遠い地で危機に瀕している。

それを見届けるしかないことに身を焦がす思いであった。


「……そうだな、それしかないだろうな……」


その最中、イーサリが顔を上げた。


「考えがまとまった……あの巨獣には物理攻撃しかない!」

「見たところ、背の魔晶が胃袋代わりだ、あれを砕けばただのトカゲと変わるまい」


イーサリは考察の結果を告げた。


「問題は最速でどうやって行くかだ。《ガルダ》だけではなく、《ドロモス》の力も必要だが……ティセラ嬢、妙案はないか?」


「転移門はまだ使えません……エクリナがいないと転移は……」


対抗策は見えた。だが、移動手段がない。

ティセラは唇を噛んだ。


「? あの門は未稼働なのですか? 館の魔法式を転用すれば――」

ルゼリアはその声を不思議がっていた。


「同じ構築を使ってます。ただ、魔晶では力不足、マナの強大な力を使わなければならないので手を加えていますが……」

掛けられた言葉に被せるように、ティセラは画面を切り替え、転移門への魔法式を見せた。


映し出された魔法式を一瞥したルゼリアは、すぐに眉を寄せた。

数息だけ沈黙し、やがて断言する。


「三行目と四行目に少し誤りがありますね。出力不足になってますよ」

「このように描く方が正解かと」


ルゼリアは手近な紙の裏にスラスラと魔法式を書き、ティセラに渡す。


「……」


ティセラはそれを受け取り、すぐに確認する。背後ではイーサリも覗き込んでいた。

二人が構築した魔法式。


自信はあったのだが――


「「……合ってる」」


同時に出る言葉はおのれの間違いを示す言葉であった。


「これならば爆発したのも納得です……」

「マナ不足なのに、無理に裂け目を拡張すれば……当然の帰結だな」


鮮やかな指摘に少しだけ自身を攻めたが、もう時間はなかった。

画面の向こうのエクリナと影人形は囮となり、誘導に出ていた。

せめて、護るべきものから距離を放したいという行動に見えた。


「でも、原因は分かりました……なら!」


抱えていた問題が解決し、ティセラの目には光が戻っていた。

そして、二人へ顔を向ける。


「イーサリさん、師匠……」


頭の中で作戦を練るティセラは、二人の名を静かに呼んだ。


「……どうする?」

「……やりたいことを言え」


気遣うようにイーサリとガンゴは指示を待った。


「イーサリさん、アーク内のありったけのマナ収集機とマナ補充機を集めて持ってきてください」

「師匠、すべての魔力導管を《ガルダ》に使った魔力濃縮導管に交換、もしくは改造してください」


「一刻もありません、三十分以内でお願いします!!」


あまりにも無理難題を押し付けるティセラ。

最後に懇願するように頭を下げた。


イーサリとガンゴは笑う。

「「その程度ならば!」」と、返した。


「ここに居る半数は、小生と共にマナ研究所に行くぞ! トカゲ車もありったけ集めろ!」

「お前ら、正念場だ! 術具士の本領を今こそ見せろォ!!」


イーサリとガンゴの怒声が工房内に響き渡った。

一部始終を見ていた術具士たちは、一糸乱れぬ動きで持ち場へ散った。


「ありがとうございます!」


ティセラは礼を言い、再び頭を下げる。

セディオス・ルゼリア・ライナも同時に頭を下げていた。


すぐさまティセラは制御術具を離れ、《ガルダ》の起動レバーを下ろす。

大鷲の双眸に魔法陣が浮かび、雄たけびが上がる。


「セディオス、ルゼリア、ライナ。もうこれしかありません……三人はガルダに乗ってエクリナの元に行ってください!」


突拍子もないことを言い放つティセラの目は本気だった。

エクリナたちの救出劇がここから始まる。


次回は、『6月21日(日)13時ごろ』の投稿となります。

引き続きよろしくお願いします。


本日もお付き合いいただきありがとうございました!

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